『通話』 ロベルト・ボラーニョ ☆☆☆☆☆
『売女の人殺し』で興味を惹かれたボラーニョの『通話』を読了。これも短篇集である。『売女の人殺し』とはちょっと趣きが違うので単純に比較はできないが、個人的にはこちらの方が好みだった。ボラーニョ世界の特徴が分かりやすい形で呈示されているということもある。
まず、色んな人物の人生のダイジェスト、もしくは文章による肖像画というべき作品が大部分を占めて . . . 本文を読む
『ある過去の行方』 アスガー・ファルハディ監督 ☆☆☆★
『別離』『彼女が消えた浜辺』のファルハディ監督の近作をiTunesのレンタルで鑑賞。今回はフランスが舞台で、役者もみんなフランス語を喋っているのでイラン映画色は薄れ、ちょっとフランス映画っぽい。とはいえやはり監督のカラーか、重くミステリアスなムードには変わりなく、瀟洒なフランス映画とは異質である。
『別離』もそうだったけれども、 . . . 本文を読む
『風来忍法帖』 山田風太郎 ☆☆☆
忍法帖シリーズの一つ、『風来忍法帖』を再読。なかなかの人気作のようだが、私の評価は「水準作」である。傑作とは言えないが、読み出せば最後まで愉しく読み通すことはできる。
今回メインとなるのは香具師七人のチーム。香具師とは要するに半分ペテン師みたいなヤクザな行商人で、悪いこともする代わりに香具師なりのモラルがあり、仲間内の暗号があったりもする。イカサマ賭 . . . 本文を読む
『ドライヴ』 ニコラス・ウィンディング・レフン監督 ☆☆☆☆
英語版ブルーレイで鑑賞。普通のアクションものかと思って観たら、かなり特徴のある、スタイリッシュなフィルムだった。物語そのもののスケールは小さい。アクションも派手というより地味、渋め。雰囲気はにぎやかではなく、むしろ静謐だ。主人公のドライバー(ライアン・ゴスリング)はものすごく無口で、ほとんど会話をしない。誰かと向き合っていてもた . . . 本文を読む
『冥闇』 ギリアン・フリン ☆☆☆
『ゴーン・ガール』のギリアン・フリンの旧作『冥闇』を読んでみた。20数年前に起きた一家殺人事件の話で、主人公は事件の生存者である30代の女性リビー。事件の犯人として一家の長男、つまりリビーの兄が逮捕され、有罪となって服役している。リビーはこの恐ろしい事件の唯一の、しかも幼い少女の生存者として有名になり、彼女を援助するために多くの寄付金が集まったけれども、 . . . 本文を読む
『Songs To Remember』 Scritti Politti ☆☆☆☆
スクリッティ・ポリッティが1982年に発表したデビューアルバム。彼らがブレークしたのは二作目の『キューピッド&サイケ 85』だが、このデビュー作はインディーズ系のラフトレードからリリースされ、当時かなりマニアックな聴かれ方をされたし今でもそうだろうと思う。デジタル・シンセ、ゲートリバーブ、打ち込み系、という彼 . . . 本文を読む
『未成年』 イアン・マキューアン ☆☆☆★
マキューアンの新作を読了。かなりおふざけや遊びも多いマキューアンだが、今回はマジメ系である。エホバの証人の熱心な信者である家庭の子供が白血病になり、両親と本人が輸血を拒んだために重体になる。病院は輸血を許可する裁判所命令を出して欲しいと訴え、主人公である女性判事がその件を担当することになる。
似たような話が日本のTVドラマか何かであったような . . . 本文を読む
『The Rewrite』 マーク・ローレンス監督 ☆☆☆☆
ヒュー・グラントの近作をiTunesで鑑賞。久々に見たおヒューはさすがに老けたな、という印象だ。髪もだいぶグレイ・ヘアがかってるし、皺も増えた。しかし喋って動いていると雰囲気は全然変わらない。あいかわらずテキトーで情けなくて、しかし憎めないキャラクターを軽やかに演じている。
映画も完全にいつものパターンで、予定調和の世界だ。 . . . 本文を読む
『ガール・オン・ザ・トレイン(上・下)』 ポーラ・ホーキンズ ☆☆★
「次の『ゴーン・ガール』」「NYタイムズ21週ベストセラー1位」の宣伝文句に惹かれて買った。『ゴーン・ガール』好きの私としては見過ごせない。しかし結果は、残念ながら期待外れだった。駄作とは言わないが、『ゴーン・ガール』には遠く及ばない。
小説は三人の女性の視点で進む。主人公のレイチェルは通勤電車の窓から不倫現場を目撃 . . . 本文を読む
『素晴らしき日曜日』 黒澤明監督 ☆★
Criterionのクロサワ・ボックスから『素晴らしき日曜日』を鑑賞。年始早々あまりネガティヴなレビューを書きたくはないが、正直言ってこの映画の不出来っぷりには驚いた。本当に、あの黒澤明がこれを撮ったのか。
あるカップルの日曜日のデートを描いた映画である(作中の用語を使うならば「ランデブー」)。カップルが待ち合わせするところから始まり、別れるとこ . . . 本文を読む