『異邦人たちの慰め』 イアン・マキューアン ☆☆★
イアン・マキューアンのかなり初期の作品を再読。わりと短い小説で、あっという間に読める。ヴェニスらしいがはっきりとは名前が示されない異国の町に観光旅行で滞在するコリンとメアリの若いカップルが、現地の夫婦と知り合いになり、家に招かれる。どこか奇妙だが、何がおかしいのかは分からない。やがてその理由に気づいた時、二人を待ち受けていたのは身の毛もよ . . . 本文を読む
（前回からの続き）
さて、映画の終盤、ついにおばあちゃんが死ぬ。結局自分の家には帰れないまま。これが真知子先生への最後の打撃となる。医者としてやっていく自信をなくし、女としての生き方にも悩む彼女は、ついに医者を辞める決心をする。そして院長にそれを告げる。院長を演じるのはすまけい。言わずと知れた「男はつらいよ」シリーズの常連俳優にして名バイプレイヤーだが、この院長役はおそらく、すまけいが演じた中 . . . 本文を読む
『男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日』 山田洋次監督 ☆☆☆★
シリーズ第40作目。かなり後期の作品で、レギュラー俳優陣にも老いが目立ってきているが、渥美清は不思議とまだ変わらない。この次の第41作目がウィーンに行く『寅次郎心の旅路』であることを考えると、寅次郎はまだまだ元気だ。
この作品は非常に深いテーマと数々の名ゼリフ名場面を擁する一方、当時の俵万智「サラダ記念日」ブームへの臆面もな . . . 本文を読む
『ライオンの皮をまとって』 マイケル・オンダーチェ ☆☆☆★
『イギリス人の患者』のオンダーチェの長編を読了。『イギリス人の患者』より前の長編で、カラヴァッジョやハナなど同じ登場人物が出てきたりする。訳者によれば、もともと詩人であるオンダーチェが詩から小説に移行する途中の作品、ということらしい。
確かに詩的な文体が駆使されている。メタファーは飛躍する、描写は暗示に満ちている。テレビや映 . . . 本文を読む
『黒の奔流』 渡辺祐介監督 ☆☆
家の近所の日系DVD屋さんで安く入手した。原作・松本清張、キャストは山崎努、岡田茉莉子、松村達雄、佐藤慶、中村伸郎その他。これだけ見ると渋い佳作になっておかしくない顔ぶれだが、実のところかなり残念な出来である。
まず音楽が演歌のカラオケみたいで安っぽく、かつ、効果音みたいに決まりきった使い方ばかりなので白けてしまう。ケバケバしい照明や、モノローグで状 . . . 本文を読む
『文豪怪談傑作選 芥川龍之介集 妖婆』 芥川龍之介 ☆☆☆★
芥川龍之介が書いた怪談を集めた選集。スタイリストであり奇想の作家でもある芥川の怪談とはどんなものだろうかと思って買ったのだが、実際に読んでみると、短い寓話風のものや長目のもの、エッセー風の作品や中国怪談の抜粋など色々なものがごっちゃに収録されており、アンソロジーとしてはいささか散漫なのが残念だった。
個々の作品の出来や手法に . . . 本文を読む
『グッバイガール』 ハーバート・ロス監督 ☆☆★
英語版DVDで鑑賞。初見である。1970年代80年代あたりの懐かしい感じのロマンティック・コメディがないかと思って買った。期待したイメージは『天国から来たチャンピオン』やゴールディー・ホーンの『潮風のいたずら』あたり、特に『天国から来たチャンピオン』だが、この『グッバイガール』は公開の年も一年違いと近い。主演のリチャード・ドレイファスはアカ . . . 本文を読む
『スタイルズ荘の怪事件』 アガサ・クリスティー ☆☆☆
最近クリスティーの良さを再認識したため、前に一度読んだがまるで覚えていない『スタイルズ荘の怪事件』を再読することにした。まあ大したことはなかったんだろうが、今読むとまた発見があるかも知れないと思ったのである。なんせこれはミステリの女王クリスティーのデビュー作にして、エルキュール・ポアロ初登場の作品なのだ。やはりクリスティー・ファン、ポ . . . 本文を読む
『HHhH』 ローラン・ビネ ☆☆☆★
チェコの新人作家のデビュー作を読了。ゴンクール賞最優秀新人賞をはじめ色んな賞を獲っている。Amazonの作品紹介やカスタマーレビューでも大変好評のようだし、また本屋でぱらぱらとめくった時にミラン・クンデラについて書かれた一節が目に入り、面白そうだと思って買った。
題材はナチのユダヤ人虐殺で、ゲシュタポ長官ヒムラーの右腕にして「金髪の野獣」と呼ばれ . . . 本文を読む
『座頭市血煙り街道』 三隅研次監督 ☆☆★
またしても座頭市。なぜ最近座頭市ばかり観ているかというと、去年11月にクライテリオンから発売されたブルーレイ・ボックスを買ったのである。全25作、89年の勝新最後の『座頭市』が入っていないのが残念だが、他は全部入っている。クライテリオンの仕事なので、映像クオリティもまったく問題ない。日本でもブルーレイ・ボックスが出たようだが、18作収録で4万円以 . . . 本文を読む