蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ダンスホール

2014年11月09日 | 本の感想
ダンスホール(佐藤正午 光文社)

語り手は、競輪が趣味で文章に拘りがあるという、著者自身を思わせるような小説家。一方、主人公は九州に実家があり、離婚した妻が再婚しようとしている男の現在の妻が実家の近くにいるらしいので、実家に帰ったついでに離婚届を貰ってきてほしいと頼まれる。現実にはこんなことを引き受ける人はいないと思うが、物語なので主人公はあっさり引き受けて2回もそのために東京から九州へいくが、なかなか元妻の再婚希望相手の現配偶者(ややこしいな)に会うことができない・・・という話。

「死に様」というテーマで作家が競作するという趣向のシリーズ。
妻との離婚等があってスランプに陥った小説家は、死を考えるが、競輪で万車券を取って立ち直る・・・というのはウソ(そういう場面はあるが、著者の願望っぽい。もっとも著者は本命党のはずだが)で、主人公の人探しに付き合ったり、昔からの知り合い(護国寺さん)の死に立ち会ったりしているうちに、再度小説創作への意欲がわいてくる。

物語の中で死に様をさらすのは護国寺さんだけなんだけど、この人に関するエピソードは謎めいたほのめかし程度なので、「死に様」というテーマにはそぐわないような気もしたが、佐藤さん愛読者としては、いつものように、几帳面でハードボイルドなのにどこか破綻している登場人物たち(作家、主人公)が若干のミステリ風味の物語で、気怠く活躍?する小説に十分満足できた。
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ブラバン

2014年11月09日 | 本の感想
ブラバン(津原泰水 新潮文庫)

広島の高校の吹奏学部でコントラバスを担当していた主人公は、卒業後は音楽から離れてしまっていた。
しかし、吹奏楽部の先輩が、自分の結婚式の披露宴でかつての部員でバンドを再結成して演奏してほしいと言いだしたため、元部員たちを探し始める・・・という話。

著者略歴からすると、著者自身の経験に基づく物語と思われ、そのせいか登場人物が多すぎて(ホントは著者が書きたいことの)多くが語り切れていない感じがした。

「11」を読んで感銘したので、他の著作を読んでみようと手にしたのだが、SFやミステリ色は全くない、純度の高い青春小説だった(コントラバスを電装化?するくだりがとても面白くて、このあたりはSFっぽいムードだった)。もっとも、青春小説にしては若干恋愛方面のカラーが薄目であったが。

本筋と全く関係ないのだが、主人公が、広島を訪れたヨハネ・パウロ二世のスピーチを聞いて感動する場面(法王が「センソーワ」(戦争は・・・)から始まる日本語でスピーチした)が印象に残った。
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