『荒涼館(全四巻)』 チャールズ・ディケンズ ☆☆☆
筒井康隆が『漂流 本から本へ』で褒めていたので興味を持ち、ディケンズの『荒涼館』全四巻を読了。筒井康隆のレビューはウェブで検索すれば読めるが、大江健三郎にぜひ読めと薦められたこと、なりゆきまかせのエンタメだと思っていたディケンズを見直したこと、極端な典型的人物造形も大人数を処理するためにはこれしかないと思えること、ご都合主義のプロットも . . . 本文を読む
『スパイダー』 デヴィッド・クローネンバーグ監督 ☆☆☆
邦題は、正確にいうと「スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする」である。変なおまけが付いている。原題はただ「Spider」なのだが、映画会社の担当者はスパイダーマンと間違われることを心配したのだろうか。よく分からない。とりあえず、この映画では別に少年は蜘蛛にキスはしない。しばらく前にクローネンバーグの作品中まだこれを観ていないことを思い出 . . . 本文を読む
『メソポタミアの殺人』 アガサ・クリスティー ☆☆☆☆
再読。これはクリスティーが『ナイルに死す』の前に書いた初の中近東ものの長編で、バグダッド近くの遺跡発掘現場で起きた殺人事件を扱っている。『ナイルに死す』ほど派手な作品ではないし、『アクロイド殺し』や『オリエント急行殺人事件』みたいな大仕掛けはないけれども、私はなぜかこの小説が大好きで、クリスティーのミステリの中でも偏愛の一冊だ。もう何 . . . 本文を読む
『東京暮色』 小津安二郎監督 ☆☆☆★
クライテリオンの『Eclipse Series 3 LATE OZU』ボックスで『東京暮色』を再見。これは小津最後のモノクロ作品だが、例外的に暗く重たい内容で、異色作と言われている。『Eclipse Series 3 LATE OZU』の解説でも「21作ぶりにキネマ旬報ベストテンにランクインしなかった」などと書かれていて、発表当時の不人気ぶりがうかが . . . 本文を読む
『Mistral』 フレディ・ハバード ☆☆☆☆★
トランペットの名手フレディ・ハバードはもともと純正ジャズ、つまりメインストリームの人だけれども1970年代にはフュージョンアルバムをいくつも出し、ジャズ・ファンや批評家からは商業主義だと批判された。ちなみにこの人はグラミーを獲ったビリー・ジョエルの『52nd Street』でも吹いている。ジャンルのこだわりがない人なのか売れ線狙いだったの . . . 本文を読む
『夜行列車』 イエジー・カワレロウィッチ監督 ☆☆☆☆
1959年のポーランド映画。
『尼僧ヨアンナ』の監督さんで主演女優も同じだが、これは宗教がかった中世映画ではなくノワール風味の現代劇(といっても1959年当時の)である。冒頭からけだるい女性のスキャットが流れムーディーな空気が広がる。ジャズのスキャットといってもお洒落な感じではなく、幻想的、瞑想的。幽玄といってもいい。そういう意味 . . . 本文を読む
カナリアの喪失
一杯のコーヒー、オレンジ、そしてシリアルからこの小さな物語は始まる。その朝、カナリアは自分の飼い主の死を知った。飼い主はワイシャツにネクタイを締めた姿でうつぶせに床に倒れ、二度と動かなかった。朝食のほしぶどう入りシリアルを食べ終わり皿を片付けようとしたまさにその時、それが起きた。心臓発作。それはありふれた死だった、統計の中のひとつの染みでしかないような。
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『ボディ・アーティスト』 ドン・デリーロ ☆☆☆☆
短篇集『天使エスメラルダ』がなかなか良かったドン・デリーロの『ボディ・アーティスト』を読了。これは長さとしては長編というより中篇で、淡々としたパーソナルな空気感とあいまって清冽な小品、という趣きだ。外界の事件があまり小説内世界にかかわって来ず、ヒロインの身の回りのこととその内面、瞑想的で形而上学的な心象風景、などが書き連ねられていく。
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『泥棒成金』 アルフレッド・ヒッチコック監督 ☆☆★
パッケージに惹かれてつい日本版ブルーレイを購入したヒッチコックの『泥棒成金』。初見である。ケーリー・グラントとグレース・ケリーが共演している。ゴージャス感は満点、というかヒッチコック映画の中で一番ゴージャス感溢れる映画かも知れないが、ストーリーは気の抜けたビールみたいで、正直面白くなかった。スリルもサスペンスもほぼ皆無である。
とり . . . 本文を読む
『明日に向かって撃て』 ジョージ・ロイ・ヒル監督 ☆☆☆☆☆
久しぶりに、所有するDVDで再見。これも間違いなく「名画」である。何かの要素が突出した実験的なまたは挑発的な映画ではなく、あるいは奇抜な、もしくは奇を衒った映画ではなく、情景、人物、ストーリー、情緒、ユーモア、ペーソス、そして美意識、これらが渾然一体となって普遍的な感動をもたらす。すべての要素が、ある品格の中でバランスを保ってい . . . 本文を読む