アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

海洋地形学の物語

2011-09-29 23:17:18 | 音楽
『海洋地形学の物語』 イエス   ☆☆☆★  イエス6枚目のスタジオ・アルバム。あの大傑作『危機』の次のスタジオ・アルバムであり、それを言うなら『こわれもの』『危機』と続いた名作つるべ打ちの後続であり、また傑作ライヴ・アルバム『イエスソングス』の次のリリース作品でもある。イエスの音楽性、そして人気は当時急カーブを描いて上昇を続けていた。これほどまでにすさまじいプレッシャーと期待感の中で発表された . . . 本文を読む

遠い山なみの光

2011-09-27 22:10:51 | 
『遠い山なみの光』 カズオ・イシグロ   ☆☆☆☆☆  アマゾンでずっと「お取り扱いできません」になっていて読めなかったイシグロのデビュー作を、日本に帰国した時に本屋で見つけてようやく入手できた。と思ったら米国に戻ってきてアマゾンを見ると「在庫あり」になっている。何なんだ一体。  それにしても、これがデビュー作なのだから恐れ入る。作家になるべくして生まれてきた人間っているんだなあ、とつくづく思 . . . 本文を読む

オランダ靴の謎

2011-09-25 12:34:19 | 
『オランダ靴の謎』 エラリー・クイーン   ☆☆☆★  クイーン国名シリーズの『オランダ靴の謎』を再読。  これはシリーズ三作目、『ローマ帽子の謎』『フランス白粉の謎』に続く作品で、国名シリーズの中でも傑作と言われている。人によっては最高傑作という人もいるようだ。非常に明瞭な特色としてはやはり、明晰でロジカルな謎解き、がまっさきに上げられる。エラリー・クイーンのミステリはそもそもロジカルな謎解 . . . 本文を読む

南極料理人

2011-09-23 21:38:38 | 映画
『南極料理人』 沖田修一監督   ☆☆☆☆  DVDで鑑賞。かなり面白かった。個人的には傑作と呼んでもいい。ただしゆるい構成の、単なる小ネタの集合体と思われがちな映画なので人によって意見が分かれると思う。  ペンギンも白熊もいない極地で一年以上過ごす南極探検隊の生活を、食を中心にした視点でゆるく描く。ゆるくというのは深刻さを避けるということであり、取り立てて大事件、たとえば人が死にそうになった . . . 本文を読む

花火―九つの冒涜的な物語

2011-09-21 19:43:46 | 
『花火―九つの冒涜的な物語』 アンジェラ・カーター   ☆☆☆☆☆  これも日本で買ってきた本。当たりだった。アンジェラ・カーターは以前『ブラック・ヴィーナス』を読んで、なかなか強烈な個性だと思ったものの個人的にはストライクではなかった。ちょっと挑戦的過ぎるというか、前衛を目指す気負いみたいなものが強い気がして鼻についたのである。本書もタイトルに「冒涜的な」と入っているのを見て「やっぱりそういう . . . 本文を読む

帽子と野原

2011-09-19 09:28:57 | 音楽
『帽子と野原』 アイン・ソフ   ☆☆☆☆  ジャパニーズ・プログレというマイナーなジャンルの中でも更にマイナーな存在、アイン・ソフ。このバンドの名前を知っている、あるいはこのバンドの曲を聴いたことがあるという人は一体日本にどれくらいいらっしゃるのだろうか。などというのはバンドに大変失礼な言い草であるから慎むとして、彼らはプログレといいつつ実はジャズ・フュージョンといってもまったく違和感がない音 . . . 本文を読む

旅の冒険―マルセル・ブリヨン短篇集

2011-09-17 11:13:29 | 
『旅の冒険―マルセル・ブリヨン短篇集』 マルセル・プリヨン   ☆☆☆☆  これも8月に日本に帰った時に買ってきた本。幻想作家マルセル・ブリヨンの短編集である。この作家はすでに故人だけれどもこの20世紀において古典的で格調高い幻想小説を書いた奇特な作家で、私みたいな幻想文学好きにとっては珍重すべき存在だ。収録作品は以下の通り。 「深更の途中下車地」 「恐怖の元帥」 「火のソナタ」 「旅の冒険」 . . . 本文を読む

暗渠の宿

2011-09-15 20:46:29 | 
『暗渠の宿』 西村賢太   ☆☆☆☆☆  先だって芥川賞を受賞した西村賢太。今時私小説作家だと聞いてへえ、と思ったが、自虐的ギャグだの風俗の話だのと言われると底が浅そうで興味が湧かず、読むつもりもなかったが、先日日本に帰った時の本屋めぐりでふと手にとって「けがれなき酒のへど」を拾い読みし、思わず笑ってしまったのでそのまま買ってしまった。  そしてあっという間に読み終えた。予想は裏切られた。まっ . . . 本文を読む

歩いても歩いても

2011-09-12 23:02:41 | 映画
『歩いても歩いても』  是枝裕和監督   ☆☆☆☆☆  日本に帰った時にDVDを買ってきた。傑作に違いないという予感通りの、素晴らしい映画でありました。  小津映画を意識しているに違いないと思える淡々としたホームドラマである。ある夏の一日、横山良多・ゆかり(阿部寛と夏川結衣)の夫婦が子供を連れて実家に帰省する。良多は気が重いらしく、やっぱり泊まらないで今日帰ろうか、なんて言っている。実家には年 . . . 本文を読む

下町ロケット

2011-09-10 01:01:40 | 
『下町ロケット』 池井戸潤   ☆☆☆☆☆  日本に帰った時に買った本を読了。直木賞受賞作品。面白い。  主人公は挫折経験がある技術者で、親父の町工場・佃製作所を継いで社長をやっている。技術力は折り紙付きだが、小さな会社なので大企業に無理難題を押し付けられる立場だ。冒頭、いきなり部品の納入先である大企業に唐突な取引終了を宣言される。話が違うと食い下がっても相手にされない。なんとかしないと一年後 . . . 本文を読む