アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

死亡推定時刻

2013-08-30 22:22:02 | 
『死亡推定時刻』 朔立木   ☆☆☆☆★  ミステリ系では久々の当たりだった。面白い上に勉強になり、かつ「これでいいのか!」とものすごく腹が立つ。テーマは「冤罪」。グリシャムのノンフィクション『無実』や周防監督の『それでもボクはやってない』にかなり近い読後感である。  ドキュメンタリーのようなリアルなタッチが独特だ。小説ではなくルポルタージュのよう。扱われている事件そのものが地味で、現実的であ . . . 本文を読む

エレニの旅

2013-08-28 22:25:47 | 映画
『エレニの旅』 テオ・アンゲロプロス監督   ☆☆☆☆  日本版のブルーレイでアンゲロプロス監督の『エレニの旅』を観た。この監督の映像美と哀愁とゆったりした長回しが、だんだん癖になりつつある。  とりあえずこの『エレニの旅』、これまで観た三作中もっとも圧巻の映像美を見せてくれた。いやもう、その美しさは凄絶の域。観てない人にも分かってもらえるようにがんばって説明すると、まず、全篇を貫くのは基本的 . . . 本文を読む

蝿の王

2013-08-26 23:16:13 | 
『蝿の王』 ウィリアム・ゴールディング   ☆☆☆☆  再読。スティーヴン・キングが自分の著書のあちこちでショッキングな小説として引き合いに出している作品で、要するに無人島に遭難した子供達がだんだん凶暴化していく話だ。以前読んだ時は思ったほど大したことないなと思ったのを覚えていて、これは楳図かずおの『漂流教室』のせいに違いない、あれを読んでいるとこの程度じゃおとなしく感じてしまう、と自分で納得し . . . 本文を読む

エイリアン4

2013-08-24 23:58:19 | 映画
『エイリアン4』 ジャン・ピエール・ジュネ監督   ☆★  エイリアン4作目。前作でリプリーが死んだのにどうやってつなげるのかと思ったらクローン再生するという大技に出た、今のところのシリーズ最終作(『プロメテウス』はとりあえずシリーズ外と考える)。今回「エイリアン・アンソロジー」を買って久しぶりに観たが、いくつかのグロいシーンを除いて、全然話を覚えていなかった。  『エイリアン3』が地味映画だ . . . 本文を読む

ほんとうの私

2013-08-22 17:56:03 | 
『ほんとうの私』 ミラン・クンデラ   ☆☆☆★  クンデラが『緩やかさ』の次に発表した作品第9番。原題は「L'identité」、つまりアイデンティティ。日本語でいうと自己同一性。「アイデンティティ」や「ほんとうの自分」なんていうとよくある「自分探し」テーマかと思われそうだが、クンデラの視点は当然ながらそんなありがちなものにはならない。小説を「相対性のカーニヴァル」と定義するクン . . . 本文を読む

エイリアン3

2013-08-20 23:17:56 | 映画
『エイリアン3』 デヴィッド・フィンチャー監督   ☆☆★  『エイリアン2』に続いて『エイリアン3』。なんでエイリアンばかり観ているかというと、ブルーレイのボックスセットを買ってしまったからである。ぬはは。  さて、3作目の「エイリアン」はまた「2」とは打って変わった雰囲気。どんなシリーズ物でもそうだが、この「エイリアン・シリーズ」は特にそれぞれの作品の雰囲気の違いが顕著で、そういう意味では . . . 本文を読む

店員

2013-08-18 15:37:45 | 
『店員』 バーナード・マラマッド   ☆☆☆☆★  マラマッドの長編を読了。邦訳は30年近く絶版になっていたらしい。確かに、小説としてのケレン味には欠ける。テーマも設定もストーリー展開もきわめて地味だ。が、噛み締める苦味の中からしみじみとペーソスが香り立つ、この味の深さは決して侮れない。  舞台はニューヨークのユダヤ人地区にある、小さな、昔ながらの食料品店。営むのはモリス・ボーバーと妻アイダ。 . . . 本文を読む

エイリアン2

2013-08-16 23:44:16 | 映画
『エイリアン2』 ジェームズ・キャメロン監督   ☆☆☆☆  原題は「Aliens」。つまり複数形。ということで、確か「今度は戦争だ!」がキャッチコピーだったと思うが、エイリアンが大勢出てくる。人間側も貨物船クルーではなく精鋭のコンバット兵士達。ろくに武器がなかった前回と違い、火器も充実、ガチンコ勝負である。芸術的な恐怖映画だった前作とはうって変わってSFアクション大作と化している。  私は最 . . . 本文を読む

パーマー・エルドリッチの三つの聖痕

2013-08-14 23:12:56 | 
『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』 フィリップ・K・ディック   ☆☆☆  ディックの長編を再読。わりと評価が高い作品で、確かにディックのトレードマークである現実崩壊が前面に押し出されているが、個人的にはさほど出来がいい作品とは思えない。  例によって複数視点でいくつかものイベントが平行して進み、プロットは錯綜する。過酷な環境である火星と、そこに強制的に送り込まれる移民たちというお馴染みの . . . 本文を読む

アマルコルド(その2)

2013-08-12 21:28:24 | 映画
(前回からの続き)  そして次は、おそらくこの映画の中でもっとも美しく壮麗なエピソード、豪華客船の到来だ。豪華客船が近海を通るというので、見物するために町中の人間が船に乗って沖へ出て行く。町は昼間からもぬけの空。待つことしばし、人々の興奮もだんだんと覚め、波間に漂う船の上で一人残らずうたた寝を始めた真夜中、それは唐突に出現する。闇の中から、巨大なダイヤモンドのような豪華客船が姿を現すのだ。少年の . . . 本文を読む