必殺仕置人

『必殺仕置人』　　　☆☆☆☆★

　『必殺シリーズ』が好きである。
　他の時代劇はあんまり見ない。『水戸黄門』やら『暴れん坊将軍』やらは観る気がしないのに、なぜか『必殺』だけは偏愛している。多くの必殺ファンと同じように、私も『必殺仕事人』から観始めたクチだが、初期の必殺はもっとすごいぞと風の噂に聞き、なんとか観たいとずっと念願し続けていた。しかしアメリカ在住の身では時代劇チャンネルなどというものの恩恵にもあずかれず、再放送も観れず、悶々としていた。そこへ目の前がバラ色に染まるようなニュース、必殺がDVD化されるという。狂喜乱舞したのが数年前。それ以来、『仕掛人』を除いてすべての必殺シリーズＤＶＤを揃えてきた。『仕掛人』だけ買わなかったことに他意はない。まさかほとんど全部揃えることになるとは思っていなかったので、名作と言われる『仕置人』だけ購入しよう、と思って飛ばしたのである。必殺テイストがまだ薄いと聞いたので、後回しにしたのだ。いつか観たいとは思っている。

　さて、『必殺仕置人』である。誰もが認める傑作だ。設定がどうとか中村主水が初登場したとかそういう解説は、必殺を愛する方々のwebサイトで詳しく紹介されているのでここでは省く。
　この作品の特色は、とにかくパワフルの一言。その後の『必殺』シリーズと比べてもそのパワフルさは図抜けている。どうパワフルかというと、とにかく仕置人達が強い。鉄（山崎努）、錠（沖雅也）、主水（藤田まこと）、この三人組は文句なく歴代最強だ。主人公が強いのは当たり前だと言われそうだが、この連中の強さはハンパじゃない。他のシリーズでは奉行所に目をつけられると大ピンチなのだが、この連中はあっさり逆襲して奉行所の連中を仕置きしてしまう。更に、この三人には悩みというものがない。後のシリーズでは大きなテーマとなってくる、殺し屋の悲しみみたいなものがまだ微塵もないのだ。高笑いしながら悪人どもを仕置きする。まあ錠がどちらかというと被害者の悲しみを背負いがちなキャラクターなのだが、その錠にしても仕置き時は完全な怒りモードだし、「ごちゃごちゃいわずに殺っちまやいいんだ、殺っちまや」みたいな発言を平気でする。鉄や主水は明らかに仕置きをエンジョイしている。
　残酷描写も多い。初期の数本は、悪人達を殺すのではなく飢えさせてさんざんなぶり者にしたり、身体障害者にしたり、さらし者にしたりという描写まである。とても時代劇の主人公の所業とは思えない。これも「仕置人は悪党の上を行く悪党」というコンセプトのなせる業である。さすがに陰惨過ぎるということで、途中からは仕置＝殺しのスタイルに移行する。

　この作品では、とにかく仕置シーンがカッコイイ。後のシリーズでは結構笑える殺し技とか出てくるのだが、この三人の仕置シーンのクールさと爽快さは絶品である。必殺ならではビジュアルも冴え渡る。鉄の仕置は、ゴキゴキという骨の音、そしてカギ爪状になった指がワナワナと震える映像。錠の仕置は、カチカチカチという手槍の音、そして鳥のように身軽に琉球拳法を駆使するアクション。そして主水の仕置は、鮮やかな殺陣。

　音楽もこうした仕置人のコンセプトに見事に合致した、躍動感あふれるものとなっている。後のシリーズではバラード調の哀愁漂うＢＧＭが殺しのシーンに流れたりするが、仕置人ではあまりない。ジャンジャカジャンジャカジャンジャカジャンジャカとあの劇伴がいいテンポで流れ出すと、キタキタキター！という感じでゾクゾクする。この音楽が流れれば、もう悪人どもは死んだも同然である。とにかく非常にかっこ良い。

　それぞれのエピソードにも傑作が目白押しだ。まず第一話、『命を売ってさらし首』。仕置人チーム始動す、の回である。この頃は、仕置人チームは恨みを晴らすというコンセプトを明確にするためだろう、頼み人に殺しの現場を見せるということをする（ちなみに頼み人というのは可憐な小娘だったりする）。恐ろしいまでのサービス精神である。奉行所の悪徳上司的場と闇の御前浜田屋を呼び出し、錠、主水が相対する。それまで昼行灯としか思ってなかった主水に手下をばっさり斬り殺され、激しく動揺する的場。
「気でも狂ったか、貴様！」
　主水は平然と言う。「的場さん、死んで下さい。浜田屋さん、あんたもだ」
　これである。ここでこの印籠が目に入らぬかだの、天に代わって成敗いたすだの大げさなことは言わない。死んで下さい。これが必殺だ。ビビリまくる的場の目の前で、錠が無言で手槍を回し、カチカチカチと不気味な音を立てる。必殺の美学炸裂。悪党どもの運の尽きである。

　そして第四話、『人間のクズやお払い』はこうした仕置人テイストが最大限に生かされた傑作エピソードだ。冒頭から新興ヤクザである聖天の政五郎（黒沢年男、若い！）が掟無用の殺戮を繰り広げる。たまたま殺戮を目撃した子供まで、無表情に斬って捨てる非情さである。立ち向かう手裏剣名人の弥七（林隆三）も殺されてしまう。とにかく冷酷非情、無敵とも思える凄腕の悪党なのだが、ついに始動した仕置人の敵ではなかった。鉄に全身の骨をボキベキバキとへし折られ、うおお～誰だお前は～とわめきながら地べたをのたうち回るしかない。そして自分の子分達にメッタ斬りにされてしまう。ここまで無残な末路を迎えた悪役も珍しいのではないか。その後、凶悪面の子分達は錠と主水が余裕で葬ってしまう。

　有名な話だが、このシリーズの放映中に仕置人に影響を受けたとかいう殺人事件（結局これはウソだったらしい、まったくはた迷惑な奴だ）が起きたため、過激描写の自粛を余儀なくされ、シリーズ後半はパワーダウンしていく。さらに鉄役の山崎努氏が足を怪我したため、後半のエピソードでは鉄が足を引きずりながら登場するようになり、更なるパワーダウンを招く。もしもこうした悪条件が重ならずに初期のパワーを持続できていたらと思うと、つくづく残念である。
　まあそれにしても、素晴らしいスタッフと素晴らしい役者達の才能が渾然一体となって生み出された、異様なパワーに満ちた傑作であることに間違いはない。