ゴールデン・グローブ座
今、あの小さな島の中だけしか知らずに過ごした人生最初の15年間を思うと、まるで夢の中のような気がする。そこではすべてが他の場所と違っていた。島の中の世界は、いうなれば私たちが時折色あせてセピア色になった写真で目にする蒸気船や複葉飛行機、そしてそれを取り巻いて笑みを浮かべる人々が遠い過去の時代に属するというような、まさにそのような意味で古い時代に属して . . . 本文を読む
『歌うダイアモンド』 ヘレン・マクロイ ☆☆★
Amazonのレビューで評判が良かったので購入。初へレン・マクロイで、当然予備知識なし。冒頭の東洋エキゾチズムとボルヘス風味を混ぜたような「東洋趣味(シノワズリ)」は、伝説的な画聖が描いた神品ともいうべき絵画の魅惑と魔力を描いてなかなかいい感じだ。二番目の「Q通り十番地」は、オーガニックな食べ物が全面禁止されもぐり食堂でしか食べられなくなった . . . 本文を読む
『イリュージョニスト』 シルヴァン・ショメ監督 ☆☆☆☆☆
傑作『ベルヴィル・ランデブー』のシルヴァン・ショメ監督の新作アニメーション。ジャック・タチが遺した脚本がベースになっているそうだが、私はタチ監督の映画を観たことがないので、それについてはなんともコメントできない。本作の主人公である老いたイリュージョニストは、仕草や立ち振る舞いなどタチ監督が作中で演じるキャラクターを意識しているらし . . . 本文を読む
『Mirror』 Charles Lloyd Quartet ☆☆☆☆☆
とても美しいジャズのアルバムを紹介したい。特に前知識もなくジャケ買いしたチャールズ・ロイド・カルテットの、2010年のアルバムである。カルテットのメンバーはチャールズ・ロイド(サックス)、ジェイソン・モラン(ピアノ)、ルーベン・ロジャース(ベース)、エリック・ハーランド(ドラム)。ロイドはもう70代の超ベテランだが、 . . . 本文を読む
『新史太閤記(上・下)』 司馬遼太郎 ☆☆☆☆☆
司馬遼太郎の『新史太閤記』を読了。今回は豊臣秀吉である。それにしても面白いなあ。この歳になってようやく日本の男子が司馬遼太郎にハマる気持ちが分かった。特にこの信長・秀吉・家康の天下取り合戦は、どこをどう切っても面白い。
人物像の的確な造形力、描写力、そしてそれらがぶつかり合い葛藤する中でドラマが広がっていく壮観は、もう『関ヶ原』『城塞』 . . . 本文を読む
『バーバレラ』 ロジェ・ヴァディム監督 ☆☆☆★
再見。DVDジャケットを見るといかにもチープなB級SF映画だが、私がこれを観たのは澁澤龍彦が『スクリーンの夢魔』の中でとりあげていたからで、彼はこのSF映画を「怪奇と幻想とエロティシズムとをたくみに織りまぜた、まさにエンターテインメントと称するにふさわしい、大人のための楽しい、SF御伽噺」とかなり好意的に書いている。
最初に断っておくが . . . 本文を読む
『戸田家の兄妹』 小津安二郎監督 ☆☆☆☆★
今回初見だった『戸田家の兄妹』、1941年作品とかなり古く、DVDの映像もかなりキビしい。映像、音声ともにノイズがひどく、場面によっては滝の音のようなノイズだ。これまで私が観たDVDの中でも最悪の部類だろう。が、映画そのものは素晴らしい出来だ。傑作である。これほどの映画なんだから、映像と音声はもうちょっとなんとかならないものだろうか。
ある . . . 本文を読む
『孤島の鬼』 江戸川乱歩 ☆☆☆☆★
江戸川乱歩の長編最高傑作と聞いて読んでみた。前に『江戸川乱歩集』で「陰獣」「化人幻戯」を読み、やはり乱歩は短篇に限るなと思って以来長編には手を出さなかったのだが、ふとあの世界をまた長編で味わってみたくなったのである。
その結果、やはり噂は正しかったと言わなければならない。これは面白い。面白いだけじゃなく、独特の愉悦に満ちた一大浪漫絵巻の世界が繰り広 . . . 本文を読む
『Double Vision』 Bob James & David Sanborn ☆☆☆☆
ボブ・ジェームスとデヴィッド・サンボーンのコラボレーション・アルバム。名盤と言われているが、最初聴いた時はあまりにイージーリスニング的だと感じて好きになれなかった。ポップな甘いメロディをキラキラした音に載せてきれいに聴かせるだけの、安直なスムースジャスだと思ったのである。もっと渋さが、あるいは刺激 . . . 本文を読む
『殺しのパレード』 ローレンス・ブロック ☆☆☆★
『殺し屋』に続いて殺し屋ケラー・シリーズを読了。これはシリーズ第三作なのだが、二作目は長編だというのでついとばしてしまった。これは一作目と同じく短篇集である。
持ち味も変わらず、洒脱でオフビートで軽やか。プロフェッショナルな殺し屋でありながら普通の都会人の屈折をあわせ持つケラーがこなす、普通でないお仕事の数々。では第一短篇集『殺し屋』 . . . 本文を読む