蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

スティグマータ

2019年02月09日 | 本の感想
スティグマータ(近藤史恵 新潮社)

フランスのプロ自転車チームに所属する白石は、年齢的にも実績的にも大きなレースに出続けることができるか(チームと契約できるか)微妙になってきている。
しかし、今年のツールドフランスには選抜される。そのレースにはかつてのトップスター(だったが薬物を使用したとして出場停止になっていたメネンコも出場する。白石はメネンコから個人的な依頼として(メネンコに個人的なうらみを持つ)チームメンバーを監視してほしいといわれるが・・・という話。

著者の自転車レースものは継続して読んでいたのだが(本書の前作では白石が登場しなかったので)白石が主人公のシリーズは終了してしまったと思いこんで、本作は未読だった。
久々に読んでみて、「このシリーズってこんなに面白かったっけ?」と思うくらい楽しく読めた。

白石は、よく言えば、自分を客観視して冷静な判断ができるレーサーなのだが、悪く言うと、野心に欠けて醒めていて闘争心に欠ける選手、でもある。
プロレーサーとしての矜持と、エースになる能力がないことの自覚に挟まれて悩む白石の葛藤がこのシリーズの読みどころだと思うのだが、本書では特にそれが鮮明であった。

白石シリーズのテーマは、「アシストとは何か?」あるいは「自分が主人公でないストーリーを生きる人生とは?」といったところだろうか。本作でも、チームのエースの二コラのアシストという任務に忠実なあまり、白石は大きな魚を逃してしまう。そのシーンでは(これまでの経緯からそうするだろうとは思いつつも)「それはないだろ!白石さん(あるいは近藤さん)」と叫びたくなるような気分になった。

ミステリ的な味付けをするためか、かつての伝説のエース(メネンコ)を白石に絡ませたりして謎めかしたりしているのだが、あまりうまく行っていないように思え、謎解きもなんか消化不良な感じだったのが、ちょっとだけ残念で、レースそのものに絞った内容にしても良かったんじゃないかな?と思えた。
しかし、全体としては、シリーズ既刊を再読したくなるような、そして白石のその後を是非書いていただきたいと思わせる、充実の一冊だった。
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孤狼の血(映画)

2019年02月09日 | 映画の感想
孤狼の血(映画)

すでに原作を読んでいたので、映画化の話を聞いたとき、役所さんと大上はフィットしないのでは?とちょっと心配でしたが、もう冒頭から大上その人としか思えませんでした。
さすが、俳優としてモノが違う、というところでしょうか。

原作ではどんでん返しっぽく描かれていた日岡(松坂桃李)に関する設定は、早々にタネ明かしされてしまったので、「肝心の仕掛けがなくて大丈夫か?」と心配しましたが、後半、松坂さんが、(マル暴刑事として)成長していくプロセスは、役所さんを食っちゃうくらいの勢いの迫力で、たいそう盛り上がりました(特に養豚場の息子を殴るシーンが良かった)。

ということで、期待をはるかに上回る出来で、もっと評価されていい作品だと思いました。(評価や動員がイマイチのように思えるのは)ヤクザ映画らしい多少どぎついシーンがあるのと、時折挿入されるナレーターが興ざめ(それともこれもヤクザ映画としてのお作法?)なせいでしょうか?
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