アブソリュート・エゴ・レビュー

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フェアウェイ

2014-02-17 14:05:32 | 音楽
『フェアウェイ』 オフコース   ☆☆☆★

 オフコース6枚目のアルバム。小田と鈴木二人時代最後のアルバムで、この次の『Three and Two』から正式に5人編成、サウンドもガラッと変わって西海岸ロックバンド風になる。このアルバムまでは二人の職人的ミュージシャンが密室にこもって多重録音を駆使し、コツコツと室内工芸的に作り上げたという感じが強くするが、同時に、前作『Junktion』までのフォーク、アコースティック風味がかなり薄れ、エレクトリックでありながら繊細で緻密、曲によってはブラスやストリングスも取り入れ、もちろんコーラスにも凝りまくったという、ますますAOR的な音になっている。特にA面では非常に緻密なサウンドメイクがなされて、オフコース流AORが堪能できる。

 一曲目の「あなたのすべて」から、冷たく冴えたガラス細工の透明感が漂う。小田と鈴木の多重録音コーラスは端正極まりなく、サウンドはもはやエレクトリック・ギターやシンセサイザーが主体、禁欲的ながら要所要所ではハープや多彩なパーカッションも使用され、隅々まで細かい気配りがなされている。2曲目、鈴木作の「美しい思い出に」ではブラスが入っていて、これまた神経質なまでに緻密なアレンジで聴かせる。コーラスとブラスの絡みが心地いい。これはなかなか良い曲で、鈴木の傑作の一つだと思う。鈴木康博という人は小田より緻密な性格で、サウンドを作り込むのが得意だったようだが、こうしたAOR路線は彼の資質にマッチしていたのではないかと思う。5曲目の「この空にはばたく前に」もやはり良い。『Three and Two』で路線変更してからはハードロック風の曲など作ったりもしているが、どう考えても本作のAOR路線の方が彼には合っている。もう少しこの路線でアルバムが制作されていれば、鈴木の才能ももっと開花していたかも知れない。彼が書いたこの手の曲は私も結構好きなので、少々残念だ。

 さて、ここまで聴くとどこかスティーリー・ダンを思わせる緻密さ、端正さだが、そのせいで独特の閉塞感、倦怠感を感じるのも事実だ。この倦怠感は本アルバム全体の特徴でもあり、一種「袋小路に入り込んだ」「行き詰まり」と、このアルバムがネガティヴに評価される一因にもなっているようだ。次の『Three and Two』が元気はつらつとして爽快感に溢れているので、一層そう感じさせる。昔ラジオで、小田和正が「『Song is Love』『ジャンクション』『フェアウェイ』を自分たちはどんづまり三部作と呼んでいる」と言っていた記憶があるが、そういう閉塞感が確かにこのアルバムからは感じられる。

 このけだるさに拍車をかけるのが3曲目と4曲目で、3曲目の「いつもふたり」は小田が珍しくファルセットを聴かせる曲、4曲目「夢」は鈴木の静物画を思わせる静かな曲だが、どちらも非常にけだるい。聴いているとなんだか眠くなってくる。が、「いつもふたり」は結構良い曲で、私も好きである。やはりメロディ・メイカーとしてのセンスだなあ。5曲目はさっきも書いた鈴木の「この空にはばたく前に」で、作りこんだアレンジで渋く聴かせるAORの佳作。

 6曲目、小田の「夏の終り」はストリングスが入ったとても抒情的な曲で、それまでのクールなAOR感覚は後退する。従来のオフコースの持ち味だ。と思ったら鈴木の「季節は流れて」はアップテンポのロック調で、「失恋のすすめ」はジャズぽい曲、「去っていった友へ-T氏に捧げる-」は再び小田の超抒情的な曲と、B面はきわめてバラエティに富んでいる。小田の「夏の終り」と「去っていった友へ」はメロディは悪くないし、特に「夏の終わり」は小田の名曲と言われているけれども、私の趣味からするとちょっと感傷的過ぎる。鈴木の2曲はバラエティに富んでいてアルバムの味付けとしては悪くないが、やはり曲単独の魅力に欠ける。最後の「心さみしい人よ」はロック風のアレンジと分厚いコーラス、途中の変拍子が印象的な小田の曲で、『Three and Two』の予告のような曲だ。なかなかいいが、終わり方があまりにも暗い。オフコースのネクラが炸裂している。そして最後に隠しトラックとして、アカペラの「いつもいつも」が収録されている。

 というわけで、緻密なアレンジのAOR曲を並べたA面、バラエティ豊かなB面とクオリティは高いが、全編を覆う独特の倦怠感と、オフコースのアルバム中もっと寂しい余韻で損をしているアルバムだ。爽やかさや突き抜けた感覚には欠けるけれども、私は結構好きである。オフコースの室内工芸的なAORが聴ける、貴重なアルバムだ。



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