蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

PERFECT DAYS

2024年01月08日 | 映画の感想
PERFECT DAYS

平山(役所広司)は、トイレ清掃員。スカイツリーが見える古いアパートに住み、質素な暮らしを送っている。朝早く近所の掃き掃除する音で目を覚まし、自販機で缶コーヒーを買って道具を積んだ軽自動車で渋谷の公衆トイレをくまなく掃除する。同僚のタカシ(柄本時生)はサボりがちで、ガールズバーの娘を落とそうと平山に金をせびる・・・という話。

もともと渋谷の公衆トイレ(とても現実に存在するとは思えないような立派なもの)のプロモーションをしようとして作っているうちに長編になったらしい。なので、同じようなシーン(平山が起床して現場に赴く場面とか、現場近くの寺でサンドイッチを食べる場面など)が繰り返し流れるが、意外と退屈に感じない。

タイトル通り、「こんな単調で何も起きない1日があったら素晴らしいのに」と、仕事やその他の雑事が多すぎて時間に追いまくられて忙しい(と本人だけは思っている)現代の日本人は感じるのかもしれない。

平山が聞くのが古い(しかし今となっては価値が高いらしい)カセットテープだったり、平山の家には照明器具とラジカセ以外の家電がなかったり(ミニマリストってこと?)、行きつけの店があって艶っぽいママ(石川さゆり)は平山のことを憎からず思っていたり・・・うーん、ちょっとスノビズムくさい気がしないでもなかった。
それに終盤で明かされる平山の生い立ちに関するエピソードはない方がよかったと思う。
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ONEはなぜ成功したのか?

2024年01月06日 | 本の感想
ONEはなぜ成功したのか?(松田琢磨、幡野武彦 日経BP)

日本の主要海運3社のコンテナ船部門を統合して発足したコンテナ船専門の海運会社ONEをめぐる状況と成功要因を探る内容。

本書でも言及されるように、大手企業の主力部門だが部門収益が悪いために、苦し紛れ?に切り離して同業他社の同種部門と統合させたケースは数多いが、目を覆いたくなるような失敗に終わる場合がほとんどである。
ONEも当初、「うまくいくはずがない」「ていのいい事業整理にすぎない」みたいな声に満ちていたが、フタを開けると、トヨタに対抗するような巨額の利益を計上した。

その成功要因を、本作では4つあげる。
1)本社をシンガポールにおいて本社と適切な距離感を維持して主体的な経営判断ができた。(本書では「出島」方式と呼んでいる)
2)政府や銀行主導でなく、民間3社の主体的な判断で設立した。主導権争いが発生せず、例えばシステムは郵船のものをそのまま導入している。
3)ベストな運営体制を追求できる計画が当初から明確だった。
4)経営層が若く、自由は意思決定ができた。

うーん、成功要因は誰にでも書けそうな内容だよね・・・
ONE誕生の経緯も「まだ日が浅いから証言が得られない」みたいなことが書かれていたけど、そこを関係者に食い込んで匿名であっても手がかりを得て記事にするのが記者の腕の見せ所なのでは?と思ってしまう。それに、ONEに限らず、市況上昇で世界中のコンテナ海運会社が空前の利益を計上しているわけだしね・・・
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パシヨン

2024年01月06日 | 本の感想
パシヨン(川越宗一 PHP)

江戸時代最後の伴天連と言われた小西彦七(マンショ)の生涯を描く。

彦七は小西行長の孫で小西家家臣の益田源助に育てられる。長崎のセミナリヨで学んだのち、キリシタン追放によりマカオに渡るが、そこでは余計者扱いされ、ローマへ渡り、そこで司祭となって迫害の地日本へ戻るが・・・という話。

もう一人の主人公として、幕府の重臣でキリシタン弾圧政策をすすめた井上政重が登場する。弾圧する側とされる側、陽気でのんびりした雰囲気の彦七と苦悩の厭世者である政重が、対照的に描かれて物語を盛り上げてくれる。どちらかというと政重を中心に描いた方が面白かったような気がしないでもない。政重というと、どうしても映画「沈黙」におけるイッセー尾形の姿が思い浮かんでしまうのだが、本作においては苦悩に満ちた為政者として、ちょっと違ったイメージで描かれている。

川越さんの作品を読むのは3冊目で、「熱源」と「見果てぬ王道」は、国や人種、思想を超越した越境者を描いていたので、本作も彦七の世界旅行を中心に描くのかと思ったが、日本におけるキリシタン弾圧史みたいな感じで、あまり越境感?はなかった。

頼るべきスポンサーや組織もないのに日本からヨーロッパに渡った彦七もすごいが、ほぼ単独行でエルサレムにたどり着き、さらにヨーロッパにまで到達した岐部渇水は(それが事実なら)偉大なる旅行者と言えそうで、彼の行跡の物語も面白そうだ。

「熱源」もそうだったが、エピローグ部分の余韻がとても素晴らしくて感動した。
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サピエンス全史

2024年01月03日 | 本の感想
サピエンス全史(ユヴァル・ノア・ハラリ 河出書房新社)

本書がベストセラーになったは5年以上前で、今さら・・・ではあるものの、とても面白くよめた。興奮を誘うような戦争描写やありがちな列伝風の偉人伝ではなく、サピエンスが地球上の他の生き物よりも繁栄?しているように見える理由をうまく説明している。

認知革命(サピエンスだけが共同幻想を持てた)→農業革命(余剰物の発生で人口が増加)→書記革命(法典や宗教の発生)→貨幣や帝国という共同幻想がドライブ要因に→資本主義の自己増殖性(将来への信頼〜信用拡大〜経済成長というサイクル)→科学革命(帝国が科学の発展をサポートし成果を利用する)→産業革命とはエネルギー抽出法の革命→国家と市場経済による平和
というそれぞれの主題の間の連接が自然で、まるで因果関係があるように思えるように叙述されていることが人気の要因かな、と思えた。

終盤にある「幸福とは何か」を考察した章も興味深かった。結局幸福感はセロトニンの分泌によって決まり、その濃度には上限があることを考えると、一定限度以上にサピエンスは幸福になれない、とか。どうも著者は仏教びいき?のようで、その考え方が詳しめに紹介されている(渇愛こそが不幸の源・・・みたいな)
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