アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

トミーノッカーズ

2010-08-31 19:38:32 | 
『トミーノッカーズ(上・下)』 スティーヴン・キング   ☆☆☆☆  キングが『ミザリー』と『ダーク・ハーフ』の間に発表した作品。キング作品の中ではマイナーな方だと思うが、私はわりと好きで、何度か読み返している。  テーマはずばり、「空飛ぶ円盤」である。これまで吸血鬼や幽霊屋敷など、数々の手垢にまみれた題材をモダン・ホラーとして料理してきたキングならではのチョイス、と言っていいかも知れない。実 . . . 本文を読む

めし

2010-08-29 09:42:38 | 映画
『めし』 成瀬巳喜男監督   ☆☆☆☆☆  成瀬監督の『めし』を再見。これは成瀬監督の傑作が持つあらゆる美点と特徴を備え、かつ分かりやすく呈示した作品で、監督の代表作の一つとして人気が高いのもうなずける。私も大好きな作品だ。この映画で扱われるのはさほど劇的な事件ではない。人が殺されるわけでもなく、誰かが偉業を成し遂げるわけでもない。夫婦の間に立った小さなさざ波が描かれるだけである。成瀬監督自身も . . . 本文を読む

パンタレオン大尉と女たち

2010-08-27 00:07:31 | 
『パンタレオン大尉と女たち』 M.バルガス=リョサ   ☆☆☆☆☆  リョサの旧作を再読。この本はどうも現在絶版のようだ。エンターテインメントとして読んでも十分に面白い傑作だと思うが、なんでだろう。  わりと初期の作品で、順番としては『緑の家』の次である。それまでのシリアスな作風を転換し、かなりコミカルになっている。はっきり言って笑える。訳者あとがきからの情報によれば、最初はやはり従来と同じシ . . . 本文を読む

SALT

2010-08-25 19:48:46 | 映画
『SALT』  Phillip Noyce監督   ☆☆★  先週末、アンジェリーナ・ジョリーの『SALT』を観てきた。ヒット作のはずだが、映画館はすでにガラガラだった。さすが田舎の映画館である。おかげで特等席で観ることができた。  ボーン・シリーズみたいなアクションものと聞いたこと、それから世間の評判はかなり良いらしいということからわりと期待したのだが、残念ながら期待外れだった。ボーン・シリ . . . 本文を読む

黒いトランク

2010-08-23 07:57:25 | 
『黒いトランク』 鮎川哲也   ☆☆☆☆  再読。ミステリの古典である。この『黒いトランク』はクロフツの『樽』あたりと比べて論じられることが多く、時刻表を使った地味な「アリバイ崩し」ものというイメージが強いかも知れない。確かに時刻表も出てくるし、アリバイ崩しだし、鬼貫警部は足で捜査するマジメ人間だ。しかし私が最初に読んだ時は、むしろエラリー・クイーンにも通じるようなロジックの精緻さが印象的だった . . . 本文を読む

フランケンシュタイン

2010-08-21 11:50:05 | 映画
『フランケンシュタイン』 ジェームズ・ホエール監督   ☆☆☆  日本版DVDで鑑賞。あまりにも有名な古典的怪奇映画だが、観たのは今回初めてである。以前からいつか観てみたいと思っていた。というのはおそらく大方のフランス映画好きがそうであるように、ビクトル・エリセの名作『ミツバチのささやき』の中にこの映画が出てくるからである。  科学者のヘンリー・フランケンシュタインは神をも畏れぬ情熱にとりつか . . . 本文を読む

逃げる

2010-08-18 23:10:17 | 
『逃げる』 ジャン=フィリップ・トゥーサン   ☆☆☆☆☆  『愛しあう』がすごく良かったので、その続編である『逃げる』をただちに購入、読了した。驚いたことにこれもまた素晴らしい。『愛しあう』に勝るとも劣らない傑作である。私の中でトゥーサンの評価は今更ながらうなぎのぼりだ。本書はメディシス賞を受賞しており、訳者のあとがきによれば「絶賛の嵐」を巻き起こしたそうな。ある批評家は「文学にこれ以上何を望 . . . 本文を読む

パリのランデブー

2010-08-16 20:38:46 | 映画
『パリのランデブー 』 エリック・ロメール監督   ☆☆☆☆★  ロメール監督の映画を日本版DVDで入手した。こっちで買えばもっと安いのだが、やはり聴いて分からない言語圏の映画は日本語字幕の方が楽だ。ちなみにロメール監督の映画は昔友だちの女の子に勧められて観たことがあるが、ちょっとトレンディ・ドラマっぽい軽い恋愛ものという印象で、特にどうとも思わなかった。なんという映画だったかも覚えていない。正 . . . 本文を読む

失踪当時の服装は

2010-08-14 18:40:23 | 
『失踪当時の服装は』 ヒラリー・ウォー   ☆☆☆☆★  『事件当夜は雨』を読んで、こちらも再読してみた。やっぱり面白い。私はヒラリー・ウォー最初の一冊としてはこの『失踪当時の服装は』を推奨したい。  寄宿舎から女学生が忽然と失踪する。動機分からず。足取り分からず。これを警察が調査するというだけの、非常に地味なミステリである。密室も磔も首切りもダイイング・メッセージも何もない。にもかかわらず、 . . . 本文を読む

フィッシュストーリー

2010-08-12 21:43:34 | 映画
『フィッシュストーリー』 中村義洋監督   ☆☆☆★  『Sweet Rain 死神の精度』に続いて伊坂幸太郎原作の映画をレンタルDVDで鑑賞。これも原作は既読。原作のレビューでも書いたが、「風が吹けば桶屋が儲かる」方式の物語である。要するに売れないパンク・バンドが作った曲、「この曲は誰かに届いているのかなあ」と慨嘆しつつ録音された曲がめぐりめぐって世界を救う、という話。なんせ彗星が地球に衝突す . . . 本文を読む