アブソリュート・エゴ・レビュー

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カメラを止めるな!

2019-01-06 12:42:41 | 映画
『カメラを止めるな!』 上田慎一郎監督   ☆☆☆☆

 日本で随分とヒットしたらしい『カメラを止めるな!』を、Amazonでブルーレイを購入してようやく鑑賞。「映画好きにはたまらない」「最後は号泣」「幸福感溢れる映画鑑賞体験」などなど絶賛の嵐が吹き荒れていたので、一体どんな映画なんだろうと興味津々だったが、なるほど、こんな映画だったか。

 ところで、この映画については「何を言ってもネタバレになる」という人がいて、つまり映画の構成について書くのもネタバレだと言われる危険性があるので、ネタバレが嫌な人はこの下は読まないで下さい。ただし、もちろん個々の仕掛けをバラすつもりはなく、映画全体の設定、構成、手法などについて書くだけで、私としてはこれから観る人の愉しみをスポイルしない範囲にとどめるつもりです。

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 三谷幸喜+内田しんじ監督みたいな感じ、というのは耳にしていたので、叙述トリックで観客をあっと言わせる映画なんだろうとは予想していた。まあ確かにそうだったが、内田しんじ監督の映画ほど派手な「騙し」ではない。つまり、それまでこうと思っていた世界観が一気にひっくり返ったりはしない。もっと微笑ましく、「ああ、なるほどそういうことだったのね」と笑いを誘う小ネタが、あちこちに埋め込まれている。

 それからもう半分は、三谷幸喜の『ラヂオの時間』である。30分のゾンビ映画を生放送ワンカットで撮る、というミッションを与えられた製作チームが、続出するトラブルとハプニングをなんとかしのいでいく。「カメラを止めるな!」とは、要するにカメラを止められない一発勝負の30分、ということである。この制約とそれがもたらす必死のドタバタ劇というアイデアは、確かに『ラヂオの時間』と一緒で、ただしこちらは映像なので、ストーリーの辻褄合わせのための脚本書き換えよりも、映像の辻褄合わせ、要するに放送事故やNG回避がメインとなる。

 映像版ということで、まず最初の30分で出来上がりのゾンビ映画(より正確には、オンエアされた番組)を見せ、次の30分で時間をさかのぼって撮影当日までの経緯(監督がどんな人か、家族がどんな人たちか、出演者たちがどんな人たちか等)を見せ、最後の30分で撮影時の舞台裏を見せる。当然ながら、主な見どころは最初のオンエア版と最後の舞台裏のギャップである。ここで、「なるほど、あれはそういうことだったのね」という笑いを取る。

 ここで巧いのは、最初のオンエア版のところどころにちょっとおかしな部分が見え隠れする、この加減である。NGまではいかないが、ちょっとヘンだ。これがハプニングなのか、もともと脚本にあったものなのかはよく分からない。これはいわば伏線で、最後の「謎解き」時に「ああ、なるほど、そういえばそういうのあったね」と観客に思わせ、納得させるための前フリなのである。これがあるから、最後の謎解きがより楽しくなる。

 それからまた、オンエア・バージョンに違和感もなかったし、観客には脚本通りと思えていた部分が実はハプニングだった、というギャグもあって、これがまた笑える。そのへんの伏線は、番組制作までの経緯を見せた第二部で張られている。スタッフや出演者の性癖やこだわりを見せておいて、それがハプニングに繋がるパターンだ。

 個人的に特にウケたのは、なんでも我慢してしまう人の好い監督の抑圧された内面が、撮影時に爆発するギャグである。ギャグなんだけど中間管理職的な悲哀も漂っていて、大変味わい深い。

 という風に、最後の「謎解き」部分に仕掛けられたネタやギャグは一様ではなく、かなり色々なアイデアが盛り込まれ、練られていることが分かる。観ているとさらっと通り過ぎてしまうが、この小ネタの連続シーンには相当な労力がつぎこまれていると見た。

 とはいえ、全体の印象としては過剰に作り込まれた密な感じはなく、どこかゆるい。内田しんじ監督の『アフタースクール』など、物語パズルの快感に加えて「お前の人生がつまらないのはお前自身のせいだ」などのメッセージ性や、青春映画的なノスタルジー性も入っていて、そこが映画として盛りだくさんなゴージャス感につながっていたが、この映画はパズル部分以外かなり控え目だ。監督の仕事に対する葛藤や、家族への思いなども一応入っているが、さりげない仄めかしにとどまっていて、あまり前面には出てこない。「しっぽまでぎっしりアンコがつまってる」感じではない。それがこの映画のゆるさに繋がっている。出演者がみんな無名の俳優さん達なのも、そう思わせる理由の一つだろう。

 そのゆるさは、いい意味ではこの映画の微笑ましさ、肩ひじ張らずに観れるまったり感を醸し出しているし、悪い意味ではこじんまりまとめてしまった、とも言える。しかし、いきなり「ゾンビ映画」から始まるこの映画は最初からB級テイスト全開なわけで、結果的にこの「微笑ましさ」は良い方向に作用していると思う。

 どこかで見た顔がまったくいない出演者たちは、みんな普通の人っぽく、オーラのなさが地味でもあり初々しくもあるが、「監督」を演じた役者さんは結構良かった。最初のオンエア・バージョンでは「これだよ、これが映画だよ!」などとのべつ叫んでいるのでうるさい熱血漢のイメージだったが、過去の経緯パートに入ると急に感じが変わって、温厚でおとなしい、気配りの人になる。そしてその温厚さの下に、色々妥協しながら生きている苦労人の辛さを滲ませる。この役者さん、今後あちこちで見かけるようになるかも知れない。



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