アブソリュート・エゴ・レビュー

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古畑任三郎ファイナル第3夜 - ラスト・ダンス

2006-01-17 23:50:51 | テレビ番組
『古畑任三郎ファイナル第3夜 - ラスト・ダンス』 三谷幸喜脚本   ☆☆☆☆

 古畑ファイナルのファイナル、『ラスト・ダンス』。これで本当に古畑は終わりなのだろうか。だとしたら寂しい限りである。

 最終話のゲストは松嶋奈々子、双子の姉妹の二役であり、かつ被害者と加害者の二役である。ここから下ネタばれあり。

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 姉がもみじで妹がかえで。姉が内向的、妹が外向的。共同脚本家の話ということでコロンボの『構想の死角』を連想するが、今回は意図的に外したのか、殺すのは内向的な執筆担当のもみじで、殺されるのがかえで。それにかえでもプロットを考えるし執筆することもあるなど、『構想の死角』の設定とはかなり違う。

 さて、双生児トリックということで、殺人の前にもみじとかえでが入れ替わる。服を交換しようとする仕草の描写があり、「まったく気づいてないみたい」のセリフがあり、また古畑の黄色いコートに気づかない描写がありで、十人中九人はここで姉妹が入れ替わったことに気づくはずだ。ところが、実際に入れ替わる場面はなく、妙にぼかしてある。ここで私は考えた、ははあ、これは入れ替わったと見せかけて実は入れ替わっていないのではないか、と。そして古畑の推理癖を熟知しているかえでは、巧みにニセの手がかりをばらまき、自分がもみじだと思わせることによって不可能犯罪を演出しようとしているのではないか、と。あの内向的だったもみじがかえでの代役を完璧にこなすシーンを見て、私はますます確信した。やはりこれはかえで本人に違いない。これは裏の裏をかく相当に巧妙な脚本だ、凄いぞ。

 しかし、すべては私の考えすぎだった。二人はやっぱり入れ替わっていて、もみじが犯人だったのだ。第1夜の『今、甦る死』があまりに巧妙な脚本だったので、どうも深読みする癖がついてしまった。

 というわけで、結果的に今回の話はストレートな双子の入れ替わりトリックだったが、このエピソードの力点はトリックよりも動機の切なさに置かれている。それは冒頭の古畑の説明からも分かる。それに、珍しく苦悩する古畑の姿が最終回の悲劇性を盛り上げる。古畑はかえでに恋をしていたのだが、そのかえでの面影を当然ながらもみじに投影してしまい、かつもみじの哀しさを理解し、ますます苦しむことになる。

 ミステリとしてはどちらかというと弱い。もみじがかえでのふりをしていた、ということがばれた瞬間に事件は終結する。まあそれはそうならざるを得ないのだが、入れ替わりトリックのせいで問題の難度はかえって低くなってしまった。なんせ殺人を立証する必要がほとんどなくなり、単に入れ替わり(被害者が実は生きていた)を立証すればよくなってしまったのだから。

 しかし本エピソードはもみじの切なさ、古畑の哀しい恋を描いて秀逸であると思う。そして自白の後、古畑は小早川ちなみのことに言及する。その孤独がもみじと似ていると言って。小早川ちなみは『警部補・古畑任三郎』の記念すべき第一話の犯人である。これで第一話と最終話が結びつき、古畑シリーズの終結が切なく、強く印象づけられる。

 小早川ちなみは古畑シリーズの中でも特殊な存在感を持つ犯人であり、その後のエピソードでもさかんに言及される。彼女の猫を古畑がひきとったり、無罪になったことやアメリカで結婚したことが会話の中で知らされたり、古畑が結婚式の披露宴だか二次会だかに出席したり、という具合である。また古畑が彼女のことを非常に気にかけていた描写もあり、小早川ちなみが古畑シリーズにおいて特別な意味を持つキャラクターであることは明瞭である。それが古畑の恋なのかどうかは、私の知る限りでははっきりした描写はなかったような気がするが、まあここまで引っ張るからには恋なのだろう。そしてこの最終話のもみじは間違いなくちなみの再来だ。そして最終的に幸福になったちなみの存在が、古畑に確信を持ってこう言わせる。「人間は、生まれ変われます」

 三谷幸喜がどこまで先を読んで小早川ちなみというキャラクターを作りこんできたのか知らないが、それが見事に生かされた最終話だったと思う。しかし古畑というのも哀しい男で、小早川ちなみに恋していたとしたら別人と結婚されてしまうし、かえでに恋したと思ったら殺されてしまう、というかそれ以前にかえでは彼を利用していただけだった。ここで、かえでが本当に古畑に好意をもっていたという設定も可能だったと思うが、そこが古畑という男の愚直さ、不器用さということだろう。

 それにしてもコロンボ好きの私にとっては長らく楽しませてもらった貴重な番組だった。これでシリーズが終わってしまうのは本当に残念である。


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