『辺境の館』 パスカル・キニャール ☆☆☆☆☆
再読。いやー久々にキニャールを読み返したが、やはりこれは大傑作である。すごい。端整で、残酷で、優美で、バロックで、猥雑で、壮麗で、美しい。
これはキニャールがポルトガルのフロンテイラ邸を題材に書き下ろした架空の物語で、もともとはフロンテイラ邸の写真集として出版されたらしい。その後フランスでも小説だけの文庫版が出たらしいが、まあこの出来なら . . . 本文を読む
『侍』 岡本喜八監督 ☆☆☆☆★
岡本喜八のモノクロ時代劇、『侍』を日本版DVDで鑑賞。主演、三船敏郎。襲撃失敗の導入部から「この中に裏切り者がいる」のセリフ、そして全員が振り返ったところにとぐろをまく三船敏郎の姿。間髪入れずに「侍」のタイトル。このテンポの良さとカッコよさは『椿三十郎』的痛快娯楽時代劇を思わせるが、実際に観終わってみるとかなりシリアス、ヘヴィー、悲哀に満ちた物語だった。
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『死んでいる』 ジム・クレイス ☆☆☆☆
イギリスの作家、ジム・クレイスの本を再読。白水uブックスでソフトカバーも出ているようだが私が持っているのはハードカバー。非常にイギリスらしい、理知的な作風の作家さんである。マキューアンといい、バイアットといい、やはりイギリスにはこういう作家が多いんだろうか。
話もとても変わっている。主人公は中年の学者夫婦。取り立てて面白みもなく、見てくれもぱっ . . . 本文を読む
『ブライト・サイズ・ライフ』 パット・メセニー ☆☆☆☆☆
みなさん、メリークリスマス。もうすぐ今年も終わりですね。
というわけで、これはパット・メセニーのデビュー作。なんともいえない美しさに溢れた作品である。ギター、ベース、ドラムのシンプルなトリオ演奏だが、だからこそこの端麗な美しさが引き立っている。メセニーのギターはいつものように湧き出る透明な水のようだし、それに絡むジャコ・パスト . . . 本文を読む
『I Am Legend』 Francis Lawrence監督 ☆☆☆
土曜日にウィル・スミス主演の『I Am Legend』を観て来た。前に映画館の予告編で見た荒廃したニューヨークの光景がナイスだったからである。なんか昔の映画のリメイクらしいが、それ以外の予備知識はまったくなかった。オリジナルの映画も観たことない。
そしたら予想以上に恐い映画だった。派手にドンパチある映画じゃなく、 . . . 本文を読む
『死者の身代金』 ☆☆☆☆
刑事コロンボ二作目。『殺人処方箋』に続く作品で、シリーズ化される前のパイロット作品。だからシリーズ第一作の『構想の死角』の一個前のエピソードということになる。パイロットなので、オープニング・クレジットの文字がシリーズ・エピソードと違ったり、シーンが変わる時いつも画面が滲むようになる、などあちこちで違いが見られる。『殺人処方箋』とこの『死者の身代金』は他のエピソードに . . . 本文を読む
『タタール人の砂漠』 ディーノ・ブッツァーティ ☆☆☆★
イタリアの幻想作家、プッツァーティの長編を再読。この人はカフカ的な不条理テーマが得意な作家で、短篇集を読んでも「ある状況に不本意ながら捕らえられてしまって逃げ出せない」的なプロットが多い。有名な『七階』や『待っていたのは』もそうだ。そもそもこれは不条理文学の典型的なパターンであって、阿部公房の『砂の女』やカリンティの『エペペ』など、 . . . 本文を読む
『カオス・シチリア物語』 パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ監督 ☆☆☆☆
タヴィアーニ兄弟の名作を日本版DVDで鑑賞。イタリア映画。有名な監督だが映画を観るのは初めて。オムニバスでプロローグ、短篇四つ、エピローグ、の6部構成になっている。全部通しで見ると3時間以上かかるので半分ずつ二回に分けて観た。二話観終わったところでちょっと疲れたし。
まあとにかくシチリアの映像がきれい。映像テク . . . 本文を読む
『ピサへの道―七つのゴシック物語2』 アイザック・ディネーセン ☆☆☆☆☆
『夢みる人びと』に続く「七つのゴシック物語」の二巻目。けれども原著ではこちら収録分が前半というねじれ翻訳となっている。収録は「ノルデルナイの大洪水」「老男爵の思い出話」「猿」「ピサへの道」の4篇。短篇の巧緻さはどれもこれも甲乙つけがたいが、個人的には『夢みる人びと』よりこっちの方が好きだ。「ノルデルナイの大洪水」と . . . 本文を読む
『パンチ!パンチ!パンチ! 』 クレイジーケンバンド ☆☆☆☆☆
クレイジーケンバンドのデビュー作。私はCKBのCDはほとんど持っているが、最近一番良く聴くのはなぜかこのディスクである。他のディスク、特に最近ではストリングスからラッパーまで引きつれ、ありとあらゆる音楽ジャンルを咀嚼して華麗なるハイブリッド万華鏡サウンドを繰り広げるCKBだが、この最初期の作品はそういうカラフルさはぐっと控え . . . 本文を読む