アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

摩天楼の怪人

2015-10-29 18:33:40 | 
『摩天楼の怪人』 島田荘司   ☆☆☆  1969年(とその数十年前)のニューヨークを舞台にした御手洗潔もののミステリ。この時御手洗潔はコロンビア大学の助教授である。彼がある有名女優の臨終に立会い、彼女が言い残した過去の殺人事件の謎を解く。  その事件というのが例によって奇怪きわまりない、現実には到底あり得ないと思われる難事件である。事件といっても一つではなくシリーズになっており、まず2人の女 . . . 本文を読む

あの夏、いちばん静かな海。

2015-10-27 21:20:04 | 映画
『あの夏、いちばん静かな海。』 北野武監督   ☆☆☆☆★  所有するDVDで再見。北野監督三作目の映画である。1991年公開。  初期北野作品の特徴が如実に現れた作品で、無愛想で、ゴツゴツしていて、どこかしら投げやりで、にもかかわらずヒリヒリするような感性が映画全体を貫いている。私はこの映画が大好きである。確かに、後の北野映画のように洗練はされていない。荒いし、まだまだ色んな点で不器用だと思 . . . 本文を読む

復活

2015-10-24 22:21:54 | 
『復活(上・下)』 トルストイ   ☆☆☆☆  トルストイ晩年の長編、『復活』を読了。これまでなんとなく敬遠していたが、『戦争と平和』『アンア・カレーニナ』の作者が書いたもう一つの長編とあればやはり読まないわけにはいかない。が、やはりこの二作とはだいぶ違っていた。芸術作品というよりも、トルストイの思想を表現するための物語という色彩が強い。とはいえ、トルストイの人間観察力と描写の力量は充分に発揮さ . . . 本文を読む

木靴の樹

2015-10-21 20:15:53 | 映画
『木靴の樹』 エルマンノ・オルミ監督   ☆☆☆☆☆  所有する日本版ブルーレイで再見。しばらく前、最初に観た時はドキュメンタリー的な撮り方と日常的なエピソードが淡々と積み重なっていく構成に「なるほど、そういう映画か」と納得した。そして、これは多分二度目に観た時にこそ真価が分かる映画だと思った。そして今回再見し、それが正しかったことを知った。これはビクトル・エリセの『ミツバチのささやき』に匹敵す . . . 本文を読む

母なる夜

2015-10-19 20:57:29 | 
『母なる夜』 カート・ヴォネガット・ジュニア   ☆☆☆☆  カート・ヴォネガット・ジュニア三作目の長編である。第二次大戦中ナチのシンパとして働いたアメリカ人の戦犯、実はアメリカのスパイだったハワード・W・キャンベル・ジュニアの自伝(というか断片的回想録)という体裁をとっている。例によって、極端なまでに理不尽な境遇に投げ込まれた善意の男の物語であり、なんてかわいそうな境遇かと読者の共感を呼ばずに . . . 本文を読む

アリス

2015-10-17 21:04:50 | 映画
『アリス』 ヤン・シュヴァンクマイエル監督   ☆☆☆☆★  チェコの映像作家ヤン・シュヴァンクマイエル監督の『アリス』を初鑑賞。ディズニーの『不思議の国のアリス』の大ファンである私は前からこの作品が気にはなっていたが、コマ落としアニメであることと、少々グロテスクという評判があるので躊躇していた。先だって週末にNetflixをチェックしていたら見かけたので、ふと気が向いて観てしまった。  結果 . . . 本文を読む

日本婦道記

2015-10-15 22:55:39 | 
『日本婦道記』 山本周五郎   ☆☆☆★  山本周五郎の短篇集『日本婦道記』を読了。江戸時代の女性たちの生き様を描く11篇が収録されている。  生き様とは要するに立派な心がけをもって生きた人生というか、必ずしも表だってはいないけれども陰になって夫を支えたり家を支えたりという、あっぱれな女性の生き方を描いたものである。これを「説教じみている」と批判する声があったけれども、それに対して著者が「説教 . . . 本文を読む

スーパートランプ

2015-10-13 20:56:58 | 音楽
『スーパートランプ』 スーパートランプ   ☆☆☆  『ブレックファスト・イン・アメリカ』が大ヒットしたスーパートランプのファースト・アルバム。スーパートランプは三枚目の『クライム・オブ・ザ・センチュリー』でブレークしたバンドだが、その前に二枚、ひっそりと売れないアルバムをリリースしている。これがその一枚目だが、後の超ポップで洗練された『ブレックファスト・イン・アメリカ』はもちろん、知性溢れるプ . . . 本文を読む

流れる(小説)

2015-10-11 22:35:52 | 
『流れる』 幸田文   ☆☆☆☆☆  成瀬巳喜男監督の名作『流れる』の原作はどんなだろうと思って読んでみた。幸田文は明治の文豪・幸田露伴の息女である。この人の小説を読むのは初めてだったが、素晴らしく面白い。日本ならではというか、翻訳文学とはまったく違う感性と思考回路で書かれた文体、そして小説がここにある。どちらかというと翻訳文学を読み慣れている私にとっては色んな意味で刺激的、かつ啓発的な読書体験 . . . 本文を読む

おもいでの夏

2015-10-09 20:50:12 | 映画
『おもいでの夏』 ロバート・マリガン監督   ☆☆☆☆  日本版DVDで鑑賞。少年が年上の女性に憧れる、というありがちなパターンのストーリーだが、夏、小さな島の浜辺、海辺に立つ瀟洒なコテージ、そこに一人で暮らす美しい女性、甘酸っぱい音楽にソフトフォーカスの映像と、この手の映画の必須アイテムをまんべんなく取り揃え、かつ大仰にならないようさらっと小品にまとめたことが功を奏し、なかなか忘れがたいフィル . . . 本文を読む