アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

オーバー・フェンス

2017-11-28 22:08:35 | 映画
『オーバー・フェンス』 山下敦弘監督   ☆☆☆☆  私は「佐藤泰志 函館三部作」ブルーレイ・ボックスを所有していて、それは前にDVDで観た『海炭市叙景』が大変良かったので三部作全部をブルーレイで観てみたい、と思ったためである。三部作は原作者が同じなので、函館という舞台も含め雰囲気はとても似通っている。が、監督は全部別人なので、当然ながら似通っているようで微妙に違う。私の勝手な評価では、『海炭市 . . . 本文を読む

夏の嘘

2017-11-25 18:00:42 | 
『夏の嘘』 ベルンハルト・シュリンク   ☆☆☆☆  『朗読者』のベルンハルト・シュリンクの短篇集を読了。「シーズンオフ」「バーデンバーデンの夜」「森のなかの家」「真夜中の他人」「最後の夏」「リューゲン島のヨハン・セバスティアン・バッハ」「南への旅」の七篇を収録。  どれも雰囲気はよく似ている。繊細で、静かで、幸福と不幸が少しずつ入り混じったような灰色のトーン。帯の紹介文を読むと「色んな嘘」が . . . 本文を読む

この世界の片隅に

2017-11-22 22:18:41 | アニメ
『この世界の片隅に』 片渕須直監督   ☆☆☆☆☆  昨年日本で公開され、絶賛されたという噂のアニメ『この世界の片隅に』を、ようやくレンタルDVDで鑑賞することができた。なるほど、これは傑作である。第二次世界大戦の前から終戦後まで、呉市で暮らすある市井の家族の暮らしぶりを描く。ポイントは、これは戦争映画ではなく、戦争を背景としたホームドラマだということである。主人公は戦場で戦う男たちではなく、家 . . . 本文を読む

10cc

2017-11-19 20:30:34 | 音楽
『10cc』 10cc   ☆☆☆☆  10ccのデビュー・アルバム。エリック・スチュアート、ロル・クレーム、ケヴィン・ゴドレー、グレアム・グールドマンの四人が揃ったオリジナル10ccの素晴らしさは言葉に尽くせないが、その記念すべき第一弾アルバムがこれである。オリジナル10ccが残したアルバムは4枚あって、アルバムごとにその音楽は驚くべき変化を見せるが、このデビュー・アルバムで聴けるのはそんな中 . . . 本文を読む

ゴールデンボーイ

2017-11-16 22:29:46 | 
『ゴールデンボーイ』 スティーヴン・キング   ☆☆☆☆  『ミスター・メルセデス』が残念な出来だったため、昔のキングの輝きを味わおうと思って再読した。本書はもともと「恐怖の四季」と題された中篇集の春夏篇で、秋冬篇は『スタンド・バイ・ミー』として出版されている。全部一緒だと日本じゃ分厚くなり過ぎるということだろうか。本書に収録されているのは「刑務所のリタ・ヘイワース」と「ゴールデンボーイ」の二篇 . . . 本文を読む

天使のくれた時間(その2)

2017-11-13 21:27:34 | 映画
(前回からの続き)    こうして、「おれの人生に足りないものは何もない」と豪語していたジャックが、ケイトや子供たちや友人たちとの(お世辞にもリッチとは言えない)暮らしの中で、本当の愛情や人間関係を学んでいく。そして再びドン・チードルが彼の人生に介入してきた時、ジャックはもう元の人生には戻りたくないと言う。が、夢の時間には避けがたく終わりがやってくる。必死の抵抗も空しく、ジャックは否応なしに元の . . . 本文を読む

天使のくれた時間(その1)

2017-11-10 22:18:13 | 映画
『天使のくれた時間』 ブレット・ラトナー監督   ☆☆☆☆☆  所有する英語版DVDをブルーレイに買い替えて再見。久しぶりに観たが、この映画は何度観ても面白い。原題はあっさりと「The Family Man」なのだが、邦題「天使のくれた時間」は妙に説明的かつメルヘンチックで、こそばゆい感じである。とはいえ、まあ内容的にもメルヘンチックであることは間違いない。これはクリスマスを舞台にしたフェアリー . . . 本文を読む

ミスター・メルセデス

2017-11-07 21:41:46 | 
『ミスター・メルセデス(上・下)』 スティーヴン・キング   ☆☆★  文庫になるまで待とうと思っていたが、ハードカバー上下二巻がブックオフの棚に並んでいたのでつい買ってしまった。最近のキングはどうもぱっとしないが、本書はキングが初めて書いたミステリにしてアメリカ探偵作家クラブ賞受賞作ということで、いってみればそのお墨付きに期待したのである。  で、こう書くともう次に何を言うか分かると思うが、 . . . 本文を読む

乾いた花

2017-11-04 01:25:16 | 映画
『乾いた花』 篠田正浩監督   ☆☆☆☆  1964年のモノクロ映画。日本版のフィルム・ノワールである。クライテリオン版のブルーレイで鑑賞。  主演は池部良と加賀まりこ。人を殺して刑務所に入っていたヤクザ・村木(池部良)は三年ぶりに出所し、賭場で虚無的な娘・冴子(加賀まりこ)と出会う。生きることは退屈だという冴子はその賭場に飽き足らず、もっと大金を賭けられる賭場はないかと村木に尋ねる。村木は冴 . . . 本文を読む