蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

慈雨

2019年11月30日 | 本の感想
慈雨(柚月裕子 集英社)

刑事を定年退職した神場は妻と四国八十八か所札巡りの巡礼に出る。現職中に捜査した幼女誘拐暴行死事件の犯人が実は冤罪ではないのかとの疑いを持っていたが、巡礼中にその事件と似たような事件がおこり、その疑念が深まる。かつての部下で(現在の事件の捜査に携わっている)緒方に連絡をとるが・・・という話。

昔なつかしい、スポ根系?ド根性刑事物語。
主人公が巡礼にでちゃうというのも今時じゃないよねえ。なんというか「太陽に吠えろ!」より前の刑事モノって感じ。
著者の作品は「孤狼の血」しか読んだことがないけど、そういえば「孤狼の血」も「仁義なき戦い」を彷彿とさせるクラッシックさ?があったなあ。
また、再犯性が高いといわれる幼児性犯罪なのに、どうして真犯人は長年再犯に及ばなかったのか?というのが本書の(警察小説としての)キモなのだが、その理由は他の小説でも読んだことがあった。

各種の書評やランキングで高く評価されているのは、一周回って今ではかえって真正面から描かれた刑事物語が新鮮なせいなのだろうか。
「孤狼の血」は懐かしい感じがとても上手に消化されていて感動を呼んだのだけど、本書は(私にとっては)ベタすぎてうまくついていけなかった。
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孤狼の血(映画)

2019年02月09日 | 映画の感想
孤狼の血(映画)

すでに原作を読んでいたので、映画化の話を聞いたとき、役所さんと大上はフィットしないのでは?とちょっと心配でしたが、もう冒頭から大上その人としか思えませんでした。
さすが、俳優としてモノが違う、というところでしょうか。

原作ではどんでん返しっぽく描かれていた日岡(松坂桃李)に関する設定は、早々にタネ明かしされてしまったので、「肝心の仕掛けがなくて大丈夫か?」と心配しましたが、後半、松坂さんが、(マル暴刑事として)成長していくプロセスは、役所さんを食っちゃうくらいの勢いの迫力で、たいそう盛り上がりました(特に養豚場の息子を殴るシーンが良かった)。

ということで、期待をはるかに上回る出来で、もっと評価されていい作品だと思いました。(評価や動員がイマイチのように思えるのは)ヤクザ映画らしい多少どぎついシーンがあるのと、時折挿入されるナレーターが興ざめ(それともこれもヤクザ映画としてのお作法?)なせいでしょうか?
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孤狼の血

2017年10月03日 | 本の感想
孤狼の血(柚月裕子 角川文庫)

広島・呉原市の東署の刑事・大上は、長年暴力団担当を務め、地元の組に多くのツテとコネを持つ敏腕だったが、一方で暴力団との癒著を疑われてもいる。
その相棒として若い刑事・日岡が赴任してくる。日岡は大上の一線を越えた強引な捜査に驚くが・・・という話。

本書の解説によると本書は映画「仁義なき戦い」シリーズに発想を得たものらしく、広島を舞台とした組同士の抗争を描く点がよく似ている。
私は、中学〜高校生の頃、知り合いの人から映画館への招待券(今思うと、東映の株主優待券だったと思う。その人自体は映画をあまり見ないのでいつも余っていたみたい)をもらっては「仁義なき戦い」シリーズやその他の(実録系)ヤクザ映画を見にいった。(今だったらR指定とかで入れなかったと思う)
よく、ヤクザ映画を見てきた人が歩く姿はヤクザっぽくなって肩で風切っている、なんて言われたものだが、単純な私も「仁義なき戦い」シリーズを見た後は、気が目一杯大きくなってしまっていた(そしてそれが気持ちよかった)ことをよく憶えている。

本書もラスト近くのドンデン返し〜結末に至る部分にカタルシスがあって、それまで読んできた読者の中に溜め込まれたエネルギーが一気に解き放たれるような爽快感がある。(途中では説明調の部分があったりして、ややモタつき気味の箇所もあるが・・・)

これも解説によると、本書は映画化され(しかも大上役は役所広司)来春公開、続編は雑誌連載中という。どちらも非常に楽しみだ。
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