『湖底の光芒』 松本清張 ☆☆☆★
『ミステリーの系譜』と一緒に買った松本清張本を読了。こちらは長編小説である。清張作品の中では一級品の部類には入らないだろうが、それなりに読ませる。題材はカメラのレンズ磨き工場で、死んだ夫の跡を継いでこの工場を経営している加須子(かずこ)がヒロイン。かなり美貌の未亡人、という設定である。
物語は発注元の会社の倒産から始まる。最初の場面は債権者会議で、苦 . . . 本文を読む
『福家警部補の報告』 大倉崇裕 ☆☆☆
「刑事コロンボ」の影響を強く受けて「刑事コロンボ」そっくりの倒叙推理小説を書いている作家がいると聞き、これは要チェックと思って一冊入手した。短篇集である。といってもそれぞれ中編程度の長さで、本書には「禁断の筋書」「少女の沈黙」「女神の微笑」の三篇が収録されている。また、これは最初の短編集ではなくシリーズ三つ目の短編集である。なぜ三つ目を選んだかという . . . 本文を読む
『ミステリーの系譜』 松本清張 ☆☆☆★
久しぶりに松本清張の本を購入。これは小説ではなく、犯罪実録もの、つまりルポルタージュである。日本の犯罪史(大正・昭和)の中から特異な事件三つを選び、松本清張が独特の簡潔な筆致でルポする。三篇のタイトルは「闇に駆ける猟銃」「肉鍋を食う女」「二人の真犯人」。
じっくりと調書その他の資料を読み込み、時には丁寧に引用しつつ事件を論じる松本清張のアプロ― . . . 本文を読む
『信長の原理』 垣根涼介 ☆☆☆☆☆
『ワイルド・ソウル』に続いて二冊目の垣根涼介を読了。今度は時代小説というか、歴史小説である。タイトル通り織田信長の話だが、普通の歴史小説とはちょっと毛色が違う。子供時代の信長が「たわけ殿」と白眼視されつつ成長し、父の後を継ぎ、次第に領地を拡大し、日本統一に向かって邁進し、野望達成を目前に本能寺で倒れる、というストーリー展開はまさに信長を描く歴史小説とし . . . 本文を読む
『毒入りチョコレート事件』 アントニイ・バークリー ☆☆☆☆
アントニイ・バークリーの古典的ミステリを久しぶりに再読。最初に読んだのは高校生ぐらいの時だったと思う。中学生の時にエラリー・クイーンの『Xの悲劇』を読んで本格ミステリに激しくハマり、その後しばらくはミステリばかり読み漁っていた私だったが、その私の本格ミステリへの熱を見事に冷ましてくれたのが、何を隠そうこの本だった。まあちょうど本 . . . 本文を読む
『ワイルド・ソウル』 垣根涼介 ☆☆☆☆★
垣根涼介という作家さんの本を初めて読んだ。ミステリや冒険小説や時代小説など幅広くエンタメ小説を書いている人だが、本書は1900年代に日本政府が推進したブラジル移民の話をベースに、日系ブラジル人たちの子孫が日本政府に復讐するという一種のピカレスク・ロマンになっている。ただし、真正の犯罪者を主人公にして人間のダークサイドを掘り下げる馳星周みたいな小説 . . . 本文を読む
『望み』 雫井脩介 ☆☆☆☆
『犯罪小説家』に続いて雫井脩介本を読了。これはまたかなり趣向が違って、ごく普通の家庭を舞台に、重たいテーマをリアリスティックにストレートに描き出した小説である。
主人公の石川一登(いしかわかずと)は自分の事務所を構えている建築家で、妻の貴代美(きよみ)はフリーランスの校正者。二人には高一の息子・規士(ただし)と中三の娘・雅(みやび)がいる。規士はこのところ . . . 本文を読む
『大江健三郎自選短篇』 大江健三郎 ☆☆☆☆☆
私は大江健三郎の大ファンでもないし、いい読者とも言えないが、やはりこのノーベル賞作家の仕事は気になる。だから「作家自選のベスト版短篇集であると同時に、全収録作品に加筆修訂がほどこされた最終定本」などと言われると、これはやはり読まないわけにはいかない。というわけで、このやたら分厚い文庫本をアマゾンで取り寄せた。
大きく初期短篇、中期短篇、後 . . . 本文を読む
『犯罪小説家』 雫井脩介 ☆☆☆
『犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼』が予想以上に面白かったので、続いて雫井脩介の『犯罪小説家』を入手。これはまたかなり雰囲気が異なる小説である。主人公はあるミステリの賞を獲った作家、待居(まちい)。作品が映画化されることになり、エキセントリックな脚本家兼映画監督、小野川に紹介される。小野川はなぜか閉鎖された自殺サイト「落花の会」と自殺した主催者、木ノ瀬蓮美のイメー . . . 本文を読む
『飛ぶ孔雀』 山尾悠子 ☆☆☆★
今年の春に出た山尾悠子の新作を読了。伝説の幻想作家と言われる作者だが、確かにこの人の作品はもはや孤高の趣を漂わせている。この小説もちょっと似たようなものを思いつかない。もはや山尾悠子というジャンルの小説である。ユニークな作家であることは間違いなく、ある意味自分のスタイルをきわめている人だが、私見では、本書を傑作と呼べるかどうかは難しいところだ。
例によ . . . 本文を読む