『犯罪小説家』 雫井脩介 ☆☆☆
『犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼』が予想以上に面白かったので、続いて雫井脩介の『犯罪小説家』を入手。これはまたかなり雰囲気が異なる小説である。主人公はあるミステリの賞を獲った作家、待居(まちい)。作品が映画化されることになり、エキセントリックな脚本家兼映画監督、小野川に紹介される。小野川はなぜか閉鎖された自殺サイト「落花の会」と自殺した主催者、木ノ瀬蓮美のイメー . . . 本文を読む
『シェーン』 ジョージ・スティーヴンズ監督 ☆☆☆☆
ご存知、西部劇の名作と言われる『シェーン』をiTunesのレンタルで鑑賞。初見である。タイトルと「シェーン、カムバーック!」というあの有名なセリフは子供の頃から知っていたが、特に西部劇ファンでもないのでこれまで観ていなかった。正直さほど期待してなかったが、思いの他良かった。名作として映画史に名前を残しているのも分かる。ジャンル内に閉じて . . . 本文を読む
『飛ぶ孔雀』 山尾悠子 ☆☆☆★
今年の春に出た山尾悠子の新作を読了。伝説の幻想作家と言われる作者だが、確かにこの人の作品はもはや孤高の趣を漂わせている。この小説もちょっと似たようなものを思いつかない。もはや山尾悠子というジャンルの小説である。ユニークな作家であることは間違いなく、ある意味自分のスタイルをきわめている人だが、私見では、本書を傑作と呼べるかどうかは難しいところだ。
例によ . . . 本文を読む
『Unsane』 スティーヴン・ソダーバーグ監督 ☆☆☆
いつの間にか公開されていたソダーバーグ監督の新作を、iTunesのレンタルで鑑賞。この映画は全編iPhoneで撮ったことが話題であることを後で知ったが、映像には全然違和感なし。普通にきれいだ。ソダーバーグ監督作品独特の低温なクールネスの感触もちゃんとあった。つまり、今や映画を撮るのに高価な機材は必要なく、だれでもアイデアとセンスさえ . . . 本文を読む
『オデッサ・ファイル』 フレデリック・フォーサイス ☆☆☆☆
再読。『ジャッカルの日』で有名なフォーサイズのもう一つの代表作である。「オデッサ」とは何か。ナチス親衛隊メンバーをはじめとする旧ナチス党員の逃亡支援のために結成された組織、とウィキペディアにある。諸説あるようだが、一応、実在の組織のようだ。この小説はそのオデッサが一人のジャーナリストに煮え湯を飲まされたエピソードにして、その歴史 . . . 本文を読む
『真夏の方程式』 西谷弘監督 ☆☆☆★
日系ビデオ屋のレンタルDVDで再見。ご存知、福山雅治主演のガリレオ・シリーズである。東野圭吾の原作は既読。
割と最近の映画だった気がしていたが、2013年公開なのでもう5年前ということになる。月日のたつのははやいものです。ガリレオ・シリーズの映画としては『容疑者Xの献身』に続く二作目ということになる。『容疑者X』が都会の冬を舞台にした映画だったの . . . 本文を読む
(前回からの続き)
前述の通り、本書の読みどころは「関ヶ原以後の徳川家康はニセモノだった」というとんでもない状況を仮定した上でめぐらされる、ありとあらゆる政治的駆け引きと権謀術数の物凄さであり、同時に、結果的にそれがどう史実となって残ったか、複数の記録の間で矛盾があるのはなぜか、という点を膨大な文献から引用しながら説明し尽くしていく知的離れ業にある。その事細かな説明には圧倒される(またはあきれ . . . 本文を読む
『影武者徳川家康(上・中・下)』 隆慶一郎 ☆☆☆☆☆
隆慶一郎の代表作と言われる『影武者徳川家康』を読了。文庫本にして全三巻、なかなかのボリュームである。
徳川家康は実は関ヶ原の戦いで死に、その後に天下を取ったのは実はニセモノ、つまり家康の影武者だったという物語である。まあ、ぱっと聞いただけだとトンデモ時代劇と言われても当然のアイデアだ。ところがこれが実は単なる荒唐無稽な思いつきでは . . . 本文を読む
『春のソナタ』 エリック・ロメール ☆☆☆☆★
ロメール「四季の物語」のひとつ、『春のソナタ』を所有しているブルーレイで再見した。私は「四季の物語」では『恋の秋』が一番好きなのだが、この『春のソナタ』も『恋の秋』には及ばないまでも、やっぱりロメール独特の香気に溢れる佳作である。
まず、例によって映像の美しさに魅せられる。今回の季節は春なので、生命が芽吹く春の暖かい感触がすべてを包み込ん . . . 本文を読む
『憂鬱な10か月』 イアン・マキューアン ☆☆☆☆
マキューアン新作の邦訳が出たので購入。これがまた人を喰った小説で、語り手はある女性の腹の中にいる十か月の胎児。この胎児が、「私は彼女の腹の中から彼らの会話に耳を傾けている…」などと読者に語りかけるのである。しかも、メッチャおとなびた口調で。いわば、マキューアン版「吾輩は胎児である」だ。当然、名前はまだない。
訳者あとがきによれば、本書 . . . 本文を読む