蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

月の満ち欠け

2017年07月25日 | 本の感想
月の満ち欠け(佐藤正午 岩波書店)

主人公の娘は前世の記憶をもっているらしかったが、主人公は、娘も、娘の言うことを信じている妻も精神的な病なのでは?と疑う。妻と娘は事故で死んでしまうが、娘のさらに生まれ変わりだという子供が出現して、彼女たちが共通して持っている瑠璃という女性の記憶は何代も引き継がれていることがわかる・・・という話(ホラーではありません。恋愛小説です)。

相当にややこしい筋なのにとてもわかりやすく展開され、著者の作品によくあるパターンなのだが、最後まで読むともう一度最初から読みたくなるというふうに収拾されているところが、相変わらずうまいなあ、と思った。

佐藤さんというと文章力の素晴らしさが強調されることが多いように思うが、ストーリーの構築力(シナリオ作りみたいなもの)の方がより力強いと私は思う。

佐藤さんの作品では、しごくまっとうな人生を送っていた人が、ふとしたきっかけからどんどん変な方向に曲がっていってしまう、というパターンが多いのだが、その、どんどん曲がって落ちて行ってしまう感が(どの作品でも)スピーディでスリリングで何とも言えない緊張感がある。本作では正木竜之介のエピソードがそれにあたっていて、このパートが一番楽しんで読めた。

さて、本作は直木賞を受賞したのだが、例年のように「まだ貰ってなかったっけ?」「審査する人より受賞者の方がうまいのでは?」「今さら何で」といった感想を持ってしまう。
それに出版社が岩●ではちゃんと拡販?してくれるのだろうか?なんて余計な心配までしてしまう。長年の著者のファンとしては。
「鳩の撃退法」の時は、けっこう版元が力を入れていて、珍しく著者が新聞のインタビュウに登場したりしていた(若い時の写真しか見たことがなかったので、新聞の写真みてふて老けていらっしゃる(失礼)のにびっくりした)のになあ・・・本書の発売は本屋の店頭で見かけるまで気がつかなかったぞ。

直木賞受賞の次回作としては不適当かもしれないが、次は、満を持して競輪(の客でも選手でもいい)をテーマにした、どっぷりギャンブルに浸かった人(私小説だとなおいいと思う)の話がいいなあ。
コメント
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