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てらまち・ねっと



 昨日の最高裁の水俣病認定訴訟の判決は、期待されたものとはいえ、ある種、当然の判決と受け止めた。
 当然の判決を当然の判決として出せるようになってきた最高裁は変化してきている、というべきか。
 ・・・ともかく、その判決の概要や全文にリンクし、要点をブログに転記しておく。

 いくつかの注目点のうち、朝日新聞の「判決要旨」には、次のまとめもある。
   「 ■水俣病認定に行政の裁量はあるか
  水俣病認定に際して、熊本県知事は、個々の患者の病状についての医学的判断だけでなく、原因物質の摂取歴や生活歴、種々の疫学的な知見や調査の結果などを十分に考慮した上で総合的に検討する必要がある。
  これは水俣病に罹患(りかん)しているかという現在や過去の確定した客観的事実を確認する行為であり、この点に関する行政庁の判断はその裁量に委ねられるべき性質のものではない。


 最高裁はこの15年から20年あたり、行政裁量を広く認める方向を基本にして判決をまとめてきたとの印象を持っているけれど、水俣病認定においては「行政に裁量はない」としたのはふむふむ。

 ところで、先日、他の自治体の住民の方から「寺町さんが行政訴訟に詳しいので、意見を聞かせてほしいと弁護士が言っている」との話が合った。
 昨日、その人たちやその住民訴訟の代理人をしている弁護士にお会いした。
 初対面。
 最初に、弁護士から「寺町さん、有名なんですね。○○○○といって本をたくさん書いている裁判官がいるんですが、この前、フェイスブックで『岐阜で行政訴訟を本人でたくさんやっている人がいる』と書いていましたよ」といわれた。
 私は、「その裁判官は知りませんが・・」、と申し上げるしかなかった。
 それ以降の会話は略。

    それにしても、案件の内容から・・・・ひどい役所、首長がいるものと驚いた。

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●【水俣病認定訴訟】遺族側が勝訴、最高裁が初認定 もう1件も判断へ
        産経 2013.4.16
 熊本県が水俣病の患者と認定しなかったのは不当として、熊本県水俣市の女性の遺族が処分の取り消しと認定義務付けを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(寺田逸郎裁判長)は16日、県側の上告を棄却した。女性を水俣病と認定するよう命じた2審福岡高裁判決が確定した。最高裁の認定は初めて。

 水俣病をめぐっては同日、大阪府豊中市の女性(水俣市出身)の遺族が患者認定などを求めた訴訟の上告審判決もあり、水俣病と認めなかった2審判決を破棄し、審理を大阪高裁に差し戻した。

 国が昭和52年に示した判断条件は、水俣病と認定するには手足の感覚障害に加えて運動失調や視野狭窄(きょうさく)など複数の症状の組み合わせを必要とし、そうでない場合は総合的に判断するとしている。
女性2人はいずれも認定申請を棄却された。

 熊本県水俣市の溝口秋生さん(81)が起こした訴訟では、2審福岡高裁が52年判断条件を「十分であるとは言い難い」と指摘した上で女性の生活環境などを独自に検討し、水俣病と認められると判断。原告側の逆転勝訴を言い渡した。

 大阪府豊中市の女性の訴訟で2審大阪高裁は「裁判所の判断は県の判断が不合理かどうかという観点で行われるべき」との立場から原告側逆転敗訴とした。女性は今年3月に死亡、長女が訴訟を承継した。

●水俣病、初の最高裁認定 患者救済拡大に道
        日経 2013/4/16 15:06
水俣病患者と認められなかった熊本県の女性の遺族が、同県に認定を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(寺田逸郎裁判長)は16日、女性を水俣病患者と認め、遺族の勝訴が確定した。
女性は県の手続きを経て患者認定される。

