アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

嵐のピクニック

2016-05-29 20:35:35 | 
『嵐のピクニック』 本谷有希子   ☆☆☆  芥川賞を獲った本谷有希子氏の薄っぺらい文庫本を書店で見かけたので、ふと読んでみようと思い購入。帯に筒井康隆の推薦コメントがあったこともある。短編集である。  なんとなくシュールで軽やかな、きわめて遊戯的な小説を勝手にイメージしていたのだが、結構重たいなという印象。どの短篇もシュールな装いをまとってはいるが、その核にあるのは生きる痛みや苦しみという非 . . . 本文を読む

新・事件 ~ドクターストップ~

2016-05-27 23:13:25 | テレビ番組
『新・事件 ~ドクターストップ~』 ☆☆☆☆★  アマゾンで昔のNHKドラマのDVDを入手した。これは若山富三郎主演の弁護士もので、松坂慶子や大竹しのぶ、永島敏行が出ていた映画『事件』のTVバージョンである。映画では丹波哲郎が演じていた弁護士役に若山富三郎を起用し、さまざまな事件を通して人間模様を描写する趣向だ。なかなかしっかりした脚本のドラマで評判が良いようだが、私がこのエピソードだけ入手した . . . 本文を読む

みずうみ

2016-05-25 20:39:38 | 
『みずうみ』 川端康成   ☆☆☆☆  川端康成『みずうみ』を読了。いつも思うが川端康成は不思議な小説を書く作家である。いや、わけわからない小説はたくさんあって川端康成だけが不思議ということでもないのだが、この物語としての首尾結構をハナから無視したような、それでいて審美的な首尾結構は見事に整っているような、そんな充足した感覚を与えてくれるところが不思議だ。首尾結構を無視したような小説も今となって . . . 本文を読む

SPICED WITH BRAZIL

2016-05-23 22:16:10 | 音楽
『SPICED WITH BRAZIL』 SONIA ROSA with YUJI ONO   ☆☆☆☆  大野雄二関連のCDは最近色々と入手しつつあるが、これもその一つ。ブラジル人歌手ソニア・ローザとのコラボ盤である。普通のCDじゃなくて、最初はサウンドチェック用の非売品として録音されたという変わった素性のCDである。そんな用途でわざわざミュージシャンを呼んで録音するのかと驚いたが、大野雄二と . . . 本文を読む

アメリカ大陸のナチ文学

2016-05-21 19:07:10 | 
『アメリカ大陸のナチ文学』 ロベルト・ボラーニョ   ☆☆☆☆  ボラーニョの『アメリカ大陸のナチ文学』を読了。色々な意味で、非常に興味深い作品集だった。「架空の作家たちの紹介」という体裁でまとめられた短篇集で、短いものはほんの2~3ページのものもある。作品ひとつひとつの面白さで読ませるというよりも、文体、テンポ、手法、アイデア全部ひっくるめた全体のバランスと強度、そして運動力で読ませる。他の作 . . . 本文を読む

逃亡者

2016-05-18 23:52:46 | 映画
『逃亡者』 アンドリュー・デイビス監督   ☆☆☆☆  ご存じ、ハリソン・フォード主演の『逃亡者』。1993年公開。知らない人はあまりいないんじゃないかと思うが、なつかしいこの映画をまた観たくなってiTunesのレンタルで再見。今観てもやっぱり面白い。ハリウッド娯楽映画王道のマスターピースと言っていいんじゃないか。  パーティーの夜、シカゴ記念病院に勤務するキンブル医師(ハリソン・フォード)の . . . 本文を読む

2016-05-15 23:17:29 | 
『蟻』 ベルナール・ウェルベル   ☆☆☆★  変わった小説だなと思いながら読み終えた。蟻の小説である。正確には、蟻の世界の物語と人間の世界の物語が並行して進み、最後にクロスする。蟻の世界の物語は当然ながら蟻が主人公で、女王蟻や、名前がなく識別番号で呼ばれる兵士蟻やオス蟻などが登場する。SFのようでもあるがちょっと違う。あとがきによれば、本書に描かれた蟻の生態は必ずしも正確ではないらしいが、それ . . . 本文を読む

Space Kid

2016-05-12 21:50:03 | 音楽
『Space Kid』 大野雄二   ☆☆☆☆  最近私がわりとよく聴いている大野雄二のファースト・ソロ・アルバムをご紹介したい。1978年リリースとかなり古いアルバムだが、これがなかなか良い。大野雄二といえば「ルパン三世」の音楽で有名だが、私が彼のアルバムを聴いてみようと思ったのも最近放映されたルパン三世(ちなみにこの番組を見たことはない)のテーマ曲をたまたま聴いて、おや、かっこいいなと思った . . . 本文を読む

パリ左岸のピアノ工房

2016-05-09 22:32:06 | 
『パリ左岸のピアノ工房』 T. E. カーハート   ☆☆☆☆  パリ在住のアメリカ人作家が書いた『パリ左岸のピアノ工房』を読了。これはパリ左岸にあるピアノ工房、つまりピアノ修理店の話で、作家自身がノンフィクションであると明言している(登場人物の名前は変えてあるが、小説の中の出来事はすべて本当にあったことばかりとのこと)。しかし虚構ともとれるような書き方で、私はずっとこれは虚構だろうか実話だろう . . . 本文を読む

Look Who's Back

2016-05-07 23:36:59 | 映画
『Look Who's Back』 David Wnendt監督   ☆☆☆★  Netflixのレンタルで鑑賞。『帰ってきたヒトラー』のタイトルで邦訳されている小説の映画化作品である。原作は未読だが、読んでみようかなと興味を持ったことがあるのでふと映画を観てしまった。ドイツ映画である。やはりこれは、ドイツ人自身が作ったというところも面白みの一部だろう。  ヒトラーが現代にタイムスリップしたら . . . 本文を読む