今日はレビューをお休みして、違うことを書きます。
とうとう2015年も大晦日になりました(日本はもう年が明けていますが、米国東海岸はまだ12月31日なのです)。今年一年も、忙しいばかりで実のあるものは何も残せなかったような、そんな悔いとともに暮れていこうとしています。心に残る思い出といえば、九月にリスボンへ旅行したことぐらいでしょうか。
リスボンは昔仕事で一日だけ訪れたことがあったので . . . 本文を読む
『居心地の悪い部屋』 岸本佐知子編・訳 ☆☆☆☆★
ブランアン・エヴンソンの未読短篇に惹かれて入手した『居心地の悪い部屋』を読了。これは実に魅力的なアンソロジーだった。読後居心地が悪くなる作品集、という趣向が面白いし、収録されている短篇も一癖あるものばかりでとても読み応えがある。
お目当てだったエヴンソンは二篇収録されていて、『遁走状態』の前作であるデビュー短篇集からの収録らしいが、あ . . . 本文を読む
『醜聞』 黒澤明監督 ☆☆
クライテリオンから出ている『Eclipse Series 7: Postwar Kurosawa』のDVDボックスを購入。『わが青春に悔なし』『素晴らしき日曜日』『醜聞』『白痴』『生きものの記録』の五本入って50ドルである。主な目当ては『白痴』だったのだが、他の四本も現在ソフトを所有していないのでありがたい。というわけで、さっそく『醜聞』を鑑賞した。
昔VH . . . 本文を読む
『IT'S A POPPIN' TIME』 山下達郎 ☆☆☆☆☆
山下達郎初期のライヴ盤。1978年、六本木ピットインでの演奏で、メンバーは村上“ポンタ”秀一(ドラム)、岡沢章(ベース)、松木恒秀(ギター)、坂本龍一(キーボード)、土岐英史(サックス)、加えてコーラスに伊集加代子、尾形道子、吉田美奈子。やはり注目ポイントは坂本龍一のキーボードだろう、YMO結成時期の彼のプレイが聴ける(細野 . . . 本文を読む
『芽むしり仔撃ち』 大江健三郎 ☆☆☆☆
初期短篇集『死者の奢り・飼育』に続いて、著者のデビュー長編『芽むしり仔撃ち』を読んでみた。文庫本を買ったあと、短篇集のイメージからどうも読むのが億劫になってしばらく積読状態だったが、いざ読んでみるとやはり、思った通りの不快な小説だった。おぞましい小説、と言ってもいい。やっぱりこういう芸風なんだなあ。
そもそもエピソードを構成するモチーフや描写の . . . 本文を読む
『美しき結婚』 エリック・ロメール監督 ☆☆☆☆
日本版DVDで鑑賞。ひとりよがりな若い女性が突然「結婚しよう」と思い立って相手を探す話で、なかなかアイロニーたっぷりで面白い。主人公のサビーヌを演じるのは『恋の秋』でマガリを演じていたベアトリス・ロマン。『恋の秋』では年頃の娘がいる母親の役だったが、この映画ではまだまだ若い娘っ子で、かなり印象が違う。但し我が強い感じは一緒。
妻子ある画 . . . 本文を読む
『ファントム(上・下)』 ディーン・R・クーンツ ☆☆★
クーンツの旧作を再読。これはモダンホラーの、いってみればクリーチャー系のスリラーである。ディーン・R・クーンツというのは根っからの職人エンタメ作家で、読者をハラハラさせる手練手管には長けている反面、その小説世界はたとえばスティーヴン・キングのようなオブセッションをまったく感じさせない。まるでハリウッド映画みたいに一定の方式に沿って作 . . . 本文を読む
『Spirit』 Earth, Wind & Fire ☆☆☆☆
アース・ウィンド・アンド・ファイアー1976年のアルバム。私は特にこのバンドのファンというわけではないけれども、このアルバムは結構好きで、定期的に聴きたくなる。かなりの良作だと思う。ご存知の通りこのバンドの売りはモーリス・ホワイトとフィリップ・ベイリーのツイン・ヴォーカル、そして豪華なホーンセクションだが、その屋台骨となって . . . 本文を読む
『忍法忠臣蔵』 山田風太郎 ☆☆☆☆
風太郎の忍法帖シリーズのひとつ、『忍法忠臣蔵』を再読。
面白さ保証付きの忍法帖シリーズの中でも異色の設定で、ご存知「忠臣蔵」と忍法を組み合わせてある。本書の主人公忍者・無明綱太郎のミッションは非常に複雑で、討ち入り前の赤穂浪士たちを刺客忍者達から守り、かつ、女忍者を使って誘惑し、堕落させ、討ち入りを諦めさせる、というものである。ややこしい。要するに . . . 本文を読む
『淑女は何を忘れたか』 小津安二郎監督 ☆☆☆☆
日本版DVDを購入して鑑賞。『小津ごのみ』で中野翠が絶賛していたので、とても観ずにはいられなくなった。
しかしこれはまた、何と他愛もない物語だろうか。家庭内の他愛ない小事件を扱うのが得意な小津の映画の中でも、ひときわ他愛のない話だ。そしてまた、それと同時に、なんと幸福なフィルムだろうか。私はこれほどまでにチャーミングな映画を今まで観たこ . . . 本文を読む