アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

人生スイッチ

2017-03-30 23:38:13 | 映画
『人生スイッチ』 ダミアン・ジフロン監督   ☆☆☆★  アルゼンチンのオムニバス映画を、日本版DVDで鑑賞。私は英語以外の言語の映画は英語字幕を読むのが面倒なので、最近はなるべく(値段と相談しつつ)日本のソフトを買うようにしているが、これはわざわざ日本版を購入する価値があったかどうかちょっと微妙、だけどまあいいか、ぐらいの印象である。オムニバムといっても同じ監督の短篇映画の集合体で、プロローグ . . . 本文を読む

やまいだれの歌

2017-03-27 23:55:42 | 
『やまいだれの歌』 西村賢太   ☆☆☆☆☆  またしても西村賢太の寛多もの。『蠕動で渉れ、汚泥の川を』がとても良かったのでこれはどうかと思ったが、個人的には更に上回る面白さだった。いやー西村賢太は侮れない。  今回は19歳の寛多、横浜の造園会社に勤めるの巻である。江戸っ子としての矜持に強いこだわりを持つ寛多だが、『苦役列車』の事件で自分の生活につくづく嫌気がさしたらしく、新天地を求めて横浜へ . . . 本文を読む

瞳の奥の秘密

2017-03-24 22:22:45 | 映画
『瞳の奥の秘密』 ファン・ホセ・カンパネラ監督   ☆☆☆☆  アルゼンチンの映画をiTunesのレンタルで鑑賞。2010年のアカデミー賞外国語映画賞受賞作品。レイプ殺人を扱ったサスペンスものだが、そこに25年の歳月の流れを挟む大河ドラマ的手法で関係者の人生の変転を織り込んだり、人生も後半にさしかかった大人たちの恋愛模様を混ぜたりして膨らませてある。また事件の方も単に犯人探しや捜査だけでなく、司 . . . 本文を読む

ダブル/ダブル

2017-03-21 23:57:12 | 
『ダブル/ダブル』 マイケル・リチャードソン編集   ☆☆☆☆★  分身をテーマにしたアンソロジー。切り口としてなかなか面白いと思うし、実際に面白いアンソロジーになっている。当然ながら幻想文学系の作品が多い。どれも読みごたえがある短篇ばかりだが、特に面白かった短篇について簡単に説明したいと思う。  ランドルフィ「ゴーゴリの妻」。これは異色作家ランドルフィの名刺代わりと言ってもいい有名な短篇だが . . . 本文を読む

ニウロマンティック

2017-03-18 22:19:10 | 音楽
『ニウロマンティック』 高橋幸宏   ☆☆☆☆☆  高橋幸宏の『ニウロマンティック』、1981年発表。YMOの『BGM』と同じ年である。「ロマン神経症」との副題がついており、「ニウロマンティック」がニュー・ロマンティックとニューロティック=神経症的な、をかけた造語であることは言うまでもない。アルバムジャケットもそうだが、サウンドも『BGM』と非常によく似ており、双生児的なアルバムといっていいだろ . . . 本文を読む

香りの逃亡

2017-03-16 22:29:14 | 創作
          香りの逃亡  香水の瓶をあけて初めて、私は香りが逃げてしまったことに気づいた。オパール色の液体はそのまま残っているのに、まったく何の香りもしない。私は愕然とした。もちろん、そのままにしておくつもりはなかった。その香水を手に入れるために、私は大変な犠牲を払ったのだ。すぐに探索を開始する。幸運なことに、最初の重要な情報は簡単に手に入った。香りは私のアパートの窓から逃げ出し、ベラン . . . 本文を読む

Her

2017-03-14 09:56:28 | 映画
『Her』 スパイク・ジョーンズ監督   ☆☆☆  iTunesのレンタルで鑑賞。近未来のLAを舞台に、孤独な男とAIが恋に落ちるちょっとSF的な物語である。といってももはやAIがどんどん実用化されつつある現在、映画の中の世界は今の私たちの世界をほんのちょっと先に進めたぐらいのリアル感だ。すなわち、スマホも兼ねた小型のタブレット、音声認識、ホログラムのゲーム画面、AI制御の住居、などなど。   . . . 本文を読む

オシリスの眼

2017-03-11 23:58:43 | 
『オシリスの眼』 オースティン・フリーマン   ☆☆☆☆☆  ソーンダイクものの長篇『オシリスの眼』を読了。最高傑作と言われることもある本書、確かに面白かった。本書にはいろんな意味で他のミステリにはないフリーマンの独自性が凝縮されている。その独自性については訳者あとがきに詳しく書いてあるが、まずは何といってもずば抜けた論理性。あのレイモンド・チャンドラーはフリーマンのミステリをそのロジカルな整合 . . . 本文を読む

アンジェリカの微笑み

2017-03-08 21:37:10 | 映画
『アンジェリカの微笑み』 マノエル・デ・オリヴェイラ監督   ☆☆☆☆  日本版のブルーレイを購入して鑑賞した。オリヴィラ監督101歳の時の作品だというから驚く。  幻想的な映画という評を見て買ったのだが、幻想的とかシュールレアリスティックというよりも、むしろ浪漫主義的といった方がぴったりくる映画だと思う。雰囲気もストーリーも古めかしいし、観客を挑発したり翻弄したりするようなところはなく、ひた . . . 本文を読む

蠕動で渉れ、汚泥の川を

2017-03-05 13:39:11 | 
『蠕動で渉れ、汚泥の川を』 西村賢太   ☆☆☆☆  定期的に矢も楯もたまらず読みたくなる中毒性を有する西村賢太の未読の長篇を、ハードカバーを購入して読了。『苦役列車』と同じく主人公は北町寛多だが、今回は少し時系列を遡って、まだ17歳の時分の話。寛多洋食屋に勤める、の巻である。あいかわらずエゴと卑屈とみみっちさをむき出しにして這いずり回る寛多の姿に読者は笑い、呆れ、ほとほと愛想がつき、やがては痛 . . . 本文を読む