 行政が水俣病と認めなかった患者を最高裁が患者認定したのは初めて。被害者救済の道を広げるもので、今後、未認定患者から認定を求める訴訟が相次ぐ可能性がある。

 一時金を支払う特別措置法などで政治決着を目指してきた国の対応にも影響を与えそうだ。

 判決は未認定患者について「裁判所は個々の事案を総合的に検討し、水俣病かどうかを判断すべきだ」とし、県の審査とは別に司法が一から審査できると判断した。

 女性の症状は手足の感覚障害だが「感覚障害だけの水俣病が存在しない、との科学的実証はない」と指摘。国が認定基準で定めた複数症状の組み合わせがなくても認定の余地はあるとした。

 一方、同小法廷は同日、感覚障害のみを発症した大阪府の女性について、患者と認めなかった二審を破棄し、審理を大阪高裁に差し戻した。

●水俣病:「かすかな希望」石牟礼道子さん…最高裁認定
           毎日新聞 2013年04月16日
 水俣病被害者を描いた「苦海浄土」などの著作がある作家、石牟礼道子さん(86)は熊本市内の自宅で報道陣の取材に応じた。
「行政はろくに調べもせずに申請を棄却し大変残酷なことだ」。
椅子に腰を下ろし、ゆっくりと言葉を絞り出すように判決について語った。

 石牟礼さんは勝訴した原告の溝口さんに対し「一応胸は晴れたと思う。よかったねと背中をなでてあげたい」とねぎらった。
その上で行政を批判。「行政は本当に何もしてこなかった。日本のエリートたちが次の文明に進むため(被害者を)人柱にした」と述べた。

 東日本大震災の後に詠んだ句「毒死列島 身悶(もだ)えしつつ 野辺の花」に触れ「野辺に咲く花のように(今回の判決は)かすかな希望だ」と評価した。【松田栄二郎】

●【水俣病認定訴訟】視点・司法救済の道開く 認定の在り方議論を
          産経 2013.4.16 21:41
 未認定患者を水俣病と認めた最高裁判決は、水俣病に罹患(りかん)しているかどうかは、証拠を総合的に検討した上で裁判所が独自に判断することができるとの立場を明示。行政に訴えを退けられた人々への司法救済の道を開いた。

 患者認定を求める人々に立ちはだかってきたのが、昭和52年判断条件だ。
判断条件では「複数の症状の組み合わせ」があれば詳細な立証がなくとも水俣病と認定し、そうでない場合も総合的な判断によって患者と認める余地を残している。
 ただ、認定審査の現場では組み合わせの有無がほぼ絶対的な基準と見なされ、単一症状の場合、多くは訴えを退けられてきた。

 最高裁判決は、判断条件の趣旨が症状の組み合わせだけを求めているわけではないことを確認している。硬直的な運用を続けてきた行政は、より弾力的な対応が求められることになる。一方、症状に苦しむ人々は高齢化し、多くは命あるうちの救済を求めて患者認定をあきらめ、一時金による「政治決着」受け入れを余儀なくされてきた。

 また、訴訟で患者認定されるには症状と有機水銀暴露の因果関係について厳密な立証が必要となり、原告に課されたハードルは高い。
今回の判決がどれだけの救済につながるかは不透明だ。

 「公害の原点」と言われながら公式確認から半世紀以上を経ていまだ全面解決を見ない水俣病問題。判決を契機に、患者認定の在り方を議論する必要があるだろう。(滝口亜希)

行政事件訴訟法
(この法律の趣旨)
第一条  行政事件訴訟については、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。

(行政事件訴訟)
第二条  この法律において「行政事件訴訟」とは、抗告訴訟、当事者訴訟、民衆訴訟及び機関訴訟をいう。

(抗告訴訟)
第三条  この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。
2  この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
3  この法律において「裁決の取消しの訴え」とは、審査請求、異議申立てその他の不服申立て(以下単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決、決定その他の行為(以下単に「裁決」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
4  この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。
5  この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。
6  この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。
 一  行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。
 二  行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
7  この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。


