(前回の続き)
まずは「コスモポリタンズ」誌に掲載されたショートショート数篇が冒頭に並んでいる。上巻同様、それぞれの作品に短いコメントをつける。
「物知り博士」
ショートショートその1。「私」が船旅で同室になったいやな奴のポートレイトを描く試みだが、乗客たちの会話の中で起きたちょっとした諍いが意外な展開を見せる。短い中にいくつものドラマとサスペンスを凝縮してみせるのがモームの技の冴えだ。モ . . . 本文を読む
『モーム短篇選(上・下)』 モーム ☆☆☆☆★
岩波文庫から出ている『モーム短篇選』上下巻を読了。もともとモームは、代表作『月と六ペンス』が私のハートの中で殿堂入りしている、特別に思い入れがある作家だが、実は他の作品はあまり読んでいない。文学史的には第一級の作家ではない、というような意識がどこかにあるからかも知れない。
モームといえば起伏のあるストーリー、はっきりした結末のある小説を擁 . . . 本文を読む
『Eye In The Sky』 Gavin Hood監督 ☆☆☆☆
iTunesのレンタルで鑑賞。英国軍部の局地的な対テロリスト作戦を描いたものだが、新しいタイプの戦争映画といっていいかも知れない。テロリストのアジトを攻撃する時にもはやマシンガンを構えた兵士たちが突入するでもなく、ミサイルを装備した戦闘機が飛ぶわけでもなく、攻撃はすべて遠隔操縦のドローンによって行われる。事前の情報収集は . . . 本文を読む
『ドニャ・ペルフェクタ: 完璧な婦人』 ベニート・ペレス=ガルドス ☆☆☆★
スペインの作家ガルドスが19世紀後半に書いた『ドニャ・ペルフェクタ』を読了。実はそんな古い小説だとは知らず、アマゾンの「19世紀後半のスペインでは、精神・政治・経済などすべての面で多様な〈イズム〉の信奉者間で〈極彩色の闘争〉が繰り広げられていた。この小説に登場する、一見すると良い人間たちは、いつかしら、自らの正し . . . 本文を読む
『45 Years』 Andrew Haigh監督 ☆☆☆☆☆
シャーロット・ランプリング主演の英国映画をiTunesのレンタルで鑑賞。邦題は『さざなみ』。しっとりした美しい映画である。芳醇にして静謐、まろやかにしてビタースイート、哀しみと幸福感をないまぜにして観るものを惑わせる上質な映画だった。
冒頭のシーンから観客を捉えるのは、英国の田舎の美しい風景と空気感である。小鳥のさえずり。 . . . 本文を読む
『まるで天使のような』 マーガレット・ミラー ☆☆☆☆
アマゾンのカスタマーレビューに並んでいる絶賛の言葉を見て、これはどうも読んだ方がよさそうだと思い購入。バクチで身を持ち崩した30代の私立探偵がふとしたきっかけで人探しを頼まれ、そこから込み入った事件に巻き込まれていく、というレイモンド・チャンドラー風ハードボイルド・ミステリだが、あとがきによれば、更にこれは「最後の一撃」ものの傑作らし . . . 本文を読む
『Senior』 Royksopp ☆☆☆☆
先ごろ解散してしまったエレクトロニカ・ユニット、ロイクソップの2010年リリースCD。シニアというタイトルでジャケット真っ黒けの陰気なイメージだが、この直前に彼らは『Junior』というCDをリリースしていて、こっちはジャケットもポップで派手、つまりこの二作は対になっている。内容も『Junior』がヒットチャート・ポップスかと思うぐらいキャッチ . . . 本文を読む
『沈黙の王』 宮城谷昌光 ☆☆☆☆
宮城谷昌光の本を初めて読んだ。古代中国の物語を集めた短編集である。収録作品は「沈黙の王」「地中の火」「妖異記」「豊饒の門」「鳳凰の冠」の五篇で、一応歴史小説ということになるのだろうが、神話の色を帯びている。渋澤龍彦ほどではないけれどもいくばくかの幻想性があり、おそらくは化生のものである美姫などが登場する。子供の頃横山光輝のマンガ『水滸伝』にハマった私とし . . . 本文を読む
『見知らぬ乗客』 アルフレッド・ヒッチコック監督 ☆☆☆☆★
ヒッチコック51年の作品、モノクロ。数あるヒッチコック映画の中でもトップクラスの傑作である。主人公は有名なテニスプレイヤーのガイ。彼は欲深な妻ミリアムと別れて、美しく優しく家柄もいいアンと再婚しようとしているが、たまたま列車の中で出会ったうさんくさい男ブルーノから交換殺人のアイデアを持ちかけられる。ブルーノが邪魔なミリアムを殺し . . . 本文を読む
(前回からの続き)
エーコのバランス感覚をよく示すもう一つの例は、ナイジェリアで起きたミスコンテストにまつわる暴動の一件である。性に厳しいイスラム教徒がミスコンテスト開催に反対し、強行されそうになったので暴動が起き、数百人の死者が出た。まさに文化の衝突である。未婚女性は全身を布で覆い肌を見せてはいけないといってミスコンを拒絶するイスラム文化に対し、西洋文化がこう言ったわけだ。「これも我々の文化 . . . 本文を読む