アブソリュート・エゴ・レビュー

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Live and Let Live

2018-08-23 21:55:35 | 音楽
『Live and Let Live』 10cc   ☆☆☆★

 10ccが1977年にリリースしたライヴ・アルバム。『愛ゆえに』発表直後のライヴで、だからセットリストも『愛ゆえに』からの曲主体で組み立てられている。オリジナル・メンバーであるケヴィンとロルが脱退し、エリックとグレアムと補充メンバーで再出発を図ったアルバムが『愛ゆえに』なので、このライヴはその再出発メンバーによるライヴ盤ということになる。これが10ccが初めてリリースしたライヴ盤だが、貴重なオリジナル・メンバーによるライヴは『King Biscuit Flower Hour Presents in Concert Live』として後に発売されている。

 さて、メンバーを入れ替えた10ccは当然ながら音楽性が大きく変化しており、それは『愛ゆえに』で顕著に見られたコンパクトなラブソング路線への傾斜と、実験的なサウンド・ギミックからシンプルなバンド・サウンドへの変化ということになるだろうが、このライヴ盤も当然ながらその変更を如実に反映した演奏となっている。リード・ヴォーカルをとるのはほぼエリックとグレアムの二人、演奏は基本的にギター、ビアノ、ペース、ドラムというシンプルな編成で、たまにオルガンが入る程度。謎の楽器ギズモはもちろん、シンセサイザーさえあまり使われていない。

 ということで、初期10ccの魅力であるあの万華鏡のようにカラフルなサウンドを期待すると物足りない。ただしケヴィンとロル込みのオリジナル・メンバーでも、生演奏であのスタジオ盤のサウンドは再現できていなかったことは考慮してあげないと不公平だろう。

 で、その代わりといってはなんだが、バンドの職人的な演奏力はメンバー増強でアップしている。ダブル・ドラムスでリズム面は強化され、ほぼ全員がヴォーカルをとれるためコーラスは分厚い。また、大部分の曲でリード・ヴォーカルをとるエリックの歌唱はとても安定していて、まったく危なげがない(グレアムは多少危ない)。だからもともとギミックを排した『愛ゆえに』の楽曲はほとんど完璧に再現されているし、「I'm Mandy Fly Me」のようなオリジナル10ccの曲も、(サウンドが無骨に聴こえてしまうのはさておき)コーラスはとても美しい。それに「Ships Don't Disappear in the Night (Do They?)」や「Waterfall」のような初期の曲では途中でアレンジやテンポを変えたりと、演奏力には自信があるぞというところを見せている。

 それにしても、そんな風に演奏力は悪くないのだから、個人的にはもっと音色やミキシングに気を使って欲しかった。素直な録り方をしているのだろうが、音に広がりがないので演奏がとてもこじんまりして聴こえる。ギターやドラムの音も地味だ。シアトリカルな変幻自在な音楽性が売りのバンドなのだから、そこは大事にして欲しかった。このアルバムもミキシングによってはかなりイメージが違ってくるはずだ。似たようなタイプのバンド、たとえばスーパートランプやジェリーフィッシュのライヴ盤ではそのあたりが巧みで、音の華やかさが損なわれていない。それを考えると、この貴重な10cc絶頂期のライヴ盤がなぜこんな地味なのか、と残念でしかたがない。

 思いきり私の趣味を言わせてもらうと、もっとギターサウンドをエッジーにして欲しかった(それが10ccサウンドの要なのだから)し、これだけ分厚いコーラスを聴かせているのだからもっと立体的でスペーシーなミキシングにして欲しかった。ジェリーフィッシュのライヴなんて、たった四人のコーラスなのにはるかに華やかに聴こえる。
 
 まあ、ケヴィンとロルの声がないのはさみしいが、それは言っても始まらない。ただ、「Art for Art's Sake」をリック・フェンがだみ声で歌うのは止めて欲しかった。ラストの曲は当然の如く「I'm Not in Love」で、ここだけはあのスタジオ盤のマルチトラック・コーラスがそのままテープで流れてくる。やはりこの曲は美しい。エリックのヴォーカルもスタジオ盤より透明感がある。一方で、アルバム『愛ゆえに』のキー曲である「The Things We Do for Love」は、なんとも凡庸な演奏である。

 総合すると、10ccの魅力を十分に伝えているとはいいがたいライヴではあるが、彼らのファンにとっては楽しめるアルバムだと思う。敢闘賞というところだろう。

 ところで、10ccは『愛ゆえに』期がそれまでの反動からかもっとも素朴なサウンドを奏でていて、その後『ブラディ・ツーリスト』以降はまた多少揺り戻して音の多彩さが戻ってきている。ダンカン・マッケイというプログレ畑のキーボーディストも入ってテクニカルな演奏を繰り広げていたはずなので、この時期のライヴ盤を聴いてみたいと昔から思っているのだが、いまさら発掘音源が出てくるなんてことはないかなあ。



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