蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

兵士は起つ

2016年01月13日 | 本の感想
兵士は起つ(杉山隆男 新潮文庫)

東日本大震災の救助活動にあたった自衛隊員の活躍を描くルポ。

著者の「兵士」シリーズでは、比較的少数の(やや特殊な体験をした、そして多分かなり優秀な)自衛隊員への取材をまとめたルポだったため、各人ごとにかなりつっこんだエピソードなどが盛り込まれた内容で、いずれも読みごたえがあった。
本書では広く浅くできるだけ多くの隊員の活躍を描こうとしたと思われるが、そうかといって自衛隊の救助活動全体が浮かび上がるような構成にもなっておらず、やや中途半端かな、という印象があった。

本書に登場する隊員の献身的な努力と成果はいずれも感動的なレベルで、国民として税金を払っている甲斐がある、と思わせてくれる。しかし、隊員全員がそうだった、というわけでもないだろう。「兵士」シリーズ全体がそうなのだが、自衛隊礼賛な視点がやや鼻につかないでもない。

本書によると、自衛隊の救助活動のために自宅を一時的な避難場所として提供した人もいればそうした要請を断った人も多かったそうだし、店番がいなくなった小売店で何者かによる空巣行為が頻発していたらしい。
そうした、きれいごとばかりでもなかったよ、といった場面も本書には描かれているのだが、自衛隊員については、全員模範的なこうどうをしていたかのような描写しか出てこないのはちょっと残念(怠慢な隊員は本当に皆無だったのもしれないが・・・)。
救助活動において発生した問題点を指摘する部分もあってもよかったと思う。
コメント
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