アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

パヴァーヌ

2013-01-31 22:32:38 | 
『パヴァーヌ』 キース・ロバーツ   ☆☆☆☆  今回初めて読んだが、もともとサンリオSF文庫で出ていた小説の二度目の復刊らしい。ディックの『高い城の男』みたいないわゆる歴史改変もので、エリザベス女王が暗殺されたことによってカトリック教会の支配がずっと続いている世界、という設定になっている。要するに中世的な宗教世界で、かつ、電気や薬物など科学の利用が厳しく抑制、禁止されている。こういう世界観の中 . . . 本文を読む

街角 桃色の店

2013-01-29 23:44:29 | 映画
『街角 桃色の店』 エルンスト・ルビッチ監督   ☆☆☆☆☆  ルビッチ監督のロマンティック・コメディを日本版DVDで再見。モノクロ映画。これも傑作である。重厚な映画や衝撃的な映画など、いい映画といっても色んなタイプがあるが、これはしみじみ幸福な気持ちにさせてくれる映画の典型だろう。それもただガハハと笑って楽しく終わる映画ではなく、心の奥が暖かくなると同時に奇妙に泣きたくなるような、切なさまじり . . . 本文を読む

時は老いをいそぐ

2013-01-27 23:09:15 | 
『時は老いをいそぐ』 アントニオ・タブッキ   ☆☆☆☆☆  日本語に翻訳されている中では最新の、アントニオ・タブッキ短篇集。本書の刊行は昨年の2月で、私がアントニオ・タブッキの訃報に接したのは3月だった。そうやってタブッキの訃報とともに私のもとへやってきたために、私は正直、しばらくの間この本を心から愉しむことができなかった。その後何度か読み返してその素晴らしさは心に沁みこんできたけれども、その . . . 本文を読む

Coldplay: Live 2012

2013-01-25 22:25:30 | 音楽
『Coldplay: Live 2012』 Coldplay   ☆☆☆☆  コールドプレイのライヴ映像をブルーレイで入手。これは、かなり良い。曲と演奏がいいことに加え、ビジュアル面での演出も冴えているし、撮影や編集もナイス。舞台装置にも金がかかっていて実にゴージャスだ。デビューした時は華やかというよりちょっと地味目で素朴なところがあるバンドだと思ったものだが、ビッグになったなあ。  ただし、 . . . 本文を読む

闇の奥

2013-01-23 21:49:42 | 
『闇の奥』 コンラッド   ☆☆☆☆★  以前岩波文庫で読んだことあったが、今回は光文社版に買い替えて再読。  何とも奇怪な小説である。色んな意味で。私がこの小説を知ったのは『フリッカー、あるいは映画の魔』の中に出てきたからだが、この中であのオーソン・ウェルズが映画化しようとして果たせなかったエピソードが紹介され、また架空の映画監督マックス・キャッスルが映画化したという設定で物語にとりこまれて . . . 本文を読む

考古学者

2013-01-21 12:32:32 | 創作
          考古学者  当時名声赫々たる考古学者であり、アマチュア・オーケストラ所属の比類なきチェロの名手でもあったマーチ博士の急激な衰弱死については、その謎めいた状況と未亡人の行き過ぎとも思える沈黙もあって、世の消息通の間にさまざまな憶測を呼んだ。私はこの一文をもって、その謎と憶測の氾濫にけりをつけたいと思う。ここに述べるのはすでに再婚されている未亡人から私が直接聞いたことだけであって . . . 本文を読む

Play Misty for Me

2013-01-19 23:36:54 | 映画
『Play Misty for Me』 Clint Eastwood監督   ☆☆☆★  クリント・イーストウッド監督のデビュー作を英語版DVDで観賞。邦題は『恐怖のメロディ』で、コワイ映画だということが分かりやすくなっているが、タイトルとしては原題の「Play Misty for Me」の方が断然良い。主人公はラジオのDJで、ファンの女性が「私のために『Misty』をかけて」と電話してくる、こ . . . 本文を読む

笑いと忘却の書(その2)

2013-01-17 20:14:14 | 
(前回からの続き)  第四章「失われた手紙」では、祖国に置いてきた自分の手紙を取り戻そうとするタミナの戦いが描かれる。ここでもやはりダチョウの無言の叫び、口の中の銀の指輪、など詩的かつ形而上学的意味を持つメタファーが次々と繰り出され、話を膨らせていく。ここで「口の中の銀の指輪」は純然たるメタファーとして物語の中に投入されるが、沈黙によって何か大事なものを守ろうとするタミナの状況の的確な表現になっ . . . 本文を読む

笑いと忘却の書(その1)

2013-01-15 23:52:32 | 
『笑いと忘却の書』 ミラン・クンデラ   ☆☆☆☆☆  クンデラの『笑いと忘却の書』を再読。これは『別れのワルツ』と『存在の耐えられない軽さ』の間に挟まれた作品第5番である。  クンデラは『裏切られた遺言』の中でこの小説に触れ、亡命後しばらく小説を書いていなかったのでリハビリのつもりで、いわば短編集『微笑を誘う愛の物語』の第二巻のつもりで書き始めたといっている。しかししばらく書いたところで、「 . . . 本文を読む

The Dark Knight Rises

2013-01-13 21:27:53 | 映画
『The Dark Knight Rises』 Christopher Nolan監督   ☆☆☆☆  ブルーレイディスクを買って再見。映画館で観た時はよく分からなかった細部も、英語サブタイトルのおかげでよく分かった。やっぱり面白い。賛否両論渦巻く本作だが、個人的には充分オーケーだ。確かに前作『ダークナイト』には及ばないものの、同種の緊迫感、テンションの高さは本作にも見られるし、他の娯楽アクショ . . . 本文を読む