『倦怠』 アルベルト・モラヴィア ☆☆☆☆☆
モラヴィアの『倦怠』を再読。この小説は私のオールタイム・ベストの一冊であって、もうなんべん読み返したか分からないけれども何度読んでも面白く、何度でも読み返したくなる。
私が持っているブツは河出書房のハードカバーで、「人間の文学21」とあり全集の一部のようだ。奥付を見ると発行は1966年になっている。ものすごく古い。当然もう売られていない。私 . . . 本文を読む
『ガス燈』 ジョージ・キューカー監督 ☆☆☆★
日本版DVDを購入して鑑賞。モノクロの、ヒッチコック風ミステリー・サスペンスである。主演はイングリッド・バーグマンにシャルル・ボワイエ。大昔名画座で『凱旋門』という映画を観たことがあるが、同じコンビだ。このシャルル・ボワイエという役者はいい男だけれども、眉が釣りあがっていて底意地が悪そうだ。『凱旋門』の時もそう思ったが、この映画では嫌な奴の役 . . . 本文を読む
『フエンテス短篇集 アウラ・純な魂』 カルロス・フエンテス ☆☆☆☆☆
再読。フエンテスは大好きな作家で、この人に対する私の印象は流麗な文体、豊富な語彙、デリケートな翳りを帯びた幻想性、というところだ。メキシコの作家である。私は昔『遠い家族』の冒頭を立ち読みしてその文章の見事さに感嘆し、ただちにレジに直行したという経験がある。それがフエンテスとの出会いだったと思う。
『遠い家族』もそう . . . 本文を読む
『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花』 山田洋次監督 ☆☆☆
DVDで鑑賞。これは初見である。マドンナは浅丘ルリ子のリリー、三度目の登場。本作ではリリーと寅が沖縄で一時期一緒に暮らし、ますますリリーと寅の関係が夫婦みたいになっていく。そういう意味ではシリーズ中重要なエピソードといえるだろう。
ただし、単体で見るとこじんまりした印象を受ける。リリーが沖縄で病気になったことを知り寅が駆け . . . 本文を読む
『無間人形―新宿鮫〈4〉』 大沢在昌 ☆☆☆★
新宿鮫シリーズ四作目。
本書は直木賞を受賞しているが、個人的にはそう突出しているとは思わない。『毒猿』や『氷舞』の方が明らかに上だ。しかし前作の『屍蘭』がヤクザも出てこず地味目の異色作だったのに対し、本書ではまたヤクザが登場しアクション・シーンも多く、いかにも新宿鮫らしい作品になっている。題材も覚醒剤だし、晶が人質として事件に巻き込まれて . . . 本文を読む
『浮草』 小津安二郎監督 ☆☆☆☆☆
英語版DVDで鑑賞。これまで小津映画は何本か観て、その持ち味と素晴らしさは大体呑みこめたつもりだったが、この映画はそんな私を更なる衝撃で打ちのめした。絶句。観終わって茫然自失。なんという美しさ、豊穣さだろうか。やっぱり小津映画はモノクロだな、などど早合点しかけていた私の襟首をむんずと掴んで振り返りざまどーんと背負い投げである。大の字にのびて目を回す私。 . . . 本文を読む
『龍神の雨』 道尾秀介 ☆☆★
最近、日系の本屋さんに行くとよく見かける道尾秀介という作家さんがちょっと気になり、最新刊らしき本書を購入。一気読み読了。まあまあだった。
事前の評判から大体は予想していたが、叙述トリック系のミステリだった。ひどい義父を殺そうとする兄妹、実母を継母が殺したのではないかと疑う兄弟、という近所同士の二つの家庭のストーリーが平行した語られる。それぞれ二人ずついる . . . 本文を読む
『タンゴ:ゼロ・アワー』 アストル・ピアソラ ☆☆☆☆☆
アルゼンチンの作曲家にしてバンドネオン奏者、アストル・ピアソラの代表作の一つ。ピアソラの音楽は基本的には(CDタイトルにある通り)タンゴなのだが、そこにジャズやクラシックの要素が盛り込まれていて、そのためピアソラはタンゴの革命児と呼ばれている。バンドネオンという楽器はCDジャケットを見れば分かるようにアコーディオンに似ているが、鍵盤 . . . 本文を読む
『残酷物語』 ヴィリエ・ド・リラダン ☆☆☆☆☆
リラダンの『残酷物語』を久しぶりに再読。私が持っているのは随分前に古本で入手した筑摩書房版である。
リラダンはご存知の通りポー、ボードレールの絢爛たる幻想と神秘、華麗なる象徴主義の継承者で、本書に収録された27篇の短篇小説と1篇の詩はそのきらびやかな人工世界の魅力をあますところなく伝えてくれる。着想、奇想も見事だけれども、まあとにかく華 . . . 本文を読む
『おくりびと』 滝田洋二郎監督 ☆☆☆★
モントリオール映画祭でグランプリを獲って話題になった『おくりびと』のDVDが出ていたのでようやく鑑賞。たしかになかなか良かった。が、映画祭でグランプリを獲るほどの作品かな、という感じもなきにしもあらず。
やはりこれは死者を送る、という題材がいい。死者に死化粧を施し、納棺する。その儀式性と、そこに立ち会う遺族の感情、そして悼み。この厳粛な、生と死 . . . 本文を読む