『浮き雲』 アキ・カウリスマキ ☆☆☆☆☆
カウリスマキの『浮き雲』をDVDで再見。これは私のお気に入りフィルムの一つであり、カウリスマキにしては珍しいハッピーエンドになっている。ストーリーは例によって例の如くカウリスマキ・スタイルで、ある夫婦の受難と苦闘が淡々と描かれる。子供のいない(子供をなくしている)、つましいながらも幸福な日々を送るある夫婦。まず、夫、人員整理でクビになる。次に妻、 . . . 本文を読む
『黒死館殺人事件』 小栗虫太郎 ☆☆☆
以前途中で放り出していた『黒死館殺人事件』をあらためて読了。これは日本のミステリ三大奇書の中でももっとも奇書の名にふさわしい一冊で、ミステリでありながら「大部分が事件と関係ない薀蓄で埋め尽くされている」「何度読んでもあらすじが分からない」などと言われる小説である。はっきり言って、読んでいて何のことやらさっぱり分からない。骨格は一応『グリーン家殺人事件 . . . 本文を読む
『ラヴィ・ド・ボエーム』 アキ・カウリスマキ ☆☆☆★
日本版DVDで再見。これはタイトルからも分かるように有名なプッチーニのオペラ『ラ・ボエーム』と同じ原作小説の映画化で、カウリスマキはプッチーニのオペラが気に入らずリベンジのつもりでこの映画を撮ったそうな。プッチーニの『ラ・ボエーム』は観たことないが、この映画にも画家、音楽家、作家の貧乏芸術家トリオが出てきて、ミミというヒロインも出てく . . . 本文を読む
『イギリス人の患者』 マイケル・オンダーチェ ☆☆☆★
新潮社のハードカバーで再読。これはご存知の通り映画化されアカデミー賞かなんか獲っていて、私も観たことあるが、映像はきれいだったもののさほど印象には残らなかった。煎じ詰めれば不倫のメロドラマ、という感じだった。が、原作はそうでもなく、不倫のメロドラマは複数あるサブプロットの一つに過ぎない。多分映画化する際に一番受けそうなプロットにフォー . . . 本文を読む
『ステキな金縛り』 三谷幸喜監督 ☆☆★
ようやくレンタルDVDで観賞。しかし三谷幸喜、こういう方向に来たか。まあいつものスタイルではあるのだが、ひときわコントっぽい映画になっているな。幽霊が法廷に立つという設定が非現実的というだけでなく、役者の芝居がもうコント的だ。たとえば、あの浅野和之と戸田恵子の民宿の夫婦。メイクもわざとらしいし、喜劇の舞台で「おかしな夫婦を演じている浅野和之と戸田恵 . . . 本文を読む
『マーティン・ドレスラーの夢』 スティーヴン・ミルハウザー ☆☆☆☆
ミルハウザーの長編を再読。スティーヴン・ミルハウザーは現代的な幻想小説の書き手として、それもきわめて純度の高い幻想小説の書き手として私が格別偏愛する作家の一人だが、この人は本質的に短編作家だと思う。精緻な細工物を作り出す工芸職人のような彼の創作姿勢は、やはりコンパクトなミニアチュールでこそ最大限に生きると思うからだが、そ . . . 本文を読む
『乱暴と待機』 冨永昌敬監督 ☆☆☆★
間違いなく、ヘンな映画である。普通じゃない。いい映画かと問われれば多分否と答える。が、結構面白い。
夫が無職で妻が妊婦の若い夫婦が郊外に越してくる。その近所に変わり者の女と男が二人で住んでいる。女は異常に他人の感情を害することを怖がっていて、いつもビクビク、愛想笑いをしている。男性を「カン違い」させないようにといつもスエットにメガネで、趣味は読経 . . . 本文を読む
『シミュラクラ』 フィリップ・K・ディック ☆☆☆☆★
久しぶりに再読。これはかつてサンリオ文庫で出たディック作品で、まだ創元から再発されていない数少ない作品の一つ。希少価値大である。それにしても、ディックに関してはかなりの駄作でさえ邦訳されている昨今、傑作である本書がなぜ再発されていないのか不思議だ。
もともと多視点叙述は十八番のディックだが、本書ではその手法が更に徹底し、完全にディ . . . 本文を読む
『Rise of the Planet of the Apes』 ルパート・ワイアット監督 ☆☆☆
(本レビューでは昔の『猿の惑星』シリーズのネタバレをしていますのでご注意下さい)
なかなか面白いという評判を聞いてDVDで観賞。邦題は『猿の惑星 創世記(ジェネシス)』という大仰なもの。ちなみに私は昔の『猿の惑星』シリーズは一応全部観たことがあるが、これは昔の『征服』にあたる部分である。 . . . 本文を読む
『メテオール(気象)』 ミシェル・トゥルニエ ☆☆☆★
再読。ミシェル・トゥルニエは哲学研究の手段として小説を書くと公言している作家で、当然ながらそんな人が書いたものは普通の小説とはだいぶ趣きが違う。たとえばミラン・クンデラも哲学的な考察を盛り込んだ小説を書くが、トゥルニエの「哲学的」はまた一味違い、宗教学や神学がベースになっている。秘儀参入とか通過儀礼とかそういうテーマが得意である。私は . . . 本文を読む