『終わりの街の終わり』 ケヴィン・ブロックマイヤー ☆☆☆★
最近注目されているらしい若手アメリカ人作家の長編小説を読了。この人はケリー・リンクやエイミー・ベンダーなどと同じく今アメリカで多いアンリアリズム系、解説の小川隆氏によればニュー・ウェーブ・ファビュリストと呼ばれる作家の一人らしい。確かに小説の感触が良く似ている。本書のアイデアはかなりSF的で、ネビュラ賞にノミネートされたらしい。 . . . 本文を読む
『晩春』 小津安二郎監督 ☆☆☆☆☆
日本版DVDを購入して鑑賞。小津監督の映画はこれまで『東京物語』しか観たことがなかったので、これが二本目ということになる。ちなみに本作は『東京物語』と並んで小津の代表作とされる名作で、キネマ旬報ベストテンでも第一位に輝いている。
個人的には『東京物語』よりも衝撃度は高かった。まあ淡々とした映画なので衝撃というと語弊があるかも知れない。ある種の感慨が . . . 本文を読む
『若者はみな悲しい』 F・スコット・フィッツジェラルド ☆☆☆★
光文社古典新訳文庫で出ているフィッツジェラルドの短篇集を読了。これは『グレート・ギャツビー』発表後に出されたオリジナル短編集である。訳者のあとがきにも書かれているが、フィッツジェラルドのオリジナル短編集をそのまま翻訳というのは珍しい。軽い読み物風の短篇もあってある意味新鮮だ。フィッツジェラルドのストーリーテラーとしての腕前も . . . 本文を読む
『No Country for Old Men』 Ethan Coen, Joel Coen監督 ☆☆☆☆☆
トミー・リー・ジョーンズが老保安官の役で出てくるなかなか評判のいい映画、という以外にはまったく予備知識なしで鑑賞した。アカデミー賞を獲ったということすら知らなかった。で、哀愁漂うタイトルからしみじみさせる人間ドラマだろうと思ったら全然違い、恐ろしくスタイリッシュなノワールだった。 . . . 本文を読む
『姑獲鳥の夏』 京極夏彦 ☆☆☆☆
再読。京極夏彦の名高いデビュー作である。私は観ていないが映画化もされた。
大傑作と絶賛する人も多い作品だが、私は初めて本書を読んだ時はあまりのアホらしさに顎が外れそうになった。読んだ人はお分かりと思う、京極堂が最初の謎解きをやるあそこである。アンフェアにもほどがある。というか、はっきり言ってあの謎解き部分だけならバカミスと言ってもいい。これから読む人 . . . 本文を読む
『乱れ雲』 成瀬巳喜男監督 ☆☆☆
『乱れる』に続き成瀬監督の『乱れ雲』を鑑賞。遺作である。ジャケットで分かる通りカラー作品。これも傑作という評判につられて日本版DVDを購入したのだが、個人的には少々期待はずれだった。これまで観た『浮雲』『流れる』『乱れる』があまりに良すぎたので、期待値が高すぎたのかも知れない。
名作『浮雲』や『乱れる』にもメロドラマ的要素があったが、この『乱れ雲』は . . . 本文を読む
『天国と地獄』 ヴァンゲリス ☆☆☆☆
黒澤映画ではなく、『炎のランナー』や『ブレードランナー』の映画音楽でおなじみのギリシャのキーボード奏者ヴァンゲリスが1975年に発表したソロ作である。ヴァンゲリスといえば清澄なシンセサイザーと壮大かつロマンティックな旋律、というイメージがあって、それはまあ本作でも同じなのだが、それに加えて全篇に混声合唱団の堂々たるコーラスがフィーチャーされており、実 . . . 本文を読む
『バーデン・バーデンの夏』 レオニード・ツィプキン ☆☆☆☆☆
うーむ、これは相当に独創的な小説である、内容的にも手法的にも。読み始めてから「なんじゃこりゃ」と思い、読み終えてから「へえー」と唸る。このツィプキンという人は医者で、職業作家ではなかったらしい。この小説を発掘したスーザン・ソンタグによれば、「自分の文学作品が活字になったところは一度も目にしたことがない」のである。彼はまったく発 . . . 本文を読む
『アキレスと亀』 北野武監督 ☆☆★
たけしの新作をようやくDVDで鑑賞。前二作と違って物語に回帰したという噂と、私自身絵画が好きなこともあって期待は大きかったが、残念ながら期待したほどではなかった。
少年時代、青年時代、中年時代と役者が代わり、物語の雰囲気もなんとなく変化していくが、少年時代篇を観ながら思ったのは「これは本当にあのたけしの映像だろうか」ということだった。かつてのあの斬 . . . 本文を読む
『血液と石鹸』 リン・ディン ☆☆☆☆★
いわゆるアンリアリズム系の奇想作家みたいな紹介文に惹かれて購入した短編集。アメリカに移住したベトナム人作家だそうだ。12歳の時に偽名を使ってアメリカに渡り、ペンキ職人や清掃人など職を点々とする傍ら詩や散文を書き、現在では高い評価を得るに至る。謝辞を読むと国際作家議会の招きでイタリアに滞在したりもしている。すごい人だ。これを才能の一言で片付けてはいけ . . . 本文を読む