アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

シベールの日曜日

2011-11-29 20:00:54 | 映画
『シベールの日曜日』 セルジュ・ブールギニヨン監督   ☆☆☆☆★  日本版DVDで鑑賞。1962年のモノクロ映画である。  フランスの田舎町を舞台とした静謐な、崇高さすら漂う悲劇。記憶喪失に苦しむ社会的無能力者ピエールと親に捨てられた12歳の少女フランソワーズが知り合い、やがて心を通わせ会い、毎週日曜日の逢瀬を続けるが、それを異常視する周囲の人々の偏見がやがて悲劇を生む。このストーリーとフラ . . . 本文を読む

ティモシー・アーチャーの転生

2011-11-27 18:12:50 | 
『ティモシー・アーチャーの転生』 フィリップ・K・ディック   ☆☆☆☆  再読。ディックの遺作である。『ヴァリス』『聖なる侵入』に続くヴァリス三部作の一つといわれることもあるが、本書にヴァリスは登場せずストーリーにも関連性はない。SFではなく、普通小説である。舞台は1970年代から80年代のカリフォルニア。『戦争が終り、世界の終りが始まった』あたりと似た感じだ。ディック・ファンにはディックの普 . . . 本文を読む

幸福の黄色いハンカチ

2011-11-25 20:49:24 | 映画
『幸福の黄色いハンカチ』 山田洋次監督   ☆☆☆☆  『遙かなる山の呼び声』が非常に良かったので、一度ちゃんと観てみようと思って『幸福の黄色いハンカチ』のDVDを入手した。  女にふられた欽也(武田鉄矢)は仕事を辞め、退職金で新車を買って北海道旅行に出かける。そしてやはり一人旅の朱実(桃井かおり)を強引にナンパし、刑務所から出所したばかりの島(高倉健)とも知り合う。三人で旅を続けるうちに、カ . . . 本文を読む

クラウド・コレクター ― 雲をつかむような話

2011-11-23 21:49:20 | 
『クラウド・コレクター ― 雲をつかむような話』 クラフト・エヴィング商會   ☆☆☆☆☆  久しぶりに再読。文庫版も出ているが、私が持っているのはハードカバーの方である。これは普通の本と違って掲載されている写真やらポスターやらが非常に重要で、というかクラフト・エヴィング商會の場合文章・写真・イラスト・装丁すべてが一体となって「書物」という作品といえるのだけれども、文庫版では写真が全部イラストに . . . 本文を読む

冷たい熱帯魚

2011-11-21 18:58:28 | 映画
『冷たい熱帯魚』 園子温監督   ☆☆☆★  最近とみに評価が高まりつつあるらしい園子温監督の『冷たい熱帯魚』をDVDで鑑賞。猛毒エンターテインメントという話なので、どれほどグロいのかと思いつつ観た。  結果、予想したほどグロくはなかった。死体をバラバラに解体するシーンはあるが、血だまりに肉塊が飛び散っているぐらいで、残酷描写に耽溺するような病的な感じはない。ある意味クローネンバーグの方がグロ . . . 本文を読む

ソーラー

2011-11-19 12:07:59 | 
『ソーラー』 イアン・マキューアン   ☆☆☆☆  マキューアンの新作を読了。面白かったが、おそらく(特に日本では)評判は悪いだろうと予想される。なぜかというと、今までで一番ふざけた小説だからだ。もともとマキューアンにはこういうふざけたところがあって、傑作『アムステルダム』でもその精神は遺憾なく発揮されていたが、真剣な顔をしてブラックジョークを言う英国的態度のせいでなんとなく隠蔽されていた。しか . . . 本文を読む

ジョバンニ

2011-11-17 22:03:13 | 創作
          ジョバンニ  孤独が耐え難いほどに高まったあの日々の中で、私は犬を飼おうと思いついた。ペットショップに入って店内を見回すと、私の目はたちまち一匹の子犬に引き寄せられた。ふさふさした白と茶の毛がいかにも柔らかそうで、その濡れた大きな目は何かをこいねがうかのようにじっと私に注がれている。私は子犬を買い求め、ジョバンニと名づけた。ジョバンニはアイリッシュ・セッター犬だった。間断な . . . 本文を読む

モダン・タイムス

2011-11-15 09:50:40 | 映画
『モダン・タイムス』 チャールズ・チャップリン監督   ☆☆☆☆☆  Criterionからチャップリンの『モダン・タイムス』が出ていたので入手。久しぶりに観た。やはりチャップリンは『街の灯』『黄金狂時代』そしてこの『モダン・タイムス』が三大傑作なんじゃないか(といっても全作品は観ていないけど)。  この映画の特徴は、まずチャップリンの批評精神が強く出ていること。それは冒頭の映像からも明らかで . . . 本文を読む

夜光の階段

2011-11-13 10:31:38 | 
『夜光の階段(上・下)』 松本清張   ☆☆☆☆  日本に出張した際、帰りの飛行機の中で読もうと思って買った松本清張のミステリ。ピカレスクもの。『黒革の手帖』『わるいやつら』系の話である。松本清張のこのパターンは外れがない。これも知名度は劣るが、十分面白かった。  主人公はプレイボーイの美容師で、例によって女たちを利用しながらのし上がっていく。しかしほぼ主人公視点で語られる『わるいやつら』と違 . . . 本文を読む

ロッキー

2011-11-10 21:18:16 | 映画
『ロッキー』 ジョン・G・アヴィルドセン監督   ☆☆☆☆  ロッキー再見。懐かしいなあ。1976年作品である。低予算ながらアカデミー賞受賞作。無名の俳優だったシルベスター・スタローンを一躍トップスターに押し上げた作品でもあり、その内容、制作事情ともにアメリカン・ドリームを体現した映画である。  私は後続のパート2、パート3を先に観て、このオリジナルを観たのはだいぶ後だった。だから、とにかく八 . . . 本文を読む