『NOVEL 11, BOOK 18』 ダーグ・ソールスター ☆☆☆☆
ノルウェイの作家である。翻訳は村上春樹。他の訳業と比べてハルキ臭は意外と目立たず、小説のタイプもだいぶ違うようだ。だから村上春樹が苦手な人も問題なく読めると思う。村上春樹はあとがきで本書のことを「コンサバな衣をまとったポストモダン」と書いているが、確かにそんな感じだ。文体やディテールは伝統的小説なのに、全体としては前衛 . . . 本文を読む
『マルホランド・ドライブ』 デヴィッド・リンチ監督 ☆☆☆☆
iTunesのレンタルで鑑賞。巷では「一回観て意味が分かったら天才」と言われるほど難解な映画として知られていて、確かにかなり不思議な映画だった。「難解」と言われる映画には色々なパターンがあるが、これは思想が難しいとか多義的とかいうよりも、監督が意図的にプロットをパズル化しているために不思議な印象を与える映画である。
物語は大 . . . 本文を読む
『ヴァルカンの鉄鎚』 フィリップ・K・ディック ☆☆
ディック最後の未訳長編だった『ヴァルカンの鉄鎚』の翻訳がついに出た。ファンとしてこれは読むべきだろうと思って買ったが、まあ、やはり大した出来ではなかった。最後の未訳長編になっただけのことはある。ディックのファンは作品の完成度よりむしろディックらしさを珍重する傾向にあるが、そうしたディックらしさという点でも物足りない。
ヴァルカン3号 . . . 本文を読む
『トーマト』 イエス ☆☆☆★
イエス9枚目のスタジオ・アルバム。アンダーソンとウェイクマンが脱退しバグルスと合体する直前のアルバムで、いわば崩壊前夜である。バグルス合体後は空中分解して『90125』まで活動停止となり、その後は復活したものの腰が据わらずメンバーチェンジばかり繰り返すようになる。だからファーストからこの『トーマト』までこそが、由緒正しい真正のイエスだったと考えるファンは多い . . . 本文を読む
『マップ・トゥ・ザ・スターズ』 デヴィッド・クローネンバーグ ☆☆☆☆
iTunesのレンタルで鑑賞。ネットやアマゾンでの評価はさんざんなこの映画、私はたいへん面白かった。クローネンバーグ久々の大暴走をたっぷり堪能した。ノワール風の『ヒストリー・オブ・ヴァイオレンス』と『イースタン・プロミス』は傑作だが変態性はそれほどでもなく、『危険なメソッド』は更におとなしく文芸的な作風だったので、やは . . . 本文を読む
『幽霊―或る幼年と青春の物語』 北杜夫 ☆☆☆☆
北杜夫というと『船乗りクプクプの冒険』と『怪盗ジバコ』ぐらいしか読んだことがなかった私だが、前に紹介した『とっておき名短篇』の中の「異形」を読んでそのとんでもない破壊力に衝撃を受け、他のものを読んでみようと思い入手したのがこの『幽霊』である。最初は小部数で自費出版された、著者の処女長編ということである。
「或る幼年と青春の物語」と副題が . . . 本文を読む
『ノー・ピア・プレッシャー』 ブライアン・ウィルソン ☆☆☆☆☆
元ビーチボーイズのブライアン・ウィルソン最新アルバム。
ブライアン・ウィルソンといえば60年代頃ビーチボーイズの中心人物で、かの名盤『ペット・サウンズ』のクリエイターとして天才の名を欲しいままにした人物だが、その後薬物依存と過食により心を病んで20年以上音楽業界から遠ざかり、その後またカムバックという紆余曲折に富む人生で . . . 本文を読む
『蜘蛛女のキス』 エクトル・バベンコ監督 ☆☆☆☆
大昔に観た『蜘蛛女のキス』をiTunesのレンタルで再見。なつかしかった。そして昔観た時と同じように、いささかビザールな、けれどもロマンティックで哀しい物語世界にたっぷり浸ることができた。原作はアルゼンチンの作家マヌエル・プイグ。
この映画は、単純に見えてなかなか凝った虚構の組み立て方をしている。まずメインは男色者モリーナと政治犯ヴァ . . . 本文を読む
『ガラスの国境』 カルロス・フエンテス ☆☆☆☆☆
今年の3月に水声社から「フィクションのエル・ドラード」シリーズの一冊として刊行され、Amazonにおいてはマッハの速度で入手不可となってしまったフエンテスの最新短篇集。現時点でも中古品しか扱っていない。これは一体どういうことなのか。出版後一週間で在庫が払底し、増版がまだということか、あるいはもう絶版になったのか。待っててもらちがあかないと . . . 本文を読む
『南から来た男』 クリストファー・クロス ☆☆☆☆
クリストファー・クロスのファースト・アルバム、1979年発表。なつかしいなあ。といってもリアルタイムでこのアルバムを聴いてはいなかったが、デビュー・シングルの「風立ちぬ」はラジオでよく流れていたのを覚えている。このアルバムとセカンド・シングルの「セーリング」はグラミーの五部門受賞という偉業を打ち立て、この記録はいまだに破られていないそうだ . . . 本文を読む