●水俣病認定訴訟 最高裁判決の要旨
        朝日 2013年4月17日0時19分
 水俣病の認定義務付けをめぐり、16日に最高裁が言い渡した2件の上告審判決の要旨は以下の通り。

■水俣病の定義
 公害健康被害補償法などは水俣病がどういう疾病であるか特に規定を置いていないが、専門家の意見などに照らせば、水俣病とは、魚介類に蓄積されたメチル水銀を口から摂取することにより起こる神経系疾患と解するのが相当だ。

■水俣病認定に行政の裁量はあるか
 水俣病認定に際して、熊本県知事は、個々の患者の病状についての医学的判断だけでなく、原因物質の摂取歴や生活歴、種々の疫学的な知見や調査の結果などを十分に考慮した上で総合的に検討する必要がある。
これは水俣病に罹患(りかん)しているかという現在や過去の確定した客観的事実を確認する行為であり、この点に関する行政庁の判断はその裁量に委ねられるべき性質のものではない。

■司法審査のあり方
 県側は、水俣病認定についての裁判所の審査と判断は(1)1977年に国が定めた判断条件(77年基準)に医学的な研究の状況や定説的な知見に照らして不合理な点があるかどうか(2)(専門家らで構成する)公害被害者認定審査会の判断に過誤・欠落があって、これに依拠した行政庁の判断に不合理な点があるかどうか――といった観点で判断されるべきだと主張する。

 しかし、裁判所においては、経験則に照らして諸般の事情と関係証拠を総合的に検討し、個々の具体的な症状と原因物質との間に個別的な因果関係があるかどうかなどを審理の対象として、申請者が水俣病に罹患しているかどうかを個別具体的に判断すべきだと解するのが相当だ。

■77年基準の合理性と限界
 77年基準は認定に関する行政側の運用指針であり、そこに定める症状の組み合わせがあれば水俣病と認定する。
しかし、手足の先の感覚障害だけの水俣病が存在しないという科学的な実証はない。
水俣病にみられる各症状がそれぞれ単独では一般に特異ではないと考えられることから、77年基準は「複数の症状が認められる場合には通常水俣病と認められる」として、個々の具体的な症状と原因物質との間の個別的な因果関係について立証の必要がないとするものである。
 いわば、一般的な知見を前提に、推認という形をとることによって、多くの申請について、迅速かつ適切に判断するための基準として定めたという限度で合理性を有する。

 他方で、77年基準が定める症状の組み合わせが認められない場合でも、経験則に照らして諸般の事情と関係証拠を総合的に検討し、水俣病と認定する余地を排除するものとはいえない。


■77年基準の意味
 環境庁(当時)は、71年に出した事務次官通知の趣旨は、申請者の全症状について、水俣病に関する高度の学識と豊富な経験に基づいて総合的に検討し、医学的にみて水俣病である可能性が高いと判断される場合には、その者の症状が水俣病の範囲に含まれるというものであると、78年の事務次官通知で説明している。
さらに77年基準はこの趣旨を具体化・明確化するために示されたものであるとしているのも、同じ理解に立つものだ。

■結論
 福岡高裁判決は、今回の判決と同趣旨と認められるので、県側の上告を棄却する。
一方、大阪高裁判決は、水俣病認定にあたっては県知事の判断に不合理な点があるかどうかという観点から審査すべきだとしている。
今回の判決と異なる判断であり、破棄は免れない。原告が水俣病に罹患していたかどうか、さらに審理を尽くさせるため、大阪高裁に差し戻す。


● 最高裁Webページ
    判決概要
事件番号 平成24(行ヒ)202 事件名 水俣病認定申請棄却処分取消,水俣病認定義務付け請求事件
裁判年月日 平成25年04月16日 法廷名 最高裁判所第三小法廷 裁判種別 判決
結果 棄却   原審裁判所名 福岡高等裁判所 原審事件番号 平成20(行コ)6 原審裁判年月日 平成24年02月27日

