燃えよ剣(映画)
土方歳三を中心に新選組の興亡を描く。
原作は、司馬遼太郎アディクションの私が、司馬さんの数多の作品の中でも最も好みの作品。なので映画を見るのが多少怖かったのだが、本作は意外にも(失礼)よく出来ていた。少なくとも見ている方が恥ずかしくなるようなシーンは一切なかった。
町道場時代から土方の死までを万遍なく描いているので焦点ボケになってしまうのは仕方ない。予備知識なしで映画作品としてみると散漫なのだろうが、原作あるいは新選組ファンが脳内妄想の再現フィルムとして鑑賞する分には優れた内容だと思う。
その大きな要因が、町中の情景や建物の具合、衣装、戦場描写などが丁寧でリアリティ(考証に沿っているのか否かはわからないが、いわゆる時代劇風のセットやロケにはなっておらず、本物っぽい)を感じさせてくれることだと思う。
司馬遼太郎は、「燃えよ剣」の他にも多数の新選組モノを残しているが、私が最も好きなシーンは「新選組血風録」で井上源三郎が日野宿の狐と河童の思い出を語る場面。
この(ストーリー展開上はどうでもいい)場面が(完全に同じではなく、2つのシーンに分かれていたが)本作で採用されていたことに(ここが好きなのはオレだけじゃなかったんだな、と)感動した。
(以下、「新選組血風録」から引用)
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「日野宿の鎮守に狐穴があってな。ここの眷族は利口が評判で、宿場はずれの飯能屋という店へときどき酒を買いにくるが、ちゃんと金をおいてゆく」
「木の葉ではないでしょうか」
「そう思うだろう。それがちゃんと青錆の出たりっぱな通宝だ」
「はあ」
「利口なものさ。土方さんの生家に、源ってえ作男がいてね。おれと同じ源三郎だが、これは芋作りの名人で、あの在所の石田村では芋源といわれたくらいさ。あの村に浅川という川が流れていてね。この浅川で泳いでいる隣村の子供がよく芋を盗りに来た。源が死んだときに、この子供らが芋の大きな葉をかついで葬式にやってきたよ。村では河童じゃないかと思って気味わるがったが、おれは河童じゃないと思っている」
「なぜです」
「なにこどものころの土方さんもその中にまじっているのを見たからさ」
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山崎烝役の村本大輔も、早口と座った目で異彩を放っていた。