(前回からの続き)
そして第四のバージョンとして、目撃者である杣売りの証言が登場する。ここまでの流れから予想される通り、このバージョンがもっとも醜悪である。レイプの後、決闘するために多襄丸が侍を解き放つところまでは多襄丸バージョンと同じ。ところがここで侍は、待ってくれ、こんな女のために命を賭けるのはごめんだ、欲しいならくれてやる、と言う。そして愕然とする妻に向かって、なぜ自害をせん、見下げ果て . . . 本文を読む
『羅生門』 黒澤明監督 ☆☆☆☆☆
日本版ブルーレイが驚異的な画質という評判を聞いて購入した。確かにクリアで素晴らしい画質になっていて、ファンとしては嬉しい限りだ。日本の古い映画は今観ると画質が残念なものが多いので、この調子でどんどんリストア版が出るといいなあ。
さて、映画『羅生門』は言わずと知れた黒澤大傑作群の一つで、海外でもヴェネツィア国際映画祭金獅子賞、アカデミー賞名誉賞などを授 . . . 本文を読む
『Grand Piano Cannyon』 Bob James ☆☆☆☆
ボブ・ジェームスがフォープレイ結成前夜に作ったソロアルバムで、ほとんどフォープレイと同じメンツが揃っているし、曲によってはまんまフォープレイである。が、多少は違うところもあって、そこがこのアルバムならではの微妙な味になっている。
第一の違いは、やはりボブ・ジェームスのソロということで彼の鍵盤が主役であり、かつ、タ . . . 本文を読む
『地図に仕える者たち』 アンドレア・バレット ☆☆☆☆
再読。アンドレア・バレットは米国マサチューセッツ州出身の女流作家で、本書は2003年度ピュリッツァー賞の最終候補となっている。何かしら科学を題材にして人間ドラマと組み合わせるのが得意な作家で、おそらく作家本人もアカデミックな知的探究心が強い人なのだろう。作風は堅実で、手堅く、人間の心のひだを丁寧に描く姿勢が印象的だ。
収録されてい . . . 本文を読む
『炎の少女チャーリー』 マーク・L・レスター監督 ☆☆
我が家にApple TVを導入した結果、このところiTunesのレンタル映画を観まくっている。レンタルで映画を観るなんてブロックバスター・ビデオが街中から姿を消して以来である。おまけにわざわざ返却に行く必要がない。これは便利だ。便利過ぎてどんどん観てしまう。いかんなあ。
といいながらスティーヴン・キングで検索したら、この『炎の少女 . . . 本文を読む
『死者の奢り・飼育』 大江健三郎 ☆☆☆☆★
実はこれまで大江健三郎をちゃんと読んだことがなかった。昔『「雨の木(レイン・ツリー)」を聴く女たち』を読もうとしたがノレなくて中断し、内容もまったく覚えておらず、それ以来一冊も読んでいない。ここらでもう一度トライしてみようと思って初期の短篇集である本書を入手してみた。実質、大江健三郎のデビュー作品集である。
冒頭の「死者の奢り」は大学生が解 . . . 本文を読む
『リスボンに誘われて』 ビレ・アウグスト監督 ☆☆☆☆☆
日本版DVDを購入して鑑賞。大好きな俳優ジェレミー・アイアンズが主演、大好きなリスボンが舞台ということで観た映画だったが、期待にたがわぬ芳醇な映画だった。完璧に好みである。
まずは、陽光溢れるリスボンの美しさ。リスボンといえばアントニオ・タブッキの小説でおなじみの地であり、そのせいで私の思い入れが強いのは認めるがそれだけじゃない . . . 本文を読む
『世界はゴ冗談』 筒井康隆 ☆☆☆☆★
筒井康隆の短篇集を読了。『昭和の繁栄』とあまり間をおかずに出たので、軽い趣向のエンタメ的な作品集だろうかと思ったら、まったくそんなことはなかった。筒井康隆らしい濃度の、挑戦的な短篇が並んでいる。老いて尚盛んというか、文学の地平線を切り拓くという気概にますます溢れていて、頼もしい限りだ。一時期『私のグランパ』みたいなジュブナイルを連発していた時期は、や . . . 本文を読む
『亀は意外と速く泳ぐ』 三木聡監督 ☆☆
『虹の女神』『サマータイムマシン・ブルース』に続いて、上野樹里出演作『亀は意外と速く泳ぐ』を鑑賞。Amazonで検索して、カスタマーレビューを参考に買ったのだが、それによれば脱力系のゆるーい笑いという触れ込みだった。そういうのは私も嫌いじゃないのでそこそこ期待したのだが、かなり微妙な結果となった。ちなみにこの監督さんはテレビで「時効警察」などを作っ . . . 本文を読む
『ポオ小説全集4』 エドガー・アラン・ポオ ☆☆☆☆☆
創元文庫のポオ全集第四巻を再読。アタマから最後まで読み通したのは久しぶりだが、やはりポオという作家の異形性というか、他の作家とは明らかに異次元な才能をあたらめて思い知らされる。まあ一言で言うと、天才なのだ。本書はその証である。
何がそう天才なのかというと、まずこのバラエティに富んだ作品群。バラエティといっても、昨今のミステリ作家が . . . 本文を読む