アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

残菊物語

2012-04-30 21:41:40 | 映画
『残菊物語』 溝口健二監督   ☆☆☆☆  溝口監督の初期作品を鑑賞。1939年の映画である。古い。が、それにしては2時間半と長い。物語は典型的メロドラマである。いわゆる「芸道三部作」の一つで、歌舞伎役者である夫に献身して出世させ、自分は病死してしまう妻の物語。ああ、なんと悲しい。最後は人々から喝采を浴びる夫の姿と、貧乏長屋のせいべい布団の上で息を引き取る妻の姿が対置されて終わる。  メロドラ . . . 本文を読む

私人―ノーベル賞受賞講演

2012-04-28 12:07:39 | 
『私人―ノーベル賞受賞講演』 ヨシフ・ブロツキイ   ☆☆☆☆☆  ヨシフ・ブロツキイのノーベル賞受賞講演の記録。ブロツキイの『ヴェネツィア』は私のオールタイム・ベストの一つなので、興味をひかれ入手してみた。ものすごく薄っぺらい本であっという間に読める。が、この内容の濃さはハンパじゃない。  駆使される流暢かつ精密ななレトリックはさすが『ヴェネツィア』の作家で、淡々と、しかし丁寧につむがれる言 . . . 本文を読む

転校生

2012-04-26 23:56:47 | 映画
『転校生』  大林宣彦監督   ☆☆☆★  大林監督は『異人たちとの夏』が好きで(泣いてしまうのであまり何度も観ていないが)、それ以外にも「尾道三部作」などで、ノスタルジーと甘美なリリシズムが溶け合った独特の世界観を持つ映像作家というイメージがある。が、その初期の代表作である『転校生』をちゃんと観たことがなかったので、「日本映画史上に残る大傑作」とのAmazonの紹介文に惹かれたこともあり、DV . . . 本文を読む

ホッグ連続殺人

2012-04-24 23:28:57 | 
『ホッグ連続殺人』 ウィリアム・L. デアンドリア   ☆★  子供の頃に斜め読みして「つまらない小説だなあ」と思ったのだが、傑作という評判を時々聞くので、この歳になってあらためて読み返してみた。そしたら、やっぱりつまらなかった。アメリカ探偵作家クラブ賞とやらをもらっているらしいが、「なんでだよ!?」と問い詰めたい気分である。  主要な不満は二つある。まず、最初の方をちょっと読んだ時点で全体の . . . 本文を読む

イン・ザ・フレッシュ

2012-04-22 20:19:24 | 音楽
『イン・ザ・フレッシュ』 ロジャー・ウォーターズ   ☆☆☆☆☆  元ピンク・フロイドの頭脳、ロジャー・ウォーターズのライヴ。もともとCDで持っていて愛聴していたが、このたびめでたくDVDも購入した。実はピンク・フロイドの『Pulse』と一緒に買って見比べるという贅沢をしたのである。  音だけ聴くのと映像を見るのとではやはり印象が違う。ピンク・フロイドのステージはとにかく豪華絢爛で、スペクタク . . . 本文を読む

ありきたりの狂気の物語

2012-04-20 23:59:17 | 
『ありきたりの狂気の物語』 チャールズ・ブコウスキー   ☆☆☆☆★  ブコウスキーは続けて何冊か読むと飽きてくるが、久しぶりに読むと必ず面白い。とにかくすべてが破天荒で、この突き抜けっぷりはやはり才能だろう。『町でいちばんの美女』という短編集も出ていて、冒頭に収録されている表題作が破天荒かつ哀切なので、初めてブコウスキーを読む人にはこっちの方がお薦めだ。本書は基本的な肌触りは一緒だが、ムチャク . . . 本文を読む

黒い画集 第二話 寒流

2012-04-18 21:31:01 | 映画
『黒い画集 第二話 寒流』  鈴木英夫監督   ☆☆☆☆  松本清張原作映画をDVDで再見した。これは原作の小説(短編)が面白かったので映画も観たいと思ったものの当時はDVDがなく、その後発売された時にすかさず買ったのである。実になんとも嫌な、松本清張らしい、イタイ話である。要するに上司に女を取られる話だ。あー嫌だ。  銀行の話である。銀行の人には悪いが、日本の銀行というものの封建的な体質につ . . . 本文を読む

雷鳴の館

2012-04-15 21:55:49 | 
『雷鳴の館』 ディーン・R・クーンツ   ☆☆☆★  休日の夕方に一気読み再読。これはクーンツがリー・ニコルズ名義で発表したものである。娯楽小説の職人クーンツの完全なるジャンル小説だ。女性読者向けに書かれたということで、サスペンス・ホラー+ハーレクィン・ロマンスみたいな雰囲気である。B級エンタメ臭ぷんぷんだ。が、たまにマクドナルドのチーズバーガーが食べたくなるのと同じで、こういう小説を読みたくな . . . 本文を読む

日の名残り(映画)

2012-04-14 11:48:45 | 映画
『日の名残り』 ジェームズ・アイヴォリー監督   ☆☆☆★  英語版DVDで鑑賞。傑作という評判をきいて観たが、確かにいい映画だった。原作の素晴らしさに感動した身からすると物足りなく感じてしまうが、これはもう仕方がない。あの原作と比較されるというのはあまりにも過酷なハンディであり、絶対絶命である。勝てという方が無理だ。  映画はダーリントン・ホール売却の場面から始まるが、これは小説にはない。こ . . . 本文を読む

彷徨う日々

2012-04-12 10:59:51 | 
『彷徨う日々』 スティーヴ・エリクソン   ☆☆☆☆  再読。幻想文学の鬼才エリクソンの処女作である。  処女作といっても、後のエリクソンとまったく変わらない、混沌とした、情念と妄想に満ちた世界が繰り広げられる。この人はもう生まれつきこうなのだなあ、と思わずにはいられない。テクニックで書いているのではないのだ。  あえて言えば仕掛けのスケールは後の作品の方がでかいような気もするが、この作品で . . . 本文を読む