一枚の葉

私の好きな画伯・小倉遊亀さんの言葉です。

「一枚の葉が手に入れば宇宙全体が手に入る」

汚れっちまった悲しみに……

2015-10-24 15:34:37 | 読書



      詩集なんぞを開いてみる気になった
      のは、深まりゆく秋のせいか。
      ご存じ中原中也の詩である。

      
      『山羊の歌』所収       
      「汚れっちまった悲しみに……」より


       汚れっちまった悲しみに
       今日も小雪の降りかかる
       汚れっちまった悲しみに 
       今日も風さえ吹きすぎる

       汚れっちまった悲しみは
       たとへば狐の皮裘(かはぶくろ)
       汚れっちまった悲しみは
       小雪のかかってちぢこまる

       汚れっちまった悲しみは
       なにのぞむなくねがふなく
       汚れっちまった悲しみは
       倦怠(けだい)のうちに
              死を夢む

       汚れっちまった悲しみに
       いたいたしくも
          怖気(おぢけ)づき

       汚れっちまった悲しみに
       なすところもなく日は暮れる
                  ……


      中原中也(明治40~昭和12)
      わずか30歳で逝去。
      15歳から詩作をはじめ、早熟で
      感受性のつよい子だった。


      さて、
      上の詩の「汚れっちまった悲しみ」
      とは何を示すのでしょう。
      17歳で同棲した女優の長谷川靖子
      に去られ、
      (しかも、彼女は中也の友達の小林
       秀雄のところに走った)
      口惜しさや傷心もあったであろうが、
      そんな個別のことをいっているので
      はないと思う。
      
      おそらく、そういった失恋をも含め
      た中也自身の内にうずく、
      「生」の悲しみをいっているのでは
      ないだろうか。

      私の手もとにある資料には、
      「過剰な自意識による生の倦怠の情」
      とある。