『めまい』 ボワロー=ナルスジャック ☆☆☆★
ヒッチコックの超有名映画の原作を読了。映画はもちろん観たことあるがかなり昔なので細部はよく覚えていない。ただダリが手がけたことで有名な夢のシーンは強烈で記憶に残っている。
小説は大筋こそ映画と同じだが、雰囲気は結構違う。舞台が第二次大戦中のパリということで、死と神秘のムードがより濃厚なのもそうだが、主人公のキャラクターがヨーロッパ的冷淡さ . . . 本文を読む
『危機』 イエス ☆☆☆☆☆
いわゆるプログレッシヴ・ロックの代表作の一つ。大抵の場合ピンク・フロイド『狂気』、キング・クリムゾン『クリムゾン・キングの宮殿』あたりと並べて三本の指に入れられるぐらい、折り紙つきの傑作である。
プログレッシヴ・ロック、略してプログレとは何か。本来シンプルさを志向するロック音楽の中に複雑さ・多様性を志向するクラシック音楽的価値観を持ち込んだ音楽、と考えれば . . . 本文を読む
『黄色い雨』 フリオ・リャマサーレス ☆☆☆☆☆
ちょっと前に読了。久々の大当たり。私のツボにどんぴしゃりきました。最高。
読む前は、淡々とした文章によって綴られるエッセー的な小説を予想していた。物語性はあんまりないような。たとえばヨシフ・ブロツキーの『ヴェネツィア―水の迷宮の夢』のような。ところが読んでみると、そういう部分もありながら、マルケス的な強靭で骨太な物語性をも備えた小説だっ . . . 本文を読む
『運命じゃない人』 内田けんじ監督 ☆☆☆☆
DVDを購入して鑑賞。噂通り面白い。
『パルプ・フィクション』みたいだとどこかに書いてあったが、確かに時系列がシャッフルされているところが似ている。しかしそれぞれのエピソードの関連性が緩く、それだけに柔軟で多義的だった『パルプ・フィクション』に比べ、こっちの方が仕掛けがきっちりしていてより緊密である。その代わり、すべてが説明し尽くされてすっ . . . 本文を読む
『ヴァリス』 フィリップ・K・ディック ☆☆☆☆
『アルベマス』を読んだので『ヴァリス』を読みたくなり再読。ものすごく久しぶりに読んだ。昔読んだ時はわけわからなかったが今読めばまた違うんじゃないかという期待感があり、実際に多少は違っていたけれども、例の「釈義」はやっぱり今読んでもわけわからなかった。これは仕方ないな、もう。宗教の知識がないと駄目だ。
ちなみに私が持ってるのはサンリオ文庫 . . . 本文を読む
『地下鉄(メトロ)に乗って』 篠原哲雄監督 ☆☆
浅田次郎小説の映画化。レンタルビデオで鑑賞。
小説も以前読んだことがある。浅田次郎の作品の中でも感動作と言われているようだが、私は今ひとつピンとこなかった。どうも私はいわゆる感動作とか泣けるといわれる作品には鈍感な、冷酷非情な人間らしい。浅田次郎は面白いと思うものもあるが、「泣ける」なんてキャッチコピーがついているものでは必ず幻滅するこ . . . 本文を読む
『わたしを離さないで』 カズオ・イシグロ ☆☆☆☆★
とても評判がいいカズオ・イシグロの『わたしを離さないで』を読んだ。この作家の本を読むのは初めてだ。タイトルからしてセンチメンタルな恋愛小説だろうと思って敬遠していたのだが、SF的な設定の物語と聞いて興味をひかれたのである。
設定はSF的だが、全体の印象は多少ファンタジーがかった青春小説だった。キャシーという語り手が子供時代から現在ま . . . 本文を読む
『妻は告白する』 増村保造 ☆☆☆★
DVDを購入して鑑賞。私にとっては『しとやかな獣』の次に観る若尾文子主演作である。
モノクロの重厚な映像。冒頭の法廷シーン。名作との評判だし、法廷ものの好きな私がワクワクして観ていると、いきなり事件の説明がある。登山の途中で宙吊りになった夫婦。妻がザイルを切って夫は転落死、二人は助かる。さて、ザイルを切ったのはやむを得ない緊急避難だったのか、それと . . . 本文を読む
『アルベマス』 フィリップ・K・ディック ☆☆☆
中途半端に読んで放り出していたディックの長編を再読。『アルベマス』はあの『ヴァリス』の原型といわれる作品で、ディックの死後に刊行された。本来はボツ原稿なわけである。そのあたりの経緯は本書のあとがきに詳しい説明がある。一応ストーリーは最後まで完成しているので、中途半端なところで終わったりはしていない。
正直言ってあまりいい出来とは言いがた . . . 本文を読む
『幕末太陽傳』 川島雄三監督 ☆☆☆★
DVDを入手して鑑賞。『しとやかな獣』の川島雄三監督の名作と呼ばれている作品だ。
この物語は複数の落語がベースになっているらしい。そのアレンジがうまいのも見所の一つらしいが、私は落語は知らないのでまったく分からない。品川宿に居残った左平次(フランキー堺)が、そのずうずうしさとウィットで芸者の喧嘩とか心中騒ぎとか若旦那の駆け落ちとかをさばいていく話 . . . 本文を読む