『タンナー兄弟姉妹』 ローベルト・ヴァルザー ☆☆☆☆
ローベルト・ヴァルザーという人の小説を初めて読んだが、こりゃ相当ヘンな小説である。カフカも愛読者の一人だったらしく、部分的にカフカっぽいところもあるけれども、全体としては全然違う。主人公はジーモンという一種のフリーターで、どこか子供っぽく無邪気で、愛想のいい青年だけれども、職についてはすぐ辞めるということを繰り返している。ストーリーは . . . 本文を読む
『Look Hear』 10cc ☆☆☆★
『Bloody Tourist』に続く6枚目のアルバム。前作と同じ6人メンバーで制作されている。この頃からめっきりバンドに勢いがなくなり、注目もされなくなり、もはや第一線のアーティストとは呼べなくなってしまった。まあエリックが交通事故に遭ったりと不幸なアクシデントもあったのだけれども、アルバムの内容もまた一つ華がなくなったという感じがする。
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『クリスマスのフロスト』 R.D ウィングフィールド ☆☆☆★
再読。これまでフロストものはいくつか読んだが、最初に読んだ『フロスト日和』がやっぱり自分としては一番面白かった。が、他のも何が劣るというわけではなく、常に満足感が得られ、手堅く愉しませてくれる。一方で、パターンがいつも同じで作品の印象がそっくりということも言える。
この『クリスマスのフロスト』が第一作である。二作目の『フロ . . . 本文を読む
『コリーニ事件』 フェルディナント・フォン・シーラッハ ☆☆☆★
シーラッハの長編が翻訳されたということで、ただちに購入。しかし、こういう方向で来たか。うーむ。レビューするのがなかなか難しいな。何の話かということを書くとおそらく、それだけでネタバレになってしまう。
例によって静謐な、冷静過ぎるぐらい冷静な、淡々とし過ぎるぐらい淡々とした筆致で物語が語られる。ただちに事件の核心が呈示され . . . 本文を読む
『009 RE:CYBORG』 神山健治監督 ☆☆
子供の頃マンガで『サイボーグ009』を読み倒した私としては、やっぱりこれを観ないわけにはいかなかった。キャラデザを一新してTV版『攻殻』をやった監督さんが手がけたという『009 RE:CYBORG』、押井風になっているという噂に不安を感じながらもそれなりのワクワク感を持って観賞した。ちなみにTVアニメの009はYouTubeとかレンタルで . . . 本文を読む
『パーフェクト・ハンター(上・下)』 トム・ウッド ☆☆☆☆
完全なエンタメの、殺し屋小説。主人公は殺しのプロ、ヴィクターで、名前からつい『ニキータ』に出てくるジャン・レノの掃除屋ヴィクターを思い浮かべてしまったが、読んでみると雰囲気はジェイソン・ボーンに近い。リアリズム重視の緻密な描写、ヨーロッパ、ロシア、アフリカと世界中を飛び回りながら単身CIAやロシアの国際諜報組織と戦うプロットの骨 . . . 本文を読む
『深町純&ニューヨーク・オールスターズ・ライヴ』 深町純&ニューヨーク・オールスターズ ☆☆☆☆☆
フュージョンの伝説的名盤をご紹介したい。深町純というのはキーボード奏者で、自分のバンドもしくはソロのみならず高中正義、プリズム、渡辺香津美などのフュージョン勢からオフコース、井上陽水、五輪真弓、果てはピンク・レディーまで色んな人々のアルバムに参加している、知る人ぞ知る凄腕ミュージシャンだ。昔 . . . 本文を読む
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(上・下)』 村上春樹 ☆☆☆★
村上春樹と言えば、このところ新作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』のアマゾンのレビューがずいぶんと盛り上がっているようだ。噂のドリーさんのレビューは私も読んだが、いやー、笑った笑った。面白過ぎる。その後コメントやクチコミ欄でも賛否両論が渦巻き、大変なことになっているが、しかしまあ、このドリーさんのレビュ . . . 本文を読む
『夢売るふたり』 西川美和監督 ☆☆★
『ゆれる』『ディア・ドクター』といつもミステリアスな作風で観客を魅了する西川監督の『夢売るふたり』を、ようやくレンタルDVDで観ることができた。結構な期待感があったのだが、「うーんこれはどうなんだろう?」という感想になってしまった。
ウェットで情感豊かな映像は健在である。画面を観ていて「ああ、映画を観ているんだなあ」という幸せな気分に浸れる。それ . . . 本文を読む
『レンブラントの帽子』 バーナード・マラマッド ☆☆☆☆☆
マラマッドの短編集。この人の邦訳本はしばらく入手困難だったようだが、このところ続けて新訳本が出ている。再評価されつつあるのだろうか。この本も三篇しか収録されていないが、非常によい。訳者はあとがきで「レンブラントの帽子」を絶賛しているが、私は「引出しの中の人間」が一番面白かった。
表題作の「レンブラントの帽子」は、美術学校で働く . . . 本文を読む