アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

クライム・オブ・ザ・センチュリー

2007-02-28 21:31:30 | 音楽
『クライム・オブ・ザ・センチュリー』 スーパートランプ   ☆☆☆☆  『ブレックファスト・イン・アメリカ』が売れに売れたスーパートランプだけれども、芸術性から言うとこの『クライム・オブ・ザ・センチュリー』がおそらく最高傑作だろう。これは彼らの三枚目のアルバムだが、その前の垢抜けない朴訥さを漂わせた二作とは打って変わり、ほとんど別のバンドのような緻密でインテリジェントなプログレ寄りの音楽を完成さ . . . 本文を読む

ラルジャン

2007-02-26 19:06:19 | 映画
『ラルジャン』 ロベール・ブレッソン監督   ☆☆☆☆★  DVDで鑑賞。ブレッソン監督の映画を観るのは初めてだった。これが遺作らしいが、ずいぶんとへんてこりんな映画を撮る人だ。  物語はまあ伝統的なスタイルだと言えるだろう。原作はトルストイだし。要するに、善良な一市民だった男がたまたま贋札をつかまされたばっかりに失業し、投獄され、妻と別れ、子供は死に、自殺未遂をし、出所したあと衝動的な殺人を . . . 本文を読む

砂の女

2007-02-24 13:52:48 | 
『砂の女』 安部公房   ☆☆☆☆  安部公房の名作を再読。昆虫採集に出かけた男が砂に埋もれたアリジゴクのようなにつかまり、女一人が住む砂の穴の中にあるおんぼろ小屋に幽閉され、なんとか脱出しようと苦闘する物語である。  冒頭で男の失踪と、七年後に死亡扱いになったことが淡々と記述されるので、男が戻らなかったこと、つまり逃げ出せなかったことは最初から分かっている。だからいかに脱出するか、脱出で . . . 本文を読む

無法松の一生

2007-02-22 20:25:52 | 映画
『無法松の一生』 稲垣浩監督   ☆☆☆★  昔の日本映画を観るシリーズ第五弾は『無法松の一生』。これは同じ監督によるリメイク作品で、オリジナルは阪東妻三郎主演のモノクロ作。二箇所ほどカットされたのが無念でまた作ったらしい。よっぽど悔しかったんだろうな。  本作品はヴェネチィアでグランプリ受賞という折り紙付きだが、阪妻主演のオリジナルの方が評価は高いようだ。そっちも観たいが、高価な阪妻ボックス . . . 本文を読む

亡国のイージス

2007-02-20 19:32:00 | 
『亡国のイージス(上・下)』 福井晴敏   ☆☆☆☆★  『終戦のローレライ』と同じくやっぱり映画化された本書を読了。『ローレライ』同様、王道エンターテインメントの傑作である。ファンタジー色のあった『ローレライ』に比べ、時は現代、自衛官の反乱を物語の骨子とする本書の方がより硬派な感じだ。  映画も観たが、やっぱり原作の濃度の十分の一も伝え切れていなかった。これも『ローレライ』と同じく、さまざま . . . 本文を読む

ether[エーテル]

2007-02-18 16:02:20 | 音楽
『ether[エーテル]』 レミオロメン   ☆☆★  『粉雪』という曲がなかなか好きで最近カラオケで歌ったりするようになり、評判がいいらしいこのCDを購入した。『粉雪』もメロディはいかにもJ-POPだが、ザクッとしたギターサウンドは結構悪くない。あと、私はスリーピース・バンドに弱い。  聴いたみたところ、確かにキャッチーなメロディの曲が多くて売れるのは分かる。分かりやすい明快なメロディはちょ . . . 本文を読む

最後の診断

2007-02-16 21:03:25 | 
『最後の診断』 アーサー・ヘイリー   ☆☆☆☆  再読。アーサー・ヘイリーというとホテルや銀行や自動車工場など、特定の機能をもった企業や組織を小説の舞台にし、舞台にするだけでなくそのメカニズムや運用や問題点を生かしてストーリーを作ることで有名な人だが、本書の舞台は病院である。病院が舞台の小説というのは『白い巨塔』やクライトンの『緊急の場合は』など色々あるが、やっぱりヘイリーが書くと一味違う。治 . . . 本文を読む

しとやかな獣

2007-02-14 01:14:02 | 映画
『しとやかな獣』 川島雄三監督   ☆☆☆☆  昔の日本映画を観るシリーズ第四弾、『しとやかな獣』。今回はカラー作品である。若尾文子主演。  若尾文子というのが一世を風靡した美人女優だとは知っていたが、実際に主演作品を観たのは初めてだった。確かに綺麗な人だ。映画の前半では洋装、後半は着物で、ヘアスタイルも変えて登場するが、前半の顔の片側に髪を垂らしたスタイルはとても妖艶。実際目の前にいたらすご . . . 本文を読む

浮雲

2007-02-12 18:51:01 | 映画
『浮雲』 成瀬巳喜男監督   ☆☆☆☆☆  昔の日本映画を観るシリーズ第三弾は、溝口監督『西鶴一代女』に続いてこの映画、成瀬監督の『浮雲』。これもモノクロ。  成瀬巳喜男監督というのはなんとなく名前は知っていたがどういう映画を撮る人かは知らなかった。この映画は成瀬監督の集大成であり、日本映画における名作中の名作、と言われているらしい。DVDに入っている解説では、映画評論家が「日本映画史上に燦然 . . . 本文を読む

芝生の復讐

2007-02-10 17:52:02 | 
『芝生の復讐』 リチャード・ブローティガン   ☆☆☆☆★  ブローディガンの短篇集を再読。比較的長いものもあるが、1、2ページの短い短篇も多い。  ブローディガンの書く短篇は詩的で、軽やかで、ユーモアがあり、独特の抽象的な感性に貫かれている。エッセー風、寓話風、箇条書き、など多彩なスタイルを駆使するが、スケッチ風の断片的なものが多い。そういうところはドナルド・バーセルミに似ている。バーセルミ . . . 本文を読む