アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

さらば友よ

2014-09-29 22:46:00 | 映画
『さらば友よ』 ジャン・エルマン監督   ☆☆☆☆

 60年代末フランスの犯罪映画。これをノワールと呼んでいいものかよく分からないが、ともあれアウトローたちの美学を描いた「男」の映画である。アラン・ドロンとチャールズ・ブロンソンの共演で、今じゃどうか知らないが私たちの世代では「男の友情を描いた渋い名画」ナンバーワンと認知されていた。とにかく有名なのがラストシーンで、刑事に連行されるブロンソンのタバコにドロンがライターで火をつけてやる、ただそれだけのシーンだが、「あれがいいんだよな」とうなずいてみせるのが男の教養、とまでいうとアレだがまあそんなようなもんだった。

 ちなみに「探偵物語」の中で松田優作がこの場面をマネしていた記憶がある。相手役は岩城滉一だったと思うが定かではない。何かのきっかけで工藤ちゃんが「お、『さらば友よ』。ツウだね」と呟き、二人同時に「おれがアラン・ドロン!(の役)」と言う。工藤ちゃんが譲り、手錠をはめられたブロンソンの格好をし、タバコをくわえて歩く。相手が横からライターで火をつけてやる。という場面だった。松田優作もこの映画が好きだったんだろうな。

 まあともあれ、そういう映画である。ノワールというほどドライな感じではないが、一昔前のフランス映画らしいノスタルジックで瀟洒なセンスがある。美女もいっぱい出てくるし、結構エロい。ブロンソンが全裸の娘を地下駐車場で競売にかける場面だが、こういうけしからんシーンがあって背徳性というか退廃性を感じさせるのもフランス映画っぽい。が、やはりこの映画はアラン・ドロンとチャールズ・ブロンソン、この二人の男の色気が決め手だ。

 当時30代前半のアラン・ドロンは若さと美貌に渋みが加わり、まさに絶頂期。とにかく美しい。軍服も、医者の白衣姿もキマるし、逃亡時の不精ヒゲも似合っていてかっこいい。クールで一匹狼で皮肉っぽい憎まれ口を叩くキャラもはまっていて、そんなドロンが男くさいブロンソンと絡みつつ陰謀に巻き込まれていくのだからたまらない。単純だけれども、これぞ男のロマン。ちなみにドロンの美しさを堪能できる映画はたくさんあるが、『太陽がいっぱい』は卑屈だし、『冒険者たち』は少々軽く、『サムライ』は逆にスカし過ぎている。個人的にはこの『さらば友よ』の軍医がほどよいクールさで、かっこよさでは一番だと思う。

 一方のブロンソンも、これでスターの仲間入りをしたというだけあって確かに魅力的だ。ルックスは、冷たい美貌のドロンとは真逆のジャガイモ顔だが、この男くささと人なつっこい感じ、頼りがいのある大人の男の余裕が一緒くたになっていい感じだ。彼がにやけながらクールなドロンに絡んでいってツンケンされるというのが前半のパターンで、中盤以降はドロンの仕事に巻き込まれてドツボにはまり、殴りあったり喧嘩したりし、だんだんと友情を感じるようになっていく。要するに二人はハメられ、ドロンは殺人の濡れ衣を着せられて逃亡、ブロンソンは逮捕されて鬼刑事に尋問されるのだが、ブロンソンは何の義理もないドロンのことを絶対に刑事に売ろうとしない。もう刑事にも全部分かっているのに、「そんな奴は知らねえ」の一点ばり。このひねくれた意地の張り方が泣かせるんだなあ。

 このブロンソンの、口には出さない男の友情にドロンも呼応し、最初はクールに突き放していたのがだんだん信頼するようになる。そして二人の口には出せない思いが、刑事に連行されるブロンソンのタバコに火をつけてやるという、ただそれだけのあのラストシーンに凝縮されていく。この場面でも二人はお互いに知らないフリをしており、「誰だこいつは? 見たことねえ」「こんな男には会ったことないね」と言い合っているので、なおさらこのさりげない動作が感動的になるのである。それに、まったくセリフがないのが良い。ただ黙って火をつけるだけ。うーん、やはり名場面だ。が、ラストの「イエー!」はいらないんじゃないか?

 ブロンソンをしつこく尋問する鬼刑事も存在感があっていい。彼がいるから、ブロンソンとドロンの関係性が際立つ。裏街道を歩む男二人の友情と彼らを追う鬼刑事。フレンチ・ノワールの王道パターンだな。ルパンと次元と銭形みたいなもんだ。

 ストーリーはスリリングというより淡々としている。ハリウッドの娯楽映画みたいなハラハラドキドキは期待しちゃダメで、退屈だと思う人もいるだろう。二人して金庫に閉じ込められるので緊迫するかと思っていると、殴りあったり会話したり寝たりしていて、わりとグダグダしている。これはストーリーより役者の魅力とセリフにできない思い、加えて古いフランス映画っぽいセンスとアンニュイな香りを愉しむ映画である。要するに、これぞ男のロマン、なのである。



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1 コメント

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Unknown (ドロンソン)
2023-02-03 08:52:30
ライターちゃうで、ロウマッチやで乙。
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