『20世紀の幽霊たち』 ジョー・ヒル ☆☆☆☆
「このミス」で上位にランクインしているというのでさんざん迷った挙句購入した。迷ったのはこれがモダン・ホラーに分類されているからで、私は海外のモダン・ホラーに大きな猜疑心を抱いているのである。特に短篇にはろくなものがない。『ナイトヴィジョン - スニーカー』のレビューで書いた通りだ。
が、この本は大正解だった。面白い。まだ新人さんらしいが大 . . . 本文を読む
『つぐない』 ジョー・ライト監督 ☆☆☆☆☆
英語版DVDを購入して鑑賞。ヴァージン・メガストアの店じまいセールでふと目に止まって買ってきたのだが、これが大当たりだった。素晴らしい。ゴールデン・グローヴ最優秀作品賞は伊達じゃない。エレガントでロマンティック、匂いたつような気品と情感に溢れ、胸をしめつけるほどに切なく、そして映画的興奮に満ち満ちている。
まずはとにかく映像がきれい。そして . . . 本文を読む
『都会と犬ども』 バルガス・リョサ ☆☆☆☆☆
バルガス・リョサのデビュー長編。再読して評価上がる。これは傑作である。『緑の家』の方が代表作とされているが、個人的にはこっちの方が好きかも知れない。
舞台はペルーの士官学校。寄宿舎で暮らす思春期の少年達を支配するのは、残酷な弱肉強食の掟である。タフで喧嘩に強くなければ一人前と見なされず、徹底したいじめと嘲弄の対象となる。酒やタバコ、賭博は . . . 本文を読む
『座頭市地獄旅』 三隅研次監督 ☆☆☆☆
座頭市シリーズ12作目。これはシリーズの中でも傑作の部類だと思う。かなり見応えがある。
理由の一つは魅力的な好敵手の存在。座頭市の敵がザコばかりでは話が盛り上がらないが、本作では成田三樹夫演ずる十文字糺(じゅうもんじ・ただす)という浪人が登場し、一作目『座頭市物語』の平手造酒とはまた違うミステリアスな好敵手像を作り上げている。この十文字、足をす . . . 本文を読む
『Arrival』 ABBA ☆☆☆☆
70年代から80年代にかけて世界的ヒット曲を連発したスーパーグループ、アバ4枚目のオリジナル・アルバム。ちょうど「Dancing Queen」で大ブレークした頃で、上昇気流に乗ったバンドの勢いと輝きに溢れている。もちろん「Dancing Queen」も収録されている。オリジナル・アルバムを全部聴いたわけじゃないが、いくつか聴いた範囲ではこれが一番好き . . . 本文を読む
『氷舞』 大沢在昌 ☆☆☆☆
新宿鮫シリーズ第六弾『氷舞』を再読。シリーズの中でも個人的にかなり気に入っているエピソードである。
今回鮫島の前に立ちはだかるのは犯罪組織でも殺し屋でもなく、公安警察である。つまり警察組織の一部であり、キャリアやノンキャリアなどという複雑怪奇な警察内部のからくりと密接に関係し、かつ権力の中枢と結びついている。もともとこういう警察組織の矛盾やしがらみというの . . . 本文を読む
『御法度』 大島渚監督 ☆☆☆☆
英語版DVDを購入して二度目の鑑賞。昔観た時はなんだかとりとめのない映画だと思ったが、再見して大幅に評価上がる。
簡単に言うと、新撰組を舞台に同性愛を描いた映画である。この設定から分かるように、いわゆる「新撰組もの」時代劇だと思って観てはいけない。これはチャンバラ映画ではないし、幕末だの勤皇の志士だのいう史実は全然関係ない。この映画が志向するのは死とエ . . . 本文を読む
『告白』 湊かなえ ☆☆★
週刊文春08年ミステリーベスト10第1位、という帯の文句につられて買ってきた。帯の裏には「驚愕でした!」「今まで読んだ推理小説の中でもっともすごい」「こんな素晴らしい小説を生まれて初めて読んだ」と読者の絶賛が連ねられている。これは期待できそうだ、と買ってきてあっという間に読了。うーむ、面白くないとはいわないが、とても傑作とはいいがたい。正直、期待はずれだった。
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『赤ひげ』 黒澤明監督 ☆☆☆☆☆
黒澤明の大傑作のひとつ、『赤ひげ』の英語版DVDを購入して久々に鑑賞。これもCriterion Collecitonで、映像が美しくリストアされている。パッケージやメニューも凝っていて良い。もちろん映画そのものは最高だ。
物語は小石川養生所、つまり病院を舞台にした医療ものである。そこに加山雄三扮する保本という若い医者がやってくるところから映画は始まる . . . 本文を読む
『虚無への供物』 中井英夫 ☆☆☆★
再読。本書は『ドグラ・マグラ』『黒死館殺人事件』と並んで日本推理小説史上の三大奇書と呼ばれるが、『ドグラ・マグラ』や『黒死館殺人事件』ほどの「イっちゃっている感」はないと思う。意外と普通である。最初に読んだ時は拍子抜けしたものだ。
小説はゲイバーのシーンから始まる。登場人物もミステリ・マニアばかりだがさほどエキセントリックというわけではなく、文体も . . . 本文を読む