『男はつらいよ フーテンの寅』 森崎東監督 ☆☆☆★
シリーズ三作目を観た。まったくの初見である。これは山田洋次が監督しなかった『男はつらいよ』二作品の一つで、もう一つは四作目の『新・男はつらいよ』なのだが、そのせいかあまり人気がなく、やっぱり山田洋次作品より落ちるのかなと思ってこれまで敬遠していた。
ところが実際観てみると、決して悪くない。確かに山田作品とは微妙に肌合いが違うし、独特 . . . 本文を読む
『充たされざる者』 カズオ・イシグロ ☆☆☆☆☆
『日の名残り』に続き『充たされざる者』を読了。
これはまた全然タイプが違う。とても奇妙な小説である。現代文学には「奇妙」といわれる作品も多いが、そんな中でもとびきり奇妙だ。少なくとも私はこれと似た感じの小説を読んだことがない。あえていえばカフカに似ている。不条理な展開、迷宮的なストーリー、堂々巡り。登場人物がやたら長広舌をふるう、という . . . 本文を読む
『キック・アス』 マシュー・ヴォーン監督 ☆☆☆★
米国版のDVDで鑑賞。面白いという評判を聞いて観たいと思っていたのだが、DVDを手に取ってジャケットを見るとその気をなくしてやめるということを繰り返していた。このDVDジャケットからは正直、究極のお馬鹿映画としか思えないのである。時間と金が無駄になる予感をひしひしと感じる。で、さんざん迷ったあげく観てみたわけだが、その結果はまあ、わりと面 . . . 本文を読む
『敵』 筒井康隆 ☆☆☆☆☆
ハードカバーで再読。円熟味溢れる傑作だ。
本書のテーマは「老い」である。といっても老いの辛さや悲しさだけでなく、老いの愉しみや醍醐味までが確信犯的に描かれているのが筒井康隆らしい。これはある意味、理想的な晩年の姿を描いた小説でもあるのかも知れない。もちろんそれは世間的に安楽で幸福な老後といわれるようなものではなく、厳しい孤独や死の恐怖を突き抜けたところに現 . . . 本文を読む
『女の中にいる他人』 成瀬巳喜男監督 ☆☆☆☆★
成瀬監督晩年の作品をDVDで再見。遺作である『乱れ雲』のひとつ前の作品だ。
いつもの成瀬映画を予想してこれを観ると激しく戸惑うことになる。日常の営みの中のさざ波を細やかに描く、といういつものスタイルとはかけ離れている。何を血迷ったかこれはサスペンスもの、ノワールなのである。が、そこはやはり成瀬監督ならではノワールになっており、日本のミス . . . 本文を読む
『日の名残り』 カズオ・イシグロ ☆☆☆☆☆
これはびっくり。なんと、こんなに面白い小説だったとは。「日の名残り」なんて地味なタイトルだし、書評も「静かな感動」とか「しっとりした抒情」とかそんなのばかりなので、よほど起伏に欠ける眠たい小説なのかと思っていた。執事として人生を送ってきた男の晩年の心象風景を淡く静かに描き出す、みたいな。だからこれがイシグロの代表作と言われても、これまで手を出さ . . . 本文を読む
『Time Machine Tour』 Rush ☆☆☆☆
4月10日の日曜日、マディソン・スクエア・ガーデンで行われたラッシュのコンサートに行ってきた。うちは田舎なので日曜の夜にマンハッタンまで出かけるのは面倒なのだが、まあラッシュのコンサートとあれば仕方がない。
今回のツアーは「Time Machine Tour」と銘打たれていて、目玉は人気作『Moving Picures』のコン . . . 本文を読む
イギリス人の女 ―短いゴシック・ロマン―
199*年の秋から冬にかけて、ぼくは長い休暇を取って東欧を旅行した。それが生まれて初めての一人旅だったが、ある時乗換駅で列車をつかまえそこね、どことも知れない田舎町で立ち往生してしまった。あたりは寒く、暗い。ぼくはパニックに陥った。もう列車はないと繰り返すだけの無愛想な駅員と押し問答をしたり、ぼろぼろになった電話帳を調べたり、 . . . 本文を読む
『理由』 宮部みゆき ☆☆☆☆
再読。直木賞受賞作である。
宮部みゆきの小説にしては異色というか、特徴ある一作だ。ほぼ全篇ルポルタージュ形式になっている。もちろん創作なのだが、あたかも実際に起きた事件のルポという見せかけになっていて、たとえばインタビュー形式で関係者の談話が記述されたり、登場する関係者のプロフィールが事務的に詳しく説明されたりする。「筆者は」などといって著者が顔を出した . . . 本文を読む
『Shall We ダンス?』 周防正行監督 ☆☆☆☆
日本版DVDで再見。やっぱり面白い。小粒感はあるものの、良作でしょう。ちょっと恥ずかしい競技に打ち込むスポ根もの、という邦画のジャンルがあるとすれば(『ウォーターボーイズ』『フラガール』など)、これもその系列に入れていいと思う。ただし、主人公を若者ではなく中年男のサラリーマンに設定したところがユニークで、この映画独特の味となっている。 . . . 本文を読む