『獄門島』 市川崑監督 ☆☆☆
昔はやった金田一耕助シリーズを、私はひとつも観たことがない。チープな猟奇性を売り物にしているような印象があって興味がなかったからだが、実は傑作という評判もチラホラ聞こえてくる。ということで『獄門島』のDVDを入手した。シリーズ三作目である。本当は最高傑作という噂の二作目『悪魔の手毬唄』を観たかったのだが、入手できなかったのである。
『獄門島』は前にレビュ . . . 本文を読む
『サン・ジャンの葬儀屋』 ジョエル・エグロフ ☆☆★
昔斜め読みした本を再読した。薄い本で読みやすい文章なのであっという間に読み終わる。
舞台はフランスの小さな村。暇な葬儀屋があり、閑古鳥が鳴いている。暑い夏が過ぎ、ようやく待望の死人が出て、葬儀の運びになる。たった二人しかいない葬儀屋の従業員が霊柩車に乗り込んで隣の村の墓地に向かうが、途中で道に迷ってしまう。
なんというか、他愛も . . . 本文を読む
『あにいもうと』 成瀬巳喜男監督 ☆☆☆★
成瀬監督の『あにいもうと』をDVDで再見。
これも名作と言われていて、確かになかなか良いのだが、個人的には『めし』『稲妻』よりも落ちる。家族の話、つまりホームドラマだけれども全体に泣いたりわめいたりする、言ってみれば「激情演技」が多く、少々メロドラマティックだと思うからだ。まあ成瀬監督には『乱れ雲』のような堂々たるメロドラマもあるわけで、これ . . . 本文を読む
『ゼロ戦』 パスカル・ローズ ☆☆☆☆
再読。女流作家としてはデュラス以来のゴンクール賞受賞作とのこと。パスカル・ローズ。かっこいい名前だ。あんまり聞かない名前で、日本では今のところこれしか翻訳されていないが、母国での評価はどうなのだろうか。
邦題では「沖縄・パリ・幻の愛」などと妙に説明的な副題がついているが、これはやはり「ゼロ戦」だけだとタイトルと内容のイメージが一致しないと考えたか . . . 本文を読む
『Ten』 Jason Moran ☆☆☆☆☆
最近気に入っているジャズ・アルバムを紹介したい。ジェイソン・モランの『Ten』である。ジェイソン・モランはヒューストン出身のアメリカ人ピアニストで、まだ30代半ばの若さ。しかし私は全然知らなかったが、この若さですでにジャズ・ファンの間では天才の名を欲しいままにしている折り紙つきのアーティストらしい。このアルバムはベース、ドラム、ピアノのトリオ . . . 本文を読む
『天狗』 大坪砂男 ☆☆☆★
再読。大坪砂男の名を初めて知ったのは渋澤龍彦のアンソロジー『暗黒のメルヘン』でのことだった。このアンソロジー自体、独特の感性と批評眼に貫かれた逸品なのだが、その中でもひときわ異彩を放っているのがこの大坪砂男の手になる一篇、「零人」である。着想の洒脱さ、美意識、独特の文体、硬質な叙情性、そしてなんといっても徹底した遊戯性。小説はいかに美しく遊べるかが勝負、とでも . . . 本文を読む
『The Man Who Wasn't There』 Joel Coen監督 ☆☆☆★
コーエン兄弟の『The Man Who Wasn't There』をDVDで再見。邦題は『バーバー』。まあ確かに、バーバーの方が分かりやすい。主人公はビリー・ボブ・ソーントン演じる床屋である。
前にも書いたが、私は『ファーゴ』の方が面白かった。確かに本作の方がスタイリッシュだが、ストーリーは弱い。途 . . . 本文を読む
『柳生忍法帖(上・下)』 山田風太郎 ☆☆☆☆☆
本を置けなくなるページターナーの快感を味わいたくなって再読。こういう時に、山田風太郎なら間違いないのである。前に『忍法八犬伝』のところで書いたが、本書は数ある風太郎忍法帖の中でも最高レベル。ということは、娯楽小説として稀に見る大傑作ということになる。
話は例によって二つのチームの対決だが、今回善玉サイドは夫や家族を残虐な殺され方をした7 . . . 本文を読む
『夜の女たち』 溝口健二監督 ☆☆☆
Criterion版のDVDで鑑賞。以前買ったミゾグチ・パッケージの中に収録されている一つだが、これだけまだ観ていなかった。1948年作品。
例によって堕ちていく女の話である。主演は田中絹代。まじめな嫁だった房子(田中絹代)は戦争のせいで夫をなくし、貧乏のせいで子供も死なせてしまう。そして面倒を見てやるという社長の秘書兼愛人となって暮らすが、この社 . . . 本文を読む
『緩やかさ』 ミラン・クンデラ ☆☆☆☆
再読。クンデラが『不滅』の次に発表した作品。あのずっしりと重厚長大な『存在の耐えられない軽さ』『不滅』の後に続くといかにも軽量、軽やかな作品だ。それまでの小説よりはるかに遊びが多く、ふまじめさが横溢している。この「ふまじめ」というのはクンデラ自身に作中に書いている意味で、つまり本書にはクンデラ夫妻も登場し、夫人のヴェラは「あなたはよく、いつか、真面 . . . 本文を読む