判示事項  裁判要旨 公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法3条1項に基づく水俣病の認定の申請を棄却する処分の取消訴訟における審理及び判断の方法

   判決全文
- 1 -
平成24年(行ヒ)第202号 水俣病認定申請棄却処分取消,水俣病認定義務
付け請求事件  平成25年4月16日 第三小法廷判決

主 文 本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。

理 由
第1 事案の概要
1 亡A(昭和52年7月▲日に死亡。以下「本件申請者」という。)は,昭和
49年8月1日,上告人熊本県知事(以下「上告人知事」という。)に対し,公害
に係る健康被害の救済に関する特別措置法(昭和44年法律第90号。昭和48年
法律第111号により廃止。以下「救済法」という。)3条1項の規定に基づく水
俣病の認定の申請(以下「本件認定申請」という。)をしたところ,上告人知事
は,平成7年8月18日,本件認定申請を棄却する処分(以下「本件処分」とい
う。)をした。


本件は,本件申請者の子である被上告人が,上告人知事を相手に,本件処分の取
消しを求める
とともに,上告人熊本県を相手に,上告人知事において,救済法3条
1項に基づき,本件申請者のかかっていた疾病が水俣市及び葦北郡の区域に係る水
質の汚濁の影響による水俣病である旨の認定をすることの義務付けを求める事案
ある。

2 原審が適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 救済措置に係る法令制定前の状況
(2) 救済措置に係る関係法令等の定め
(3) 本件訴訟に至る経緯等
ア 本件申請者は,明治32年の出生以来水俣湾周辺に居住して日常的に魚介類
を摂食していたところ,昭和47年頃から味覚鈍麻や手足のしびれ等を訴え,同4
9年8月1日,上告人知事に対し,救済法3条1項の認定の申請(本件認定申請)
をしたが,同52年7月▲日,死亡した。その死因は,死亡診断書上,腸閉塞,腹
膜炎,腎不全と記載されていた。

イ 平成7年7月15日,熊本県公害被害者認定審査会は,本件申請者につい
て,判断できる資料がそろっていない場合に当たる旨の答申を行った。

ウ 上告人知事は,上記答申を受けて,平成7年8月18日,有機水銀に対する
ばく露歴は認められるが,水俣病と判断できる資料は得られなかったとして,本件
認定申請を棄却する処分(本件処分)をした。

エ 本件申請者の子である被上告人は,平成7年10月13日,環境庁長官(当
時)に対し,本件処分の取消しを求めて審査請求をしたが,環境大臣は,同13年
10月29日,同審査請求を棄却する裁決をした。

オ 被上告人は,平成13年12月19日,本件訴えを提起した。

第2 上告代理人青野洋士ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたもの
を除く。)について
1 原審は,上記事実関係等の下において,救済法及び救済法施行令にいう水俣
病にり患しているか否かの判断は,事実認定に属するものであり,医学的知見を含
む経験則に照らして全証拠を総合検討して行うものであると判断した上,本件申請
者は昭和52年判断条件には適合しないものの上記の総合検討によれば救済法及び
救済法施行令にいう水俣病にり患していたものと認められ,本件処分は違法である
- 9 -
として,被上告人の本件処分の取消しを求める請求及び救済法3条1項の認定をす
ることの義務付けを求める請求をいずれも認容すべきものとした。

これに対し,上告人らの論旨は,
① 救済法等にいう水俣病は,一般的定説的な
医学的知見からしてメチル水銀がなければそれにかかることはないものとして他の
疾病と鑑別診断することができるような病像を有する疾病をいい,救済法等は,あ
る者が水俣病にかかっているか否かの判断を一般的定説的な知見に基づく医学的診
断に委ねているのであって,このような一般的定説的な医学的知見に基づいて水俣
病にかかっていると医学的に診断することの可否が専ら処分行政庁の審査の対象と
なり,そのような医学的な診断が得られない場合における個々の具体的な症候と原
因物質との個別的な因果関係の有無の詳細な検討まではその審査の対象となるもの
ではない旨,

