『嵐が丘(上・下)』 エミリー・ブロンテ ☆☆☆☆☆
岩波文庫版で再読。何度読んでも壮絶な物語である。きれいとか感動的とか、端整とか心温まるとかそういう話ではまるでない。異形、凄愴という言葉がぴったりの驚くべき小説だ。この圧倒されるような感覚は一体何なのか。しかしもちろん、こういうものこそが本物の小説の美しさであって、あの岡本太郎画伯も「何だこれは」というものこそが芸術だと言っている。
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『ライヴ・イン・ブカレスト』 マイケル・ジャクソン ☆☆☆★
マイケル・ジャクソン死す。享年50歳。あっという間に世界中を駆け巡った、間違いなくショウビズ界今年最大のニュースである。誰もが思っていることだろうが、このニュースを境に「顔が崩壊している」「猿の惑星」「気持ちわるい」「整形し過ぎ」「白過ぎ」などボロクソに言われていたマイケルが、急に「素晴らしいアーティストだった」「みんなに愛され . . . 本文を読む
『ニードフル・シングス(上・下)』 スティーヴン・キング ☆☆☆★
再読。これは「キャッスル・ロック最後の物語」という副題の通り、キングが初期の作品で舞台としてきた架空の町キャッスル・ロックの崩壊の物語である。初期のスティーヴン・キング・ファンにとっては格別の愛着がある町の名前に違いない。キャッスル・ロックを舞台にした小説というと『スタンド・バイ・ミー』『クージョ』『ダークハーフ』、それか . . . 本文を読む
『秋日和』 小津安二郎監督 ☆☆☆☆☆
小津映画のDVDは日本でも1000円ぐらいの廉価版が出ているが、『秋日和』『小早川家の秋』はまだ出ていない。どうしようかなと思っていたところ、Criterionから出ている『Eclipse Series 3 LATE OZU』というパッケージを発見した。後期の小津映画五つ、『早春』『東京暮色』『彼岸花』『秋日和』『小早川家の秋』がセットになっていてた . . . 本文を読む
『無理』 奥田英朗 ☆☆☆★
奥田英朗の新刊を先週末一気読みした。結構分厚いが、内容的にこれは一気読み本である。
タイトルから分かるように、『最悪』『邪魔』系の小説である。互いに無関係な複数の登場人物がそれぞれの状況の中でだんだんドツボにはまっていき、最後に全員のストーリーが交錯するという例のパターン。帯によれば、『最悪』から10年、『邪魔』から8年たったらしい。編集者から「あのパター . . . 本文を読む
『イースタン・プロミス』 デヴィッド・クローネンバーグ監督 ☆☆☆☆★
日本版DVDで再見。これは『ヒストリー・オブ・ヴァイオレンス』に続いてクローネンバーグとヴィゴ・モーテンセンが組んだ映画で、やはり暴力がテーマである。前作で一見普通の市民、実は殺しの達人を演じたヴィゴ・モーテンセンが、今度は見るからにクールなそのスジの男を演じている。
しかしヴィゴ・モーテンセン、かっこいい。『ヒス . . . 本文を読む
『照柿(上・下)』 高村薫 ☆☆☆★
文庫で出ていたのを見つけて購入、再読。が、私が前読んだのは単行本だったので、正確には初読と言うべきかも知れない。文庫化にあたってかなり改変されているからだ。この作家さんは良くこういうことをやるらしい。
さて、本書は『マークスの山』の合田雄一郎警部補が登場する、シリーズ二作目である。若々しい風貌で気が強く、スニーカーをはき、時々関西弁になるこのキャラ . . . 本文を読む
『砂の器』 野村芳太郎監督 ☆☆☆☆
ご存知、邦画史上に燦然と輝く不朽の名作である。しかしながら私としては、なかなか良い映画であるとは思うものの、最高の傑作とまでは思えない映画なのだった。ただ今回DVDで再見して、昔観た時よりは評価が上がった。初めて観た時は期待し過ぎたせいもあってか、かなりがっかりした記憶がある。
と、こんなことを書くと、この名作の価値が分からんとは、と呆れられるかも . . . 本文を読む
『サトラップの息子』 アンリ・トロワイヤ ☆☆☆☆☆
初めてこの人の本を読んだ。アンリ・トロワイヤは伝記作家として有名な人で、名前だけは知っていたが、もともとはゴンクール賞も受賞している小説家なのだった。名前の響きがなんとなく女性的な気がするが、おじさんである。本書の裏表紙をめくると、眼鏡をかけたマルチェロ・マストロヤンニみたいなトロワイヤの写真がある。
これは自伝的小説で、ロシアから . . . 本文を読む
『エル・スール』 ビクトル・エリセ監督 ☆☆☆☆☆
原作を読んだら当然また観たくなり、エリセ監督の『エル・スール』を再見。私は『ミツバチのささやき』とともに昔出ていた単品のDVDを所有していて、それがひそかな自慢だったのだが、最近日本版のボックスセットが出ているようだ。しかもニュープリントらしい。またすぐ入手困難になってしまうだろうから、とりあえず映画好きは買っておいた方がいいでしょう。
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