『黒い天使』 アントニオ・タブッキ ☆☆☆☆★
タブッキの短篇集『黒い天使』を再読。アマゾンの商品紹介文には、<人間内部の意識の暗闇にひそむ「黒い天使」。その翼のはばたきが導くのは、絶望か、それとも生の希望か。イタリアとポルトガルの暴力にみちた現代史の暗部に対峙し、黒いリアリズムで塗りつぶされた、タブッキの、もうひとつの小説世界>とある。「暴力」「黒いリアリズム」と、なんだかタブッキらしか . . . 本文を読む
『精霊たちの家』 イサベル・アジェンデ ☆☆☆☆
再読。『エバ・ルーナのお話』のところでも書いたが、アジェンデの文体はやっぱりガルシア・マルケスのそれにとてもよく似ている。ボキャブラリや言い回し、語りのトーンがすでに似ているので、これはひょっとして訳者が同じ木村栄一氏だからだろうかと思ったりもしたが、彼が訳した他の作家の小説ではそう思わないし、アメリカ人作家のコラゲッサン・ボイルも似ている . . . 本文を読む
『エイリアン』 リドリー・スコット監督 ☆☆☆☆☆
昔ビデオで持っていた『エイリアン』のDVDを入手した。ディレクターズ・カットというものが収録されていて、以前から観てみたいと思っていたのである。もともと好きな映画で、シリーズの中でもこの最初の『エイリアン』が一番好きだ。恐くて、しかも美しい。憂鬱な不安の情緒が全篇を覆っている。『エイリアン2』も人気があるようだが、あれは完全なSFアクショ . . . 本文を読む
『さかしま』 J.K. ユイスマンス ☆☆☆☆
再読。翻訳は渋澤龍彦。本書はデカダンスの聖書とか奇書とか色々言われているので、読む前はどんなとんでもない小説かとびびっていたのだが、読んでみると意外と普通で拍子抜けした。バタイユの『眼球譚』とかレアージュの『O嬢の物語』とかマンディアルグの『城の中のイギリス人』とか、ああいうスキャンダラスな暗黒小説系かと思っていたのである。実際はそんなことは . . . 本文を読む
『男はつらいよ 葛飾立志篇』 山田洋次監督 ☆☆☆★
『寅次郎夢枕』に続いてシリーズ16作目、『葛飾立志篇』。これはまったくの初見じゃないけれども、ほとんど覚えていなかった。大昔にテレビで一部観た、という程度だったかも知れない。出来としてはまあまあ。水準作だと思う。
マドンナは樫山文枝。あんまり知らない女優さんだ。それほど美人じゃないが、庶民的な感じで好感が持てる。役柄は考古学の研究者 . . . 本文を読む
『獄門島』 横溝正史 ☆☆☆★
横溝正史は昔『犬神家の一族』やらなにやら随分とはやったが、ちゃんと読んだことはほとんどない。映画も一個も観ていない。あのおどろおどろしい感じがどうも苦手なのだが、やはりこれだけ評価が高いのだがら一度読んでみようと思い、最高傑作だという声が高い『獄門島』をBOOK-OFFで買ってきた。それにしてもおどろおどろしいタイトルだなあ。
読んでみたところ、思ったほ . . . 本文を読む
『ビリディアナ』 ルイス・ブニュエル監督 ☆☆☆☆★
久しぶりに観た『小間使の日記』が非常に良かったので、その前作である『ビリディアナ』のDVDを入手した。Criterion版である。これも大昔にビデオで観たことがあるが、話はほぼ忘れていた。ちなみに渋澤龍彦は『スクリーンの夢魔』の中で、この『ビリディアナ』と『小間使の日記』を絶賛している。この二つに比べると『昼顔』は落ちる、というようなこ . . . 本文を読む
『この世の王国』 アレホ・カルペンティエル ☆☆☆☆☆
カルペンティエルの『この世の王国』を再読。心地よく幻想的、それほどややこしい話じゃないが直球でもない。読みやすいが深読みもできる。かなり好きな小説である。わりと初期の作品で、ハイチの驚異的な現実が描かれていること、長い歳月にわたる物語であること、独裁者や宮殿や革命が出てくること、そして超現実的なエピソードがあることなど、いかにもラテン . . . 本文を読む
『サーカス』 チャールズ・チャップリン ☆☆☆★
ずいぶん昔に観たチャップリンの『サーカス』をDVDで入手。これは『黄金狂時代』と『街の灯』の間の作品で、言ってみればチャップリン絶頂期の作品の一つである。なかなか世評も高い。が、個人的にはやはり『黄金狂時代』『街の灯』『モダンタイムス』には及ばないと思う。
例によってチャップリン演じるドタ靴山高帽のトランプが、今回はサーカスの団員になる . . . 本文を読む
『ギリシア棺の謎』 エラリー・クイーン ☆☆☆★
クイーンの国名シリーズ第四番を再読。これはファンの間ではなかなか評価の高い作品で、傑作のひとつとされている。発表された時期も『エジプト十字架』や『Xの悲劇』『Yの悲劇』に近い、いわゆる「油の乗り切った」頃だし、中にはこれが最高傑作という人もいるようだ。まあ私はそこまでとは思わないが、クイーンらしい稚気とアイデアがてんこ盛りになった力作であり . . . 本文を読む