アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

コレクター

2016-04-28 21:07:51 | 映画
『コレクター』 ウィリアム・ワイラー監督   ☆☆☆☆  所有しているDVDで再見。異常な物語である。蝶の収集家の青年が美しい娘を誘拐する。誘拐し、人里離れた屋敷に幽閉し、なにくれとなく面倒をみる。娘はおびえ、身代金が目的かそれともセックスかと問う。すると青年は、そのいずれでもない、自分は君の許可なく君の体に指一本触れるつもりはない。ぼくはただ君と知り合う機会が欲しいだけなのだ、と告げる。君にぼ . . . 本文を読む

祭の夜

2016-04-25 20:46:03 | 
『祭の夜』 パヴェーゼ   ☆☆☆☆  イタリアの詩人・小説家パヴェーゼの短篇集を読了。以前、池澤夏樹編集の『短篇コレクション II』に収録されていた「自殺」が印象に残っていたぐらいで、まとまった量を読んだのは初めてである。  訳者あとがきによれば、パヴェーゼは政治的な理由で流刑になり、その後帰郷して恋人が他の男と婚約したことを知った。流刑と裏切り。この経験が彼の人間性と創作に影響を及ぼさない . . . 本文を読む

聖なる酔っ払いの伝説

2016-04-23 08:03:03 | 映画
『聖なる酔っ払いの伝説』 エルマンノ・オルミ監督   ☆☆☆☆☆  『木靴の樹』のエルマンノ・オルミ監督が後年に撮ったフィルム『聖なる酔っ払いの伝説』の日本版ブルーレイ/DVDを購入して鑑賞。ヨーゼフ・ロートの短い原作も既読。小品だが、結構好きである。ちなみにこのブルーレイはイタリアのものらしくイタリア語吹き替えだが、おまけとしてオリジナルの仏語・英語ミックスバージョンのDVDが付いていて、私は . . . 本文を読む

Feel Happy

2016-04-20 23:41:07 | 音楽
『Feel Happy』 原田真二   ☆☆☆☆  原田真二のデビュー・アルバム。最近の若者は知らないだろうが、原田真二が10代でデビューした時の衝撃はなかなかのものだった。それまでの歌謡曲とは一線を画す洋楽の匂いと個性的なヴォーカル、10代にして作曲と編曲をこなす才能、トリプル・シングルを立て続けにヒットさせたポップ性、そして少女マンガから抜け出してきたようなルックス。当然人気爆発しメディアに . . . 本文を読む

カフカ自撰小品集

2016-04-18 21:51:51 | 
『カフカ自撰小品集』 カフカ   ☆☆☆☆★  カフカの生前に出版された、カフカ自身で選んだ作品を収めた三冊の作品集『観察』『田舎医者』『断食芸人』を一冊にまとめたもの。というわけで、カフカ自撰小品集である。『変身』や『火夫』は単独発表だし、その他の短篇はカフカの死後マックス・ブロートが遺稿の中から出版したものなので、自撰アンソロジーと銘打てるのはこれで全部ということだろう。  さすがに、『観 . . . 本文を読む

Room

2016-04-16 22:35:36 | 映画
『Room』 Lenny Abrahamson監督   ☆☆☆☆☆  予備知識まったくなしに、iTunesのレンタルで鑑賞。ユーザーレビューの点数が良かったので迷いながら観たのだが、観て良かった、と心から思えた映画である。これは果たして日本で公開されたのだろうか。観ていない人は全員、ただちに観た方がいい。  誘拐監禁された女性と子供の物語である。というといかにもタイムリーで、社会派的で、サイコ . . . 本文を読む

絆回廊 新宿鮫Ⅹ

2016-04-14 20:25:14 | 
『絆回廊 新宿鮫Ⅹ』 大沢在昌   ☆☆☆★  新宿鮫シリーズ第十作を再読。本書の特徴を一言でいうと、鮫島の大事な人々との訣別編である。もっとはっきりいうと第一作以来鮫島と強い絆で結ばれ、彼を支えてきた課長の桃井、そして恋人・晶との別れである。その他のストーリー、つまり鮫島が手掛ける事件そのものはわりと地味だし新味に欠けるけれども、その意味では確実にシリーズの一区切りとなる作品である。  メイ . . . 本文を読む

インサイド・ジョブ/世界不況の知られざる真実

2016-04-12 22:42:00 | 映画
『インサイド・ジョブ/世界不況の知られざる真実』 チャールズ・ファーガソン監督   ☆☆☆☆☆  2008年のリーマン・ショックがいかに起きたかを検証するドキュメンタリー映画。日本版DVDを購入して鑑賞したが、非常に面白かった。アカデミー賞のドキュメンタリー映画賞を受賞しているがそれも納得である。タイトルの「インサイド・ジョブ」とは、要するにこの破綻は金融業界が自らの利益のために引き起こした意図 . . . 本文を読む

さいごの恋

2016-04-09 23:11:19 | 
『さいごの恋』 クリスチャン・ガイイ   ☆☆☆☆☆  『ある夜、クラブで』『風にそよぐ草』のガイイの『さいごの恋』を再読。今のところ、邦訳されているガイイの小説はこの三冊で全部だ。現代フランス文学の軽やかさと美しさをとてもユニークな形で見せてくれる素晴らしい作家なので、他の作品もできるだけ翻訳して欲しいと思っている。本書もあっという間に読み終えてしまえる短さながら、読み終えた瞬間の満足感たるや . . . 本文を読む

天国は待ってくれる

2016-04-07 22:42:01 | 映画
『天国は待ってくれる』 エルンスト・ルビッチ監督   ☆☆☆☆☆  ルビッチ監督晩年の作品。1943年発表の、数少ないカラー作品である。  一人の男が死んで閻魔大王に会いに行く。自分は地獄行きに決まっているからというのだが、意外に礼儀正しい閻魔大王は男に詳しい説明を求める。するとこの男ヘンリー(ドン・アメチー)は、自分の人生をその誕生から死までダイジェストして話して聞かせるのだった。ニューヨー . . . 本文を読む