また,② 本件処分が適法か否かの判断は,処分行政庁の判断の基準
とされた昭和52年判断条件に水俣病に関する医学的研究の状況や医学界における
一般的定説的な医学的知見に照らして不合理な点があるか否か,熊本県公害被害者
認定審査会の調査審議・判断に過誤・欠落があってこれに依拠してされた処分行政
庁の判断に不合理な点があるか否かという観点からされるべきである旨をいうもの
である。

2 以下,救済法等にいう水俣病の意義並びにそのり患の有無に係る処分行政庁
の審査及びその判断に関する裁判所の審査の在り方について検討する。
(1)…・・・(略)・・・
(2) また,救済法等において指定されている疾病の認定に際し,都道府県知事
が,公害被害者認定審査会又は公害健康被害認定審査会の意見を聴いて申請に係る
疾病が指定された地域に係る大気の汚染又は水質の汚濁の影響によるものであるか
どうかの認定を行うことになるが,この場合において都道府県知事が行うべき検討
は,大気の汚染又は水質の汚濁の影響によるものであるかどうかについて,個々の
- 13 -
患者の病状等についての医学的判断のみならず,患者の原因物質に対するばく露歴
や生活歴及び種々の疫学的な知見や調査の結果等の十分な考慮をした上で総合的に
行われる必要があるというべきであるところ,救済法等にいう水俣病の認定に当た
っても,上記と同様に,必要に応じた多角的,総合的な見地からの検討が求められ
るというべきである。

そして,上記の認定自体は,前記(1)アのような客観的事象としての水俣病のり
患の有無という現在又は過去の確定した客観的事実を確認する行為であって,この
点に関する処分行政庁の判断はその裁量に委ねられるべき性質のものではないとい
うべきであり,前記(1)ウのとおり処分行政庁の審査の対象を殊更に狭義に限定し
て解すべきものともいえない以上,上記のような処分行政庁の判断の適否に関する
裁判所の審理及び判断は,上告人らの論旨のいうように,処分行政庁の判断の基準
とされた昭和52年判断条件に水俣病に関する医学的研究の状況や医学界における
一般的定説的な医学的知見に照らして不合理な点があるか否か,公害被害者認定審
査会の調査審議・判断に過誤・欠落があってこれに依拠してされた処分行政庁の判
断に不合理な点があるか否かといった観点から行われるべきものではなく,裁判所
において,経験則に照らして個々の事案における諸般の事情と関係証拠を総合的に
検討し,個々の具体的な症候と原因物質との間の個別的な因果関係の有無等を審理
の対象として,申請者につき水俣病のり患の有無を個別具体的に判断すべきものと
解するのが相当である。


上記の認定に係る所轄行政庁の運用の指針としての昭和52年判断条件に定める
症候の組合せが認められない四肢末端優位の感覚障害のみの水俣病が存在しないと
いう科学的な実証はないところ,昭和52年判断条件は,水俣病にみられる各症候
- 14 -
がそれぞれ単独では一般に非特異的であると考えられることから,水俣病であるこ
とを判断するに当たっては,総合的な検討が必要であるとした上で,上記症候の組
合せが認められる場合には,通常水俣病と認められるとして個々の具体的な症候と
原因物質との間の個別的な因果関係についてそれ以上の立証の必要がないとするも
のであり,いわば一般的な知見を前提としての推認という形を採ることによって多
くの申請について迅速かつ適切な判断を行うための基準を定めたものとしてその限
度での合理性を有するものであるといえようが,

他方で,上記症候の組合せが認め
られない場合についても,経験則に照らして諸般の事情と関係証拠を総合的に検討
した上で,個々の具体的な症候と原因物質との間の個別的な因果関係の有無等に係
る個別具体的な判断により水俣病と認定する余地を排除するものとはいえないとい
うべきである。

