『赤線地帯』 溝口健二監督 ☆☆☆☆☆
クライテリオンの『Kenji Mizoguchi's Fallen Women』パッケージ中の一枚、『赤線地帯』を再見。これが溝口監督の遺作である。とにかく凄い。強烈だ。観るのは二回目だが、観終わったあと思わず「すごいなあ…」とため息が漏れた。それはもちろんすごい傑作という意味と、あまりにもオソロシイ話という意味の両方である。冒頭の音楽からしてわけ分 . . . 本文を読む
『象牙の塔の殺人』 アイザック・アシモフ ☆☆☆★
SFの巨匠アシモフが書いた長編ミステリ。アシモフはSFだけでなく、短編シリーズ『黒後家蜘蛛の会』のようにミステリ作品も書く人で、そもそもファウンデーション・シリーズにしてもロボットものにしても非常にミステリ色が濃い作風が特徴である。だから純然たる長編ミステリを書いてもまったく違和感はない。ただし、彼が書いたSF抜きの長編ミステリは、これと . . . 本文を読む
『ライフ・イズ・ビューティフル』 ロベルト・ベニーニ監督 ☆☆☆☆
ブルーレイで初見。公開当時の評判やタイトルや映画のポスターなどから、典型的なヒューマニズム感動もの、家族愛ものだとずっと思っていたが、実際観るとかなりアクが強い映画で、イメージが覆った。前半はほとんど、というか完全なドタバタ・コメディである。リアリティ皆無、ほとんどコントだ。主人公グイド(ロベルト・ベニーニ)は常に早口で喋 . . . 本文を読む
『殺し屋』 ローレンス・ブロック ☆☆☆★
初ローレンス・ブロックである。本書は殺し屋ケラーの仕事ぶりを淡々と描く連作短編集。伊坂幸太郎が推薦の言葉を寄せているが、確かに似たところがある。あそこまで荒唐無稽でもおふざけでもないが、リアリズムでもなく重厚でもなく、感情過多でもなく、軽さと洒脱とアイロニーで読ませる殺し屋小説だ。
たとえばトム・ウッドの『パーフェクト・ハンター』では、主人公 . . . 本文を読む
『ラストエンペラー』 ベルナルド・ベルトルッチ監督 ☆☆☆☆
ご存知、ジョン・ローン主演、坂本龍一がアカデミー音楽賞を受賞した『ラストエンペラー』を日本版ブルーレイで鑑賞。なんでも米国クライテリオンのブルーレイは画面サイズがオリジナル劇場版より狭くトリミングされているそうで、だからわざわざこの日本版ブルーレイを購入した。またこのブルーレイには218分のノーカット全長版も収録されている。
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『白い僧院の殺人』 カーター・ディクスン ☆☆☆
密室ものの大家ディクスン・カーがカーター・ディクスン名義で書いた有名作品。今回初読。なぜ本書が有名かというと、いわゆる「雪の密室」の典型的作品だからである。雪の密室とはつまり、殺人現場のまわりには雪が積もっていて犯行時点ではもう止んでいた。にもかかわらず、現場に出入りした犯人の足跡がない! んな馬鹿な! という状況のことで、本書はまさにその . . . 本文を読む
『サイダーハウス・ルール』 ラッセ・ハルストレム監督 ☆☆☆☆☆
ラッセ・ハルストレム監督の映画が妙に好きだ。といってもこれまで代表作とはいいがたい『シッピング・ニュース』ぐらいしか観たことがなかったので、このたび世評の高い『サイダーハウス・ルール』をブルーレイにて鑑賞。美しい。これは美しい映画である。美しく、そして残酷だ。
基本的に、とても痛ましい物語である。最初に孤児院が出てくる。 . . . 本文を読む
『警視庁草紙(上・下)』 山田風太郎 ☆☆☆☆★
山田風太郎の「明治もの」を再読。私はこれまで風太郎の忍法帖はたくさん読んだが、明治ものはまだこれしか読んでいない。他にどんな作家がこの時代を舞台にした小説を書いているか知らないが、少なくとも私はほとんど読んだことがなく、従って非常に風変わりな小説に思える。ユニークさの理由は主に明治時代独特の和洋折衷ムード、時代劇と現代劇のあいのこみたいなス . . . 本文を読む
『ROMANTIQUE』 大貫妙子 ☆☆☆☆
大貫妙子4枚目のソロ・アルバム。いわゆる「ヨーロッパ三部作」の一作目であり、前作『MIGNONNE』の制作後「もう音楽を仕事にするのはやめよう」とまで思いつめ、二年間沈黙した大貫妙子が再生し、いわばアーティスト・大貫妙子として開眼した記念碑的作品である。実際に歌い方もはっきりと変化し、彼女自身が心理的な変化があったこと、この作品で自分の居場所を . . . 本文を読む
『繁栄の昭和』 筒井康隆 ☆☆☆☆
筒井康隆久々の新作短編集を読了。いやまったく、小説を読む快感と愉悦をここまで感じさせてくれる短編集、そして作家は珍しいんじゃないだろうか。ひところの「凄み」はある程度薄れ、リラックスした心地よさが漂っていて、そういう意味ではこれより高品質な短編集はあるだろうし、これより感動的な小説もたくさんあるだろう。が、読む愉悦という意味では独特のものが筒井康隆にはあ . . . 本文を読む