アブソリュート・エゴ・レビュー

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古畑任三郎ファイナル第2夜 - フェアな殺人者

2006-01-16 14:29:06 | テレビ番組
『古畑任三郎ファイナル第2夜 - フェアな殺人者』 三谷幸喜脚本   ☆☆☆★

 今回のファイナル全三話中、もっとも「企画物」色が強い二話目である。なんせあのイチロー選手が犯人役なのだから。と、多少の警戒感をもって観始めたのだが、イチローの演技がサマになっているので安心した。というか、役者の中にまじって演技をしてても全然違和感がない。それに当たり前だがすごくスターのオーラを放っていて、『古畑任三郎』のゲストとして貫禄充分である。

 しかしイチローが向島の腹違いの弟という設定が笑える。相変わらず三谷脚本はやってくれる。

 イチローと古畑が野球をやったり、サービスシーン満載で楽しいが、ミステリとして見た場合は第一夜の『今、甦る死』よりだいぶ落ちる。最初に古畑がマッチだけを手がかりに推理を展開し、イチローと犯罪を結びつけるあたりはとてもスリリングだった。しかしイチローは今回「フェアな殺人者」ということで、嘘をつかない犯人なのである。だからあっさり被害者との関係を認めてしまう。また話の途中で、被害者に恐喝されていたことなども向島と一緒にどんどん白状してしまう。いくらなんでもこれじゃ面白くない。最初に「やるなら完全犯罪だ」と言っているんだし、証拠隠滅だってやってるんだから、もっと警察を欺く努力をしてもいいんじゃないか。

 嘘をつかない犯人というのは、セカンド・シーズンの沢口靖子犯人のエピソードでもあった。あっちは宗教の戒律のせいで嘘をつけない、という設定で、そのため、嘘をつかないでもアリバイが成立するようにウォークマンで音楽を聴きながら殺人を犯す、というようななかなか面白い趣向の事件になっていた。今回はそこまでひねりはなく、要するにイチローは個人的なポリシーのせいで嘘をつかない、だから何か聞かれたら堂々と本当のことを言う、というだけの話で、ミステリ的なテンションは下がってしまったような気がする。

 最後の詰めは例によってひっかけである。コロンボの『逆転の構図』パターンで、犯行現場に残っていたもの、犯人しか知らないはずのものを確認させるひっかけだ。しかしこれも甘いような気がする。色紙だろうがボールだろうが、適当なものを手に取っただけだという言い訳ができるんじゃないだろうか。

 意地の悪い言い方をすると、とにかく神経質なくらいイチローのイメージを傷つけないように気を使った脚本、だったかも知れない。フェアプレイ、嘘をつかない、そしてすべてを捨てて兄を助けようとする。とにかくあり得ないぐらいカッコイイのである。

 まあしかし、実際イチローはカッコイイ。本業の野球で問答無用の実績をたたき出しつつ、こういう遊び(じゃないかも知れないけどそう見える)も余裕でやってのける。そのイチローが犯人役をやっているというだけで楽しいエピソードだったことは間違いない。イチローの演技も見事だった。脚本どうこうはおいても、とにかくイチローには最高の拍手を送りたいと思う。


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