昭和53年事務次官通知が,水俣病の範囲に関する昭和46年事務
次官通知の趣旨は,申請者が水俣病にかかっているかどうかの検討の対象とすべき
全症候について,水俣病に関する高度の学識と豊富な経験に基づいて総合的に検討
し,医学的にみて水俣病である蓋然性が高いと判断される場合には,その者の症候
が水俣病の範囲に含まれるというものであるとし,昭和52年判断条件はこの趣旨
を具体化及び明確化するために示されたものであるとしているのも,上記と同一の
理解に立つものであると解される。

(3)・・原審の判断は,以上と同旨をいうものとして,是認することができる。・・・
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 寺田逸郎 裁判官 田原睦夫 裁判官 岡部喜代子 裁判官
大谷剛彦 裁判官 大橋正春)


●最高裁Webページ
       判決概要
事件番号 平成24(行ヒ)245 事件名 水俣病認定申請棄却処分取消等請求事件
裁判年月日 平成25年04月16日 法廷名 最高裁判所第三小法廷 裁判種別 判決
結果 破棄差戻し  原審裁判所名 大阪高等裁判所 原審事件番号 平成22(行コ)124 原審裁判年月日 平成24年04月12日

判示事項  裁判要旨 公害健康被害の補償等に関する法律4条2項に基づく水俣病の認定の申請を棄却する処分の取消訴訟における審理及び判断の方法

       判決全文
- 1 -
平成24年(行ヒ)第245号 水俣病認定申請棄却処分取消等請求事件
平成25年4月16日 第三小法廷判決

主 文 原判決を破棄する。
本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理 由
第1 事案の概要
1 亡X(平成25年3月▲日に死亡。以下「本件申請者」という。)は,昭和
53年9月30日,熊本県知事に対し,公害健康被害補償法(昭和48年法律第1
11号。なお,同法の題名は,昭和62年法律第97号により「公害健康被害の補
償等に関する法律」に改められた。以下,改正の前後を問わず「公健法」とい
う。)4条2項の規定に基づく水俣病の認定の申請(以下「本件認定申請」とい
う。)をしたところ,同知事は,同55年5月2日,本件認定申請を棄却する処分
(以下「本件処分」という。)をした。

本件は,本件申請者の子である上告人が,被上告人を相手に,本件処分の取消し
を求めるとともに,熊本県知事において,公健法5条及び4条2項に基づき,本件
申請者がそのかかっていた疾病が水俣市及び葦北郡の区域に係る水質の汚濁の影響
による水俣病である旨の認定を受けることができる者であった旨の決定をすること
の義務付けを求める事案である。

・・・・・・(略)・・・
2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
・・・・・・(略)・・・
上記症候の組合せが認められる場合には,通常水俣病と認められるとして個々の具体的な症候と
原因物質との間の個別的な因果関係についてそれ以上の立証の必要がないとするも
- 14 -
のであり,いわば一般的な知見を前提としての推認という形を採ることによって多
くの申請について迅速かつ適切な判断を行うための基準を定めたものとしてその限
度での合理性を有するものであるといえようが,

他方で,上記症候の組合せが認め
られない場合についても,経験則に照らして諸般の事情と関係証拠を総合的に検討
した上で,個々の具体的な症候と原因物質との間の個別的な因果関係の有無等に係
る個別具体的な判断により水俣病と認定する余地を排除するものとはいえないとい
うべきである。
・・・・・(略)・・・

(3) 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の
違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れな
い。そして,本件申請者が水俣病にり患していたか否かについて更に審理を尽くさ
せるため,本件を原審に差し戻すこととする。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 寺田逸郎 裁判官 田原睦夫 裁判官 岡部喜代子 裁判官
大谷剛彦 裁判官 大橋